第64話 シェラはけっこうこわい

「もう販売がはじまってたんですね」


「そうなのよ。私たちも昨日の夜初めて知ったのよ」


 フィーネは怒りをにじませて返答する。


「とんだ不手際。恥だと思う」


 シェラは恥ずかしそうに言った。

 二人も知らされてなかったパターンか。


 忙しさを理由に俺への連絡を後回しにしていたというよりも、ずっとありえそうな話だ。


 二人は名門貴族出身とは思えないいい人だが、二人の実家は別にそうじゃなかったもんな。


「名門貴族でも凡ミスってあるんですね」


 と言うと二人の表情がほろ苦いものになる。

 だがすぐに表情は切り替わった。


「そういうことにしておいてくれるとありがたいわ」


「きつく言っておく」


 二人に思わぬ形で貸しを作れたらしい。

 この二人は義理堅いタイプだから、そのうち返してもらおう。


 カードをしまい去ろうとしたら呼び止められる。


「ダンジョン実習の件、聞いたわよ。災難だったわね」


 とフィーネがなぐさめてくれた。

 隣にいるシェラが立ち会っていたのだから、知らないほうが不思議なんだよな。


「あれでシジマくんが何か言われるのは理不尽」


 ごちゃごちゃ言ってるのたぶんあいつ一人だけだろうけどね。

 黙って頭を下げると、フィーネがにやりとする。


「次の実習が楽しみね」


 何でフィーネが次の俺が受ける実習を楽しみにするんだろうか?

 何かたくらんでるのか?


「会長」


 シェラがたしなめる。


「おっと、ごめん」


 フィーネがハッとして彼女に謝った。

 何か失言だったらしいな、珍しい。


「何らかの手を打ってもらえるなら、俺としても安心できます」


 蛍がキレそうだったからな。

 また何かあったら今度は抑えきれる自信はない。


「落ち着いてるわね。シェラが言うように、一年なのか疑いたくなるね」


 フィーネがじーっと観察するように見てくる。

 シェラとあわせて美少女がダブルだった。


 彼女の疑いは実のところ的を射ていると言えるだろう。

 中身は二十数年生きてた日本人なので、ただの十五歳とは一緒にできない。


 できないといいなとちょっと思うが。


「そうなんですか?」


 そんなこと言えるはずもなく、すっとぼけるしかない。


「生徒会の両女神に見つめられて平然としてるあたり、たしかにお前さんはただものじゃなさそうだ」


 とここでパウルが会話に入ってくる。


「パウル、その言い方やめてくれない?」


 シェラが顔をしかめて抗議した。

 

「おっと、失礼」


 パウルは謝ったものの、あまり反省してそうにない。


「美の女神と言われるのがおきらいなんですか?」


 と聞いてみる。


「神さまに失礼よ」


 シェラは大真面目に答えた。

 シェラ、フィーネ、蛍あたりなら失礼にならないと思うが、言っても怒られるだけだな。


「シェラなら失礼じゃないと思うけどね」


「会長、おやめください」


 現にフィーネの発言もシェラははっきり拒絶する。

 フィーネはそっと息を吐いて金色の瞳を俺に移す。


「シェラはこうして頑固なところがあるのよ」


「会長? 一年に何を言ってるのですか?」


 シェラの猫を思わせる青い瞳が細くなる。

 冷えた声とあわせてすごみがあってちょっとこわい。


「おっと、こわいこわい」


 そう思ってないとしか感じられない軽やかな笑い声をたて、フィーネはこの話を終わらせた。


「それじゃシジマくん、戻っていいわよ。わざわざありがとう」


 フィーネに退出許可をもらったので生徒会室をあとにする。

 すると遠くからリヒターらしき人が近づいてきたので、足早で立ち去った。


 ダンジョン実習、明日なんだよなぁ。

 二十九人をいったいどうやってわけるんだろうな?


 

 

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