第25話 決意を胸に
「えっ……!? どうしたの、急に?」
椿部長だけじゃなく、翔真先輩も、楓ちゃんも、他の先輩たちも目を見開いて驚いていた。
もちろん、梓先輩も。
だけど梓先輩はどこか自嘲的に笑いながら、わたしに向かって言ってきた。
「胡桃沢、そんなに心配しなくても俺は平気だって。ちょっと睡眠時間削れば、多分間に合うから」
「だけど梓先輩、さっきから眠そうにしてますよね?」
わたしの言葉に梓先輩は沈黙してから、目線を逸らした。
「……してねぇし」
「わたしの目を見て言ってくださいよ」
「…………」
痛い所を突かれたのか、梓先輩は何も言って来なかった。
わたしは梓先輩の目を見つめながら、はっきりと告げた。
「わたしだって手芸部員なんです。一年生だからって作業量減らされる理由にはなりませんし、梓先輩ばっかり大変な思いをするのはおかしいですよ」
「…………けど、すごい量だぞ?」
「衣装を作るよりはまだマシだと思いますよ。わたしだって、小物くらいなら編めます」
全ては憧れの『ホエールズ・ラボ』さんを手助けする為。
ファンとして、こんなに嬉しい事はないだろう。
わたしは改めて椿部長に頭を下げた。
「椿部長、お願いします! 絶対に期限までに作り上げますから!」
「…………」
椿部長はしばらく黙り込んだ。
息が詰まるような沈黙。重く、重く圧し掛かる。
苦しい……っ。
わたしは唇を噛み締めた。目を瞑り、沈黙の重みに耐える。
何秒経ったか、分からない。
頭を下げ続けたわたしに、椿部長はようやく口を開いた。
「マリアさん」
「は、はい……」
わたしは反射的に顔を上げると、椿部長はやんわりと微笑んでくれた。
「無理だと思ったらすぐに言って。私たちも協力するから」
「…………! はい、頑張りますっ!」
沈黙から解放されて、ぱあっと表情を明るくしたわたしは宣言した。
「ちょっ、姉貴!? 何を勝手に……ッ!」
梓先輩が噛みつこうとしてきたけど、椿部長はやんわりと諭してくれた。
「いいじゃない、実際人手不足なんだから」
「そ、そりゃあそうだけどよ……」
「後輩さんがここまで言ってくれたんだから、梓さんもとびっきりの衣装を作ってね。まさか出来ない、なんて言わないわよね?」
挑発的な椿部長のおかげで梓先輩に火が付いたようだ。
いつものむすっとした表情だったけど、梓先輩は告げた。
「……んなわけねぇだろ。やってやろうじゃねぇか」
「じゃあ決まりね」
椿部長がパンッと両手を合わせると、わたしに材料の場所を教えてくれた。
「マリアさん、後ろの方に『文化祭用』っていう紙が貼ってあるカゴに材料があるから。足りなくなったら言ってね」
「分かりました!」
張り切ったわたしは椿部長に向かって元気に返事をした。
絶対にやり遂げよう……!
わたしは決意を胸に、家庭科室の後ろの方にあるカゴからいくつか毛糸を取り出した。
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