百四十五話:空中戦
ソルの背に乗り、飛ぶこと、早三日。
俺たちは今、海の上に居る。
「見て、見てー! 海の上を跳ねてるよー」
「あ、ほんとデス!」
「タスク兄! アレは何て言うの?」
「ん? ああ、
眼下に広がる青い海からは、時々、魚種の魔物が飛び出てきては、水飛沫をあげて海中に潜っていく。
新しい魚種の魔物を見つけてはフェイ・カトル・ポルの三人がテンションと声を上げる中、三人とは裏腹にテンション駄々下がりで黙ったままの人物が二人いた。
「うぉえっぷ……まだ着かないッスか?」
「……高い。……速い。……怖い。」
ミャオとリヴィだ。
ミャオは船酔いならぬ竜酔いしており、リヴィは高所恐怖症で顔を青くしながら全身を小刻みに揺らしている。
「もう少しだから我慢しろ」
「その言葉……昨日も聞いたッスよ」
「……嘘吐き。」
「今の言葉は本当だぞ。俺を信じろ」
ジトっとした目のミャオとリヴィは全く信じていない様子で俺の顔を見つめてくる――と、その時。
「あれ? 今、何か光ったような……うわッ!?」
驚くようにカトルが声を上げたのと同時に、俺たちを乗せていたソルがガクンッと大きく揺れる。
振り落とされないように全員がソルの鱗にしがみ付く中、俺は大きな声で叫んだ。
「ソル!! 無事か!?」
「グルゥ!」
頷くソルは「大丈夫」と言わんばかりに元気な声で鳴く。
無事そうで良かった。
……が、それよりもだ。
何が起こった? 攻撃が飛んでくるには早すぎる。
「カトル! 何を見た?」
「わかんない! でも、あっちの方で何か光ったよ!」
俺はカトルの指差した海の向こう側に目を凝らす。
そこには薄らとだが、大陸が広がっているのが見えた。
クッソ!
まあ、良い。
今はとりあえず……。
「総員、戦闘準備だ! 北の大陸から飛んでくる攻撃を全部撃ち落とすぞ! 役割は飛行中に話した通りだ!」
俺がインベントリから
刹那、ミャオが声を上げた。
「右前方から、球が飛んでくるッス! うっぷ」
「了解! タスク兄、お願い!」
「任せろ!」
俺は右前方から飛んできた球体型のブレスが視認出来たのと同時に駆け出し、ソルの背中から空中へと飛び出した。
『オーバーガード』・『イージス』、同時発動。
飛来した球体型のブレスは俺の体に直撃し、消える。
落下しながらも、それを確認した俺は手に持った鍋の蓋をソルの背中の方へと投げた。
「ポル、縛!!」
「ほーい」
カトルの指示通り『縛』を発動させたポルは、“あお”を使って俺の投げた鍋の蓋をキャッチして引き上げる。
そして俺は『シールドアトラクト』を発動させて、鍋の蓋の元、ソルの背中の上へと転移した。
「タスク兄、大丈夫?」
「大丈夫だ。問題ない」
紐無しバンジーは少し怖かったけど。
少しすると、再びミャオが声を上げる。
「次が来るッス! うっぷ。今度は前方と左前方ッス!」
「了解! 左前方はフェイ、前方はリヴィ姉、お願い!」
カトルの指示にフェイは頷き、ポルの召喚していた災害蜂の肢に掴まると、ソルの左前方へと飛んで行く。
同時にリヴィは“フェアリーテイル”を開き、『ウィンドブースト』と『エアリアルウォール』を発動させた。
<空属性魔法>スキル『エアリアルウォール』:強力な風の壁を作り出す。
すると、ソルの前に不規則な風の気流が出来上がり、前方から飛んできた球体型のブレスを吹き飛ばす。
前方からの攻撃が問題なさそうなのを確認した俺は、左前方に視線を向けると、フェイが飛んできていた球体型のブレスをバックラーで弾いていた。
よしよし。
これなら無事に上陸――。
「……へ?」
出来そうだ、と思っているとミャオが声を漏らす。
俺はミャオの視線の先に視線を移し、目を凝らすと、球体型のブレスが
「カトル。右前方三つ、前方と左前方から二つずつだ」
「り、了解! じゃあ、前方の二つはヴィク姉とヘス兄が一個ずつ、左前方はフェイとタスク兄が一個ずつ対処して!」
「承知した」
「畏まりましたわ」
「任せろ。フェイ!! そのまま、もう一回だ!」
俺がそう叫ぶと、戻ってこようとしていたフェイは遠くから「ハイッ!」と返事をした後、Uターンしていった。
「それで、右前方の三つなんだけど――」
「……私……だよね?」
「うん。お願い」
「……任せて。」
座ったままカトルを真っ直ぐと見上げるリヴィは、ソルの鱗にしがみ付いてはいるものの頼もしいことを言う。
「それじゃあ、行くよ!!」
カトルの号令と共に全員が行動を開始した。
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
左前方から飛んできた球体型のブレスAをフェイが『ハイプロテクシールド』を発動させたバックラーで弾き飛ばす。
そのすぐ横を通り過ぎた球体型のブレスBは、ソルに着弾する寸前でタスク兄が『オーバーガード』と『イージス』を発動させながら飛び出し、体ごと突っ込んで止めた。
その間、前方ではリヴィ姉に『ライトブースト』を掛けて貰っていたヴィク姉と『ダークブースト』を掛けて貰っていたヘス兄が、それぞれ球体型のブレスに向けて武器を翳す。
「ヘスス様は左をお願い致します。私は右を落としますわ」
「承知した」
<聖属性魔法>スキル『ホーリーウォール』:強力な光の壁を作り出す。
<邪属性魔法>スキル『イビルウォール』:強力な闇の壁を作り出す。
――発動。
ヴィク姉とヘス兄が同時にスキルを発動させた瞬間、ソルの前方に眩く発光する光の壁と、真っ黒な煙が一か所に固まったような闇の壁が出来あがり、前方から飛んできた二つの球体型のブレスを弾き飛ばした。
右前方ではリヴィ姉が“フェアリーテイル”を片手に持ち『デュプリケートマジック』・『ウィンドブースト』・『エアリアルウォール』を発動させる。
すると、先程よりも強く大きな風の気流が、右前方から飛んできた三つの球体型のブレスを吹き飛ばした。
「よしッ!!」
三方向で行われている防戦を後ろから見ていていた俺は、全てのブレスが消えた事を確認し、ガッツポーズをする。
その時、ポルに鍋の蓋を引き上げてもらって、ソルの上に戻ってきたタスク兄は、焦りがありありと伝わって来るような表情を浮かべながら大きな声で叫んだ。
「総員! 息を止めろ!」
俺は咄嗟に口に両手を当て、息を止める。
周りに居たみんなも息を止めたのか、口を開く者は誰一人おらず、その場にはソルの羽音だけが聞こえていた。
そんな中、タスク兄は早口で言葉を続ける。
「今から言う事に返事はいらない。先ず、へススは俺たちのパーティ全員にアイアンハートを掛けてくれ。次いで、リヴィは北の大陸に着くまでエアリアルウォールを俺たち全員の周りに展開し続けてくれ。最後に、少しでも変なものが見えたり聞こえたりした奴は絶対に手を挙げてくれ。以上だ」
タスク兄の指示通り、へス兄はタスク兄・ミャオ姉・リヴィ姉・ヴィク姉に『アイアンハート』を掛けていき、リヴィ姉は『エアリアルウォール』で全員を包み込んだ。
スキルの発動を確認したタスク兄は安堵し、口を開く。
「もう、息を吸って大丈夫だ」
理由もわからず息を止めていた俺は、頭に疑問符を浮かべながらも、息苦しさを消すように大きく深呼吸をする。
そして何故、息を止めていたのかが気になったので、タスク兄に聞いてみることにした。
「何で息を止めてたの?」
「ん? ああ、辺りをよーく見てみろ」
俺はタスク兄に言われた通りによく目を凝らし、リヴィ姉の張った『エアリアルウォール』の外を見てみると、空気中に細かい粉? のようなものがサラサラと漂っており、それが北の大陸から風と共に流れてきているのがわかった。
「何? この粉」
「これは北の大陸に生息する魔物の鱗粉だ。吸い込むと麻痺と幻惑の状態異常にかかる」
「あー、だから息を止めさせてたんだね」
「そうだ。まあ、フェイとかリヴィくらいの<MEN>があれば大丈夫次――って、次が来た。行くぞ、カトル」
そう言うタスク兄の視線の先を見ると球体型のブレスが二つ、こちらへ向かって飛んできているのが見えた。
先程まで聞こえていたミャオ姉の報告が聞こえてこなかったので、もしやと思った俺はミャオ姉の居た方を見ると――。
スヤスヤと寝息を立てていた。
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