第24話 『ホエールズ・ラボ』のファンとして
「梓先輩、ちょっと無理があると思いますよ。『ホエールズ・ラボ』の撮影だってあるのに……」
「去年も同じくらい出来たから大丈夫だって」
「で、でも……」
「大丈夫だって……ふぁあ」
梓先輩は作業に集中したまま、一切聞く耳を持ってくれなかった。
だけどさっきから眠たそうに目を擦ったり、欠伸をしたりしている。
絶対に疲労が溜まっているはずなのに、これ以上無理なんてしたら……。
『ホエールズ・ラボ』のファンとして、倒れるような事は欲しくなかった。
わたしが梓先輩に言おうとすると、ちょうど椿部長が戻って来たけど、その表情は疲れが滲み出ていた。
椿部長はうんざりしたように溜息をつくと、翔真先輩が声をかけた。
「駄目だった? 椿ちゃん」
「……話すら聞いてもらえなかったわ」
「うわ~……やっぱりか。マジで自分の事しか考えてねえな~、バカワタ」
翔真先輩が天井を仰いで髪を掻くと、梓先輩が諦めたように息をついた。
「……分かったよ。衣装、俺がやる」
「えっ……? 兄貴、これ以上作業量増やして大丈夫なのか!?」
楓ちゃんの言葉にわたしも頷く。
先輩がどんな衣装を作るかは分からない。だけどあみぐるみや小物と一緒となったら絶対に体調を崩してしまう。
梓先輩は腕を組んで考え込むように唸ってから、短く呟いた。
「……なんとかなるだろ」
「…………!」
なんとかなるはずがない。理不尽な作業量にわたしは小さな怒りが込み上げてきた。
勝手にファッションショーにエントリーしたのは河田先生だ。
なのに、どうしてわたしたちが苦労しないといけないのだろう。
梓先輩だって『ホエールズ・ラボ』としての活動がある。人の自由な時間を削ってまで作業をさせるなんて、絶対におかしい!
だけど椿部長の話すら聞かなかったような先生だ。わたしが直談判しに行った所で河田先生は相手にすらしてくれないだろう。
わたしは深呼吸をして、やり場がなくてどうしようもない怒りを落ち着けた。
今は文句を言っている時間すらもったいない状況だ。
沈んだ空気の中、わたしは椿部長に訴えた。
「椿部長、梓先輩の担当分の小物、全部わたしにやらせてください!」
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