第169話「非効率なのはNG②」

 蛍はと言うと彼らの背中を見送ってから、視線を俺へ戻す。


「エースケ殿はどうなさるおつもりですか?」


 このまま何もしないつもりなのか、と彼女の眼は言っているようだった。

 蛍の洞察力はけっこうすごいって設定があったっけ?


 疑問に思ったが隠せそうにないし、彼女だけは知っておいてほしいのでこっそりと言う。


「学園に怒られない範囲で活動しつつ、敵が引っかかったら俺たちが倒してしまってもいいと思わないか?」


 小声で言うと蛍は一瞬息を飲み、目を丸くする。

 さすがの彼女も想定していない意見だったらしい。


「たしかにアリですが、それがしたちで勝てるのでしょうか?」


 彼女の疑問はもっともだった。


「わからない」


 敵が初期ガルヴァならおそらく蛍一人で勝てるはずだが。

 

「だから危ない橋を渡るかどうかだな」


 俺一人だと間違いなく死ぬので、蛍にその気がないなら諦めるしかない。

 

「勝算がおありなら反対はしませんが」


 彼女は俺の内心を探るような目つきになる。


「どうなのでしょう?」


「実は何とも言えない」


 俺は正直に言った。


「魔物使い系なら一対一に持ち込んでしまえば蛍なら勝てると思うけど、相手が一人かどうかわからないのが問題なんだ」


「なるほど……魔物使いにそうそう遅れをとるとは思いませんが、腕利きの護衛がついているとなるとたしかに話は別ですね」


 蛍は怒らず不満を見せず、納得してくれる。

 強いのに理性的で判断力もあるのが彼女のいいところだ。


「調査してまず護衛がいるかどうかだけでも見きわめるというのはどうだ?」


 俺が提案すると彼女はこっちをじっと見てくる。


「たしかに敵を知るのは常道ですが、具体的な方策はお持ちなのですか?」


「……それは今考えている」


 彼女の疑問はもっともだ。 


 最悪出たところ勝負で、ガルヴァとエンカウントするまで巡回って思っていたんだが、さすがにそれは反対されてしまうか。


「無策だと非効率ですし、学園側に知られる危険もあって現実的ではないかと」


 蛍に優しく諫められてしまう。


「そうだな」


 学園にバレる前に敵を始末することを目的にする場合、非効率で目立ちやすい作戦はボツにするべきか。


「じゃあ何か考えておくけど、蛍は何か名案を持っていたりしないか?」


 彼女は頭脳労働が得意なタイプじゃないけど、だからと言って馬鹿にはできない。

 何かいいアイデアを思いつくヒントを聞けるかもしれないし。


「敵の行動さえ予想できれば、それがしの知覚範囲に引っ掛けることは可能だと思うのですが」


 と蛍は言った。


「敵の行動か……」


 てんこ森とほこらの位置を考慮しつつ、原作での情報を思い出す必要がありそうだ。


「この学園の図書館ってどこにあるんだっけ?」


 図書館なら学園周辺の地図が置かれているだろうし、ダンジョンの位置だって掲載されているだろう。


「よければそれがしが案内しましょうか?」


 蛍は気を利かせてくれたが、まさにそれを期待していたんだ。


 何でも知っていると思われるのは時々重すぎることになるし、何者なんだと警戒されることだってあるかもしれない。


 手遅れにならないうちに、多少下方修正しておこう。

 もしかしたら大して効果は期待できないかもしれないが。


「ああ。よろしく頼む」


「かしこまりました」


 蛍は微笑んで立ち上がったので俺も倣う。

 

 

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