第97話「仲間と食う飯はそれだけでうまい」
錬成をノルマのごとく終えると、部室の外で待ってたウルスラに声をかける。
「お待たせ」
「いいって。いつかボクの装備を作ってもらえると思えば平気だぜ」
ウルスラはニカッと笑いながら壁にあずけていた背中を離す。
「ああ、その時は仲間価格にしておくよ」
「それっていいのかよ? 仲間だからこそきっちり払わなきゃダメなんじゃね?」
ウルスラに言われて迷う。
仲間だけ特別扱いするのはいいと思うんだけどな。
ただ、俺が思ってるだけで一般的じゃないって可能性は無視できない。
「どうなんだろ? 仲間だと実質素材集めをやってもらってるようなものじゃないか? その点引くのが筋だと思うんだよな」
「あ、そっかぁ」
ウルスラは俺の指摘にポンと手を叩く。
どうやらそこまで考えてなかったようだ。
そこで近くで聞いている蛍に問いを向ける。
「蛍はどう思う?」
「難しいところですね。素材集めは本人にとっても必要なものなのですから、エースケ殿だけがやってもらったという扱いにはできないはずです」
蛍の返答はもっともだ感じられるものだった。
「そうなるか……その都度相談、くらいの気持ちでいたほうがいいのかな」
「杓子定規に決めているよりはずっといいと思われます」
蛍の言葉にうなずいた。
「そうするか。別に今決めておかなきゃいけないもんでもないしな」
「それでいこうじゃねーか」
ウルスラも賛成する。
「適度にテキトーな感じがいい」
彼女は気に入ったようだ。
「何というか、僕ららしいよね」
アインもそんな言い方で同意を示す。
「よし、決まったところでウルスラの歓迎会だ」
俺は無理やりに次の話題を出した。
「そうだね。どこにする?」
アインはウルスラに聞く。
「ボクに聞くのか」
ウルスラは自分を指さして目を丸くする。
「こんなのサプライズするのは難しいし、サプライズって外すと悲しいよな」
と俺は言った。
「たしかにな」
ウルスラは感じるものがあったのか、腕組みをして深く同意する。
「ノヴァク殿の食べたいものでよいのではないでしょうか?」
「おう」
蛍の提案に彼女はうなずいてから言った。
「じゃあ肉がいいな。美味い肉をがっつりと食いたい」
この答えは予想通りである。
ゲームの時もだいたい肉を食っていたからな。
肉食女子、肉食系ローグという人だっていたくらいだ。
となるとあそこの店がいいかなと考える。
ゲームの時、ウルスラが肉を食った回数が一番多い店『グツグツクック』。
まだ確認してはいないが、おそらく存在はしているだろう。
「じゃあ美味い肉を食わせてくれそうな店を探すか」
そう言ってから予防線を一応張っておく。
「俺たちも一年だからまだいい店には詳しくないぞ」
「そんなの別にいいさ。仲間と食うメシはそれだけで美味いんだぜ?」
ウルスラは無邪気に白い歯を見せてくる。
ヒロインパワーはさておき、友情パワーが圧倒的に高いのは同じか。
「いいこと言うなー」
アインが感銘を受けている。
ここもゲームの時と同じだ。
しめしめと思うのはちょっと気が早いかな。
蛍の意見を聞いてみたいが、タイミングを見計らわないとまずいだろう。
「店を探すために一度解散するか? それともみんなで行くか?」
俺はみんなの意見を聞いてみようと判断を投げる。
「一緒でいいんじゃねーの? 一階別れた後、もう一回集まるって手間じゃね?」
とウルスラは言う。
彼女の意見はもっともだった。
スマホが普及した日本だったら何もめんどうじゃないんだけどな。
こっちの世界だと連絡手段はかぎられてるからなぁ。
「ロングフォード先輩のように、使い魔を使いこなせる魔法使いがいれば別ですけどね」
蛍がそんなことを言った。
「そうなんだよな」
使い魔なら電話代わりは無理でも伝書鳩代わりには使える。
魔力を覚えさせておけば散らばった仲間のところに駆けつけることもできるだろう。
もちろん相応の実力が不可欠だし、一年に要求するのは酷なんだが。
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