第25話 ずうずうしい申し出

 地上に戻ったところで蛍に聞いてみる。


「せっかくだから俺の錬成するところを見てみないか」


 ぶっちゃけ錬成釜にアイテムを入れてスイッチを押すだけなんだが。


「ご一緒しましょう」


 今回は断られなかったのでうれしい。

 蛍との仲が進んでる証拠だと考えられる。


「まあ大したことないけどな。蛍の中のイメージが変わりそうだ」


「ふふ、期待してますよ」


 俺の言葉を謙遜と解釈したのか、蛍は微笑で応じた。

 ダンジョンの入り口から実習棟まではけっこう距離があるなあ。


 ダンジョンは西側、実習棟は校舎を二つ挟んだ東側だから仕方ないが。


「蛍は実習棟に行くのは初めて?」


「ええ。今のところ用がなかったものですから」


 そうだよな。

 実習棟は基本魔法使いや錬金術師といった生産系ジョブのためのエリアだと言える。


 戦闘に特化したサムライにとっては縁がない場所だろう。


「一応自分の工房を持ってる人がいて、そこで物を買えるらしいけどね」


 たしか三階にあるんだっけか。

 

「へえ、それは存じませんでした」


 蛍は軽く目をみはる。

 二階の十番の釜に行って、ドロップアイテムを取り出す。


 一番の目玉は金色の毛と無念のかけらで、この二つを錬成することで黄金の無念になる。


 黄金の無念は質によって高額で売れる換金アイテムだ。

 そして金色の鈴は石と錬成することで、金色の腕輪になる。


 運を上昇させ、ドロップ率をよくする探索向きのアイテムだった。


「おおー、錬成とはこうやるのですね」


 蛍は目を輝かせて感心している。

 無邪気な少女の童心って感じがして微笑ましい。


 金色の腕輪を取り出して彼女に説明する。


「こいつがあればドロップ率が上昇するんで、よかったらもらってくれ」


「それがしへの贈り物みたいですね」


 蛍は耳まで真っ赤にしていた。

 

「感謝の気持ちが入ってるのは否定しない」


 勘違いしてるわけじゃないだろうが、恥ずかしいものは恥ずかしいらしい。

 俺までちょっと恥ずかしくなってくる。


「でもよいのですか? それがしがもらっても?」


「倒す敵が多いやつが装備してないと効果がないからな、これ」


 じゃなかったら自分でつけることも考えるんだが。


「なるほどです」


 蛍は合点がいったという顔になる。

 頭が回ってなかったのかな?


「おや、やってるね」


 そこへウィガンが姿を見せる。

 珍しいな。


「どうかなさいましたか?」


 何しに来たんだろうと疑問を浮かべると、彼は笑った。


「何となく君がいる香りがしたからね。足を運んでみた」


 もちろんそんなことあるはずがない。

 そもそも三階四階とここと、どれだけ距離があると思うんだ。


 こういう理屈じゃないことを平気でやってのける意味でこの人は「変態」だと言われるのはうなずける。


 蛍はあぜんとしていて声も出ないという様子だった。

 初めてこの人を女の子が見たら無理もないと思う。


「先生、こんなものができたんですが、買い取っていただくことはできますか?」


 俺はウィガンに問いかけた。

 ずうずうしい申し出なのは承知しているが、ウィガン相手なら別に失礼に当たらない。


 案の定ウィガンはニタニタと笑って喜びを表す。


「いいだろう。これは黄金の無念だね。ほほう、一年でこれを作る者がこんなに早く出てくるとはなあ!」


 彼は大いに驚き、感心する。

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