第39話 買い手

「じゃあ先生、どこかいい人紹介してくれませんか?」


 これはなかば社交辞令、なかばウィガンの人脈チェックのつもりだった。

 優秀な錬金術師なら、そのへんは期待できるからな。


「ひゃひゃひゃ!」


 ウィガンは右手を腹に当てて笑い出す。


「そう来るか、なかなか上手いことを思いつく子だ!」


 蛍は何のことかわかってなさそうなので、あとで教えたほうがいいかな。


「だが君はフィーネくんかシェラくんにそれなりに信用されているだろう? でなきゃこの釜の使用許可なんて出ないからね」

 

 まったくもってその通りだから俺は素直にうなずいた。


「その二人に相談してみるといいよ。二人に断られたら、その時は私が力になろう」


 ウィガンは楽しそうに笑いながら去っていく。

 フィーネとシェラにはもともと見せるつもりだったんだよな。


 ウィガンと先に出会ったからウィガンに聞いただけで、初期案に戻っただけだ。


「生徒会室までもっていかなきゃか……」


 持ち運びするためのバックなり袋なり作ればよかったか?

 道具袋でも入るけどさ……。


 微妙な気持ちになってると、蛍がおそるおそる提案する。


「それがしでよければ見ていましょうか? それがしがおつかいで生徒会室に行ってもいいのですが、来てくださるか不安ですので」


 フィーネはたぶん来てくれるだろうけど、シェラはどうか微妙だな。

 好意を持ってない相手の頼みを冷然と無視するタイプだからだ。


「わかった。俺が呼んでくるよ。取り込み中でもなきゃ会長は来てくれるだろう」


 生徒会室まで行き、ノックをして中に入る。


「あら、どうしたの?」


 役員全員が揃ってる中、フィーネがにこりとして聞いてきた。

 少しでも好意的な感情を持ってるのは彼女とシェラしかいないな。


「実は会長に見ていただきたいボードゲームを作ったのですが」


「そうなの? ちょっと見てみようかしら」


 フィーネは興味津々で立ち上がったが、パウルが止める。


「お待ちください、会長。仕事中です。一年のよくわからないもののために、お出かけなるなんてとんでもありません」


「んー、でもシジマくんが作ったものなら興味あるのよねえ」


 フィーネはそう言う。

 後輩の言葉に聞く耳は持つが、俺への興味が勝ってる状態らしい。


「では私が見てきましょう。会長は仕事をなさってください」


 と申し出たのはシェラだった。

 これにフィーネは愉快そうに笑みを深めたが、他の役員たちは愕然とする。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る