第118話「何も聞こえなかった」

「どんなメンバーになるのかわからないのは困りますね」


 蛍がもう一つの問題点を指摘する。


「そうだな。まあメンバー次第で断るってのはありだろう」


 さすがにそこまで強制力なんてないからな。

 ぶっちゃけ上級生にしてみれば俺たちにこだわる理由がない。


「断れるのかな?」


 アインが心配を口に出す。


「うげ」


 ウルスラがいやそうに顔をしかめる。

 強制されるのきらいな性格だったら、一年に拒否権はないって言われるのもいやだろうな。


「そこは心配しなくてもいいだろう」


 俺が言うとアインとウルスラが物問いたそうな視線を向けてくる。


「だって上級生は一年をかばう経験を積むのが目的なんだ。俺たちにこだわる理由がないだろ」


 理由を明かすとアインは納得し、ウルスラはさっきとは違う意味でいやそうな顔になった。


「適度にお荷物になるなら誰でもいいってことかよ。理解はできるが、ナメられてる感じがして気分わりーな」


 まあ期待されてないことは確実だもんな。

 アインはそのほうがいいみたいだし、蛍は特に気にしてないようだったが。


「その分、一年じゃ行けないエリアに連れて行ってもらえるんだろうから、怒ると損するぞ」


 一応忠告はしておこう。

 わからないほどウルスラは馬鹿じゃないと思うんだが。


「わかってんよ。さすがに気分で利益をぶち壊しにするほどガキじゃねーよ」


 ウルスラはようやく機嫌をなおして白い歯を見せる。

 

「ああ。信じてるさ」


 と言うと彼女はきょとんとした。


「何かサラッと言うよな、エースケって?」


「エースケってこういうところがね。すごいよね」


 単純に驚いただけらしいウルスラとは違い、アインの言葉には何やら含みがありそうである。


 もっとも単純に質問したところで答えてくれるとは思えないが。


「はっきりと信頼を向けて応えたいという気持ちになるのは、間違いなくエースケ殿の美点でしょう」


 蛍が笑顔で話す。

 間違いなくフォローしてくれたので、目礼すると微笑される。


「だなー、エースケは何かそういうとこがあるんだよなー」


 ウルスラは頭の後ろで手を組んでもたれかかり、椅子をきしませた。


「わかる」


 アインがコクコクうなずく。

 そうなのか? 自分ではさっぱりわからん。


 ただ、パーティーメンバー集めがスムーズにいった理由はと言われると、そういうことなのかもしれない。


 まあちょっとくらいは関係あるだろ。

 適当にそんな風に片づける。


「じゃあ先輩たちには俺から伝えておくよ。全員参加でいいよな」


「うん」

 

 アイン以外は首を縦に振った。


「どんな強敵と戦えるのでしょうか」


 蛍がうずうずしてるような顔で遠くに目をやる。

 鍛錬ダンジョンの第五階層くらいまでなら、全然物足りないんだろうな。


「一年の出番はないんじゃね? エースケの予想が当たってるならだが」


 ウルスラが彼女に無慈悲な指摘をする。


「あっ、そうでしたね……」


 蛍はハッと我に返って落ち込む。


「いや、まったく出番がないとはかぎらないから。腕試しに戦えって言われるかもしれないから」


 ひとまずフォローを試みた。

 めったに落ち込んだところを見せないだけに、どうしてもあわててしまう。


「い、いえ、大丈夫です。それがしはそんな戦闘狂じゃありません」


 蛍は何とかとりつくろおうとするが、ぎこちない。

 そこがかわいいな。


 普段はおとなびてるだけにギャップが大きい。

  

「蛍が満足できる強敵、用意できたらいいんだが。不甲斐ないリーダーですまない」


 謝ると彼女は大いにあわてる。


「そ、そんな! エースケ殿はとても賢明なリーダーだと思います! それがしは何の不満もありません!」


 一生懸命なぐさめてくれたので、彼女に悪いことをした気分になった。

 とりあえずこれからもがんばっていこうと思う。


「砂糖を吐きそうじゃね?」


「わかる」


 ウルスラとアインの言葉は何も聞こえなかった。

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