第63話 振りこみ先

 歓迎会はつつがなく終わり、寮に戻ってきた。

 寝る前にぼんやりと次を考える。


「上級道具袋をゲットしちゃったし、アインと同じ部に入ったからなぁ」


 あとは錬成スキルレベルをⅣにすることが当面の目標だが、それだけだと味気なようにも思う。


 これからのためにアインを強化しておくというのはもちろんあるものの、それ以外にも何か目標を立てよう。


 何がいいだろうか?

 一年段階で入手が可能で、なおかつあると便利な代物。


 錬金術ヒロインの功績を先取りしてしまう心配がいらないものがいい。

 あれこれ考えたすえ、一つのアイテムが浮かんだ。


 空飛ぶ地図というアイテムがいい。


 国内の主要な場所に馬車よりも速く移動できる魔法のアイテムだ。

 国内しか移動できないという欠点があるが、その分入手難易度は低い。


 あれはフィラー金貨十枚だったかな。

 今のペースで頑張っていれば十分手が届く金額だ。


 アインと俺のジョブレベルがある程度あがったら、鍛錬ダンジョンの第五階層に行ってみようかな。


 第五階層には試練モンスター、ギンギラウルフがいるんだが、こいつのドロップアイテムが高値で売れる。


 序盤の資金稼ぎ候補になるし、素材もわりと使い道が多い優秀なモンスターだ。

 試練モンスターは倒さないと次の階に進めないだけで、くり返し倒すことができる。


 ウィガン銀行とウルフATMは大切にしたい。

 よし、当面の目標は決まりだ。


 そうなったところで夢の世界に行く。



 次の日の昼休み、いつもの流れで蛍、アインと三人で飯を食べていたところ校内放送が耳に飛び込んできた。


「一年三組エースケ・シジマくん、食事がすみ次第生徒会室まで来てください」


 思わずむせ返りそうになる。

 お茶を飲み終えたタイミングでよかった。


 じゃなかったら蛍が悲惨なことになってたかもしれない。

 

「大丈夫ですか?」


 その蛍が心配そうに背中をさすってくれる。


「ああ、平気だよ。まさか呼び出しを食らうなんてな」


「何をしたんだよ?」

 

 アインがからかうような顔で言った。

 心配する必要はなさそうだと思ってるからだろう。


「たぶん例の件だな」


 言うまでもなくリバーシの一件である。

 考えてみれば売り上げの受け取り方法とか、一切決めてなかったもんな。


 校内放送を聞いて初めて思い出したんだが、おそらく先輩たちもあとになってから気づいたんだろう。


「リバーシの件でしょうか」


 と蛍が言う。

 彼女もすぐに思いついたようだし、アインも驚いてない。


 それ以外の用件だったらびっくりだよな。

 飯は食い終わってたので一人で生徒会室に行こう。


 蛍はついてきたそうな顔をしていたが、何でも彼女を同伴するのはあまりよくない。


 無意識レベルで頼り切ってしまうようになるかもしれないからな。

 

「承知いたしました。では教室に戻っておきます」


 と蛍は引き下がる。

 ここに残ってアインと雑談に興じるという選択肢はないようだった。


 ちょっとまずい気もするが、どうすればいいのかわからない。

 彼女はあくまでも好意と善意で俺たちの護衛をやってくれてるわけだから……。


 アインもそこまで気にしていないっぽいので、とりあえず先送りにしよう。

 手を打つ必要がない段階で無理することもないだろ。


 生徒会室に顔を出せばフィーネ、シェラ、パウルの三人だけがいた。


「いらっしゃい。呼びつけてごめんなさいね」


 フィーネは両手を目の前で重ねて謝る。


「いえ、大丈夫です。ご用件は何でしょう?」


「リバーシの件なんだけど、あなたの口座番号を教えてくれない?」


 というフィーネの発言にうなずく。

 そうなんだよな、品物が売れた先のことを相談できてなかったんだよな。


 最初ゲームやった時に驚いたものだが、この世界銀行が存在していて口座やキャッシュカードもあるのだ。


 ただしATMはない。

 技術の問題もあるだろうし、治安の問題もある。


 場所によってはモンスターに破壊されるリスクも考慮しなきゃいけないしな。

 そのせいでATMを普及させたら大もうけ、なんてとても思えない。


 財布から青い色のカードを取り出して見せる。


「オウス銀行ね。口座番号は、と」


 シェラがカードの裏面を見てメモを取った。


「使い魔を飛ばすから明日くらいには振り込まれると思う」


 と彼女はにっこり笑って言う。

 もう商品化されてて売れてたのか。


 これから売っていくから口座番号を教えろ、的な理由だと思ってたよ。

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