文化祭編

第22話 八方塞がりな文化祭準備

 文化祭まで残り三週間。

 少しずつ学園祭が迫る中、わたしたち手芸部は着々と準備を進めていた。

 火曜日の放課後。

 わたしは楓ちゃんと家庭科室へ向かうと、何故かいつになく騒がしかった。

「何かあったのかな? 楓ちゃん、何か聞いてる?」

「……まだ決着がついてなかったのか」

 楓ちゃんは呆れたように重々しく息をついた。

 何があったのか知らないわたしは首を傾げつつも、家庭科室のドアを開けた。

「だから無理だっつってんだろッ!!」

「やってくれないと困るのよ! もう申請が通って取り消せないんだから!」

「…………」

 騒いでいた声の主は、主に椿部長と梓先輩だった。

 何があったんだろう。姉弟喧嘩、ってわけでもなさそうだし……。

 わたしは呆然としていると、背後から誰かが声をかけてきた。

「なんだよ~、二人ともまだやってたのか~?」

「翔真先輩……何があったんですか?」

 わたしが尋ねると、翔真先輩は「う~~ん」と唸ってから分かりやすく言ってくれた。

「うちの文化祭のイベントのひとつでファッションショーがあるんだ。申請した各部活からひとり出場者を決めて、オリジナルの衣装やその他諸々で競い合うんだよ」

「へぇー、楽しそうですね! 何が問題なんですか?」

 わたしの言葉に翔真先輩は深く溜息をついた。

「出場者は決まってるんだけど……その衣装作りを誰がやるかっていうので揉めててさ」

「えっ? 椿部長か、梓先輩じゃないんですか?」

 技術的にもずば抜けている二人だ。編み物で衣装ってどんなものか想像つかないけど、わたしはてっきりそうなるのだろうと思った。

 だけど翔真先輩は首を横に振った。

「椿ちゃんはなんだかんだ忙しいし~、アズもアズで文化祭用の作品作らなきゃだし~」

「他の先輩たちは?」

「兼部してる子たちが多いから、時間ないって言ってるんだよな~……」

 うわあ、詰んでいる……。

 わたしは表情を引き攣らせながら笑う事しか出来なかった。

「つかなんで相談もしないで申請しちまったんだよッ!?」

「河田先生が勝手に申請したのよっ!」

「あんのバカワタがああああっ!」

 また河田先生か……、わたしは呆れて溜息をついてしまった。

 全く部活に顔を出さないくせに、自分の名誉や利益になる時だけ勝手に首を突っ込む。

 先輩たちが河田先生を嫌っているのが、最近分かるようになってきた。

 すると楓ちゃんがどこか疲れたように息をついた。

「昨日からずっとああだよ。今から申請を取り止められればいいんだけど、河田先生が許す訳ない、というのは一致していてね……」

「八方塞がりだね……」

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