第69話 何事も向き不向きがあるものさ

「僕はどうしようかな……」


 アインが思案げにつぶやく。

 俺はともかくこいつは蛍がいないと厳しいんだよな。


「先輩はどう思います?」


 どうするかだが、同じ部のメンバーである以上リプレに投げてもいいだろう。


「あら、それじゃ掃除とか物品の整理整頓とかお願いしてもいい?」


「わかりました」


 いやな顔をせずに引き受け、素直に指示に従うアインの背中をながめて自分の仕事に集中する。


「おや、シジマ、今日はいるのか」


 エドワードに不思議そうな顔をされた。


「ええ。錬成スキルも何とかしたいですね」


「うむ。錬成スキルレベルがⅣになれば、作れるものが一気に増える。はげんでくれ」


「はい」


 返事をしてから俺は聞いてみる。


「先輩たちのスキルレベルってどれくらいなんですか?」


 サブでもない脇役たちの平均はもう忘れかけだ。


「俺がⅤだ」


「私はⅣよ。そう考えると、やっぱりシジマくんはモンスターよね」


 エドワードとリプレの答えである。

 後者には何かついてきた。


 一年でⅣになるのはかなり速いのか。

 と言ってもまだ大したことはしてないんだよな。

 

 錬成をやるだけやってさてどうするかとなる。


「やっぱり俺もアインを手伝おうかな」


 同じ一年のアインがやってるのに、俺が知らん顔するわけにもいかない。


「え、一人でも何とかなりそうだよ?」


 当の本人はのほほんとそんなことを言う。

 けっこう大変そうなのに、雑事をこなすスキルの高さは主人公かよ。


「それに僕は錬成スキルがないからこういうことで役に立ちたいんだ」


 性格も主人公です。


「お前をここに誘ったのは俺なんだぞ。一人でやらせて放置ってわけにはいかないよ」


 いいから手伝わせろと混ざりにいく。


「ああ、もう二人でやってね」


 リプレからあきれた声での指示が飛び、事態は決着する。


「わかりました」


 俺たちは仲良く一年の仕事をこなした。

 一時間くらいすると、リプレが声をかける。


「お疲れさま。休憩してね」


「よく働いてくれるなぁ。ほれ、お茶だ」


 とエドワードが二人分のお茶を出してくれた。

 どっちも普通のお茶だが、働いたあとだから美味い。


「エドワード先輩がいれたお茶、美味しいですね」


 とアインが褒める。


「先輩は得意なのよね、こういうの」


 リプレが笑いながらそう言ったあと、自嘲した。


「私は苦手だからちょっとうらやましいわ」


 意外だなと思ったが黙っておく。

 何も女性がお茶をいれたりするのが上手ければならない、なんて法はないんだから。


「何事も向き不向きがあるもんさ」


 エドワードはそう言って笑う。


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