第26話 小花のモチーフ
その後、わたしは文化祭用の作品をひたすら編み続けた。
ヘアアクセサリー用のパーツを六十個分、キーホルダー用のパーツを六十個分。
今更だけど、梓先輩が衣装と併せてやろうとしていたと思うと、背筋が凍り付く。
だけどわたしは梓先輩のように作業ペースが速くない。
わたしは肩こりなどの疲労と闘いながら、時間をかけて丁寧にパーツを編み続けた。
文化祭三日前の十九時。今日は部活がなかった。
速攻で家に帰ったわたしは部屋に籠って小花のモチーフを編んでいた。
綺麗に編むのがちょっと難しかったけど、もう百個以上編んだらコツを掴んだような気がする。
要は引き出す糸の長さを均一にすればいいんだ……!
確実に上達している。あんなに難しかった輪の作り目だって、今では成功率百パーセントにまで上がった。
十分ほどで小花のモチーフをささっと編み上げると、糸処理をして大きく背伸びをする。
ここ最近、肩や首筋、背筋がひどく凝り固まってしまった。肩を回したり、ストレッチをしたりして誤魔化しているけど、こんなにキツいとは思わなかった。
肩こりって、こんなに大変なんだな。
わたしは勉強机から立ち上がって、大きく肩を回したり、揉み解そうとしたりした。
すると扉の向こうからノックの音が聞こえてきた。
「マリア、ご飯よ」
ママの声だ。
時計を見てみると、既に二十時を回っていて夕食の時間になっていた。
やっぱり編み物をしていると時間の流れがとてつもなく早く感じる。
「今行くー」
ママに返事をすると、くず糸をゴミ箱に捨てて、危ないからかぎ針などを片付けた。
一階へ降りると、パパとお姉ちゃんはまだ帰って来ていなかった。
今日はおばあちゃんお手製のマルゲリータピッツァだった。おばあちゃんのピッツァはどれも絶品で小さい頃から大好きだ。
先にママとおばあちゃんと一緒に夕食を食べ始めると、ママがわたしに尋ねた。
「マリア、文化祭準備はどう? 楽しい?」
わたしはコーラを一口、飲んでから答えた。
「けっこう大変だけど、楽しいよー。モチーフをたくさん編んでたら、いつの間にか上達してたし、基本的にはいい事だらけだよ」
たまに河田先生が予算とかを相談しに顔を出す事もあるけど、最終的には愚痴を零してイライラしながら戻って行く……。本当に意味が分からない。
だけど、不満は河田先生くらいだ。
河田先生の愚痴以外は本当に楽しい。特にここ数日間は準備も本格的になってきて、まだ早いけど学園全体がお祭り騒ぎだ。
するとおばあちゃんがわたしに尋ねた。
「クラスの催し物も順調なのかい?」
「うんっ! おばあちゃんのおかげで美味しいピッツァが出来上がったんだよー!」
わたしのクラスの出し物は石窯で作る本格ピッツァ。わたしがイタリア人のハーフだから、気付いたら「ピッツァにしよう!」って話になっていた。
石窯はレンガなどで手作りしたし、ピッツァもおばあちゃん直伝のレシピだ。おばあちゃんのピッツァとは違った美味しさがあると、自信を持って言える。
「けっこうバリエーションもあるから、遊びに来てねー!」
「まあ、楽しみだわ」
おばあちゃんが無邪気に微笑むと、わたしも微笑み返して最後のピースを頬張った。
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