第23話 ルピナス学園の汚い部分

 自由を謳うルピナス学園の汚い部分を見たような気がして、なんだか悲しかった。

 昨日から繰り広げられている椿部長と梓先輩の言い争いは結局、決着がつかなかった。

 二人とも深く溜息をつくと、梓先輩はパイプ椅子に腰かけてかぎ針を手にした。

「とりま、作業進める」

「分かったわ。無駄だろうけど、交渉してくるわね……」

 椿部長はしんどそうに呟くと、重たそうな足取りで家庭科室を出ようとした。

 振り返ると、ようやくわたしたちに気が付いたようだ。

「あらまあ、マリアさん、楓さん、翔真さん」

「こんにちは。なんだか……大変そうですね」

 わたしが心配して言うと、椿部長は少し疲れたように、だけどやんわりと微笑んだ。

「……そうね。だけどわたし、部長さんだから」

「…………!」

 強いな、椿部長……。

 家庭科室をあとにした椿部長を見送ると、その背中はすごく美しかった。名前の通り、踏まれても咲き誇る花のようだった。

 少しでも支えになりたいな……。

 わたしが思っていると、翔真先輩は梓先輩の肩を叩いた。

「で、どうすんだよ。ファッションショーの衣装」

「どうしようもねぇよ。あーあ、バカワタの気が変わってくれねぇかな……」

 溜息をついて天井を仰いだ梓先輩に、わたしはいくつか聞いてみた。

「梓先輩、文化祭用の作品ってどのくらい作らないといけないんですか?」

「えっ? そ、そうだな……」

 梓先輩はちょっと驚いたような顔をしてから、作業机にあった紙をわたしに手渡した。

 わたしが受取った紙には作品数の個数と、誰が作るのかがメモ書きされていた。

 ざっと目を通すと、わたしは思わず顔を真っ青にしてしまった。

「多少前後するだろうけど、最低ラインだな」

 梓先輩はあっけらかんと言ったけど、とんでもない量だった。

 展示物は椿部長や他の先輩たちが分かれて担当していた。

 だけどあみぐるみ、キーホルダー、アクセサリーの大半は梓先輩が担当する計算になっていた。一つひとつは簡単そうだったけど、合計したら……100個以上。

「梓先輩……多すぎませんか?」

 わたしが呟くと、梓先輩は欠伸をしてから答えた。

「俺は兼部してねぇし、かけられる時間が他の部員より多いからな」

 当然のように梓先輩は言ったけど、このメモには納得できない点がある。

「わたしと楓ちゃん……あんまり個数ないんですけど?」

「楓はダンス部が忙しいし、胡桃沢はまだ慣れてないだろ? 俺がフォローするから安心しろよ」

 梓先輩は目を擦りながら当たり前のように言ってくれた。

 だけど……胸のあたりがモヤモヤとするような、悔しさが込み上げてくる。

 きっと梓先輩なりの気遣いなのだろうけど、わたしは素直に頷けなかった。

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