第40話 シェラ・ロングフォード

 特にパウルは間抜けな顔で俺とシェラをかわるがわる見ていた。


「いいんですか、ロングフォード先輩?」


 俺が聞くと、シェラはじろりとにらむ。


「いいわけがないでしょう?」


 言葉は冷たかった。

 仕事を邪魔された怒りがにじんでいそうである。


 この反応にフィーネ以外のメンバーから驚愕が抜けた。

 どうやら様子を見るという名目で俺を叱り飛ばすつもりだと解釈したらしい。


「まあほどほどにな」


 あきらかに制止する気がない声でパウルが声をかける。

 シェラは返事すらせず、部屋を出て俺に案内するよう目で命令した。


 錬成釜のところに移動する間、シェラは口を開かない。

 怒っているのに黙っているような性格じゃないので、本当は怒ってなんかいないのかな。


「どうしてこのタイミングだったの?」


 実習棟に入ったタイミングでぽつりと聞かれる。


「思いついて作れたのがさっきでして」


「そう」


 俺の説明にシェラはどうでもよさそうに返事した。

 怒ってないのはたしかだが、読みにくいな。


 並んで歩いている関係上、表情を読み取るのは困難だ。


「もしかして忙しかったんですか?」


「うん。今日から一週間くらいは細かいトラブルも多いしね」


 そう言えば主人公が生徒会に入ったあと、そんなが説明あったな。

 具体的なシーンはなかったから忘れてた。


「……すみません」


「新入生だし知らないのは仕方ない。どんまい」


 シェラはポンと俺の背中を叩いてくれる。

 

「ありがとうございます」


 礼を言うと薄く笑って彼女は口を開いた。


「フィーネ先輩はキミに期待してる。裏切らないようにね」


 うなずきかけて、ふと頭をよぎった言葉を口にする。


「シェラ先輩は期待してくれないんですか?」


「……?」


 シェラは怪訝そうな顔をして足を止めた。


「私?」


「シェラ先輩にも期待してもらえるように頑張らないとですね」


「何? アピールでもしてるの?」


 シェラは薄く笑う。

 あきれた目で見つめられる。


「え、ダメなんですか?」


「サムライの女の子とフィーネ先輩がいるのに、私にアピールしてくる軽薄男なんてごめんよ?」


 冷徹な目を向けられた。

 うん、これシェラとの仲が進展する時に出てくる言葉である。


 冷たく突き放す言葉を聞かされてからじゃないと攻略できないサブヒロイン。

 それがシェラ・ロングフォードだった。


 そのせいで「選択ミスった?」と首をかしげて攻略サイトのお世話になったプレイヤーは少なくない。


 俺もその一人だった。

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