百二十八話:鉱山竜アダマスドラゴン(上)

 


「うっし!来いオラァ!!」


 吠える俺を目掛けてアダマスドラゴンは空に向けピンと伸ばした首をまるで剣を振るかの如く振り下ろす。

 同時に俺は大盾を持ち上げ、真上に構えた。


 頭上から迫ってくるアダマスドラゴンの頭にタイミングを合わせて『シールドバッシュ』を発動させパリィする。

 しかし、勢いを殺せただけでビクともしない。


 それどころかパリィしたにも拘らず俺の足が膝まで地面の細砂に埋まった。


「「フェイ!スイッチ!」」


 俺とカトルが同時に声を上げる。


 “スイッチ”とは入れ替わる事を意味しており、主にレイド戦など複数パーティが居る状態でタンクを交代する時や攻撃する人を交代する時に用いられる掛け声だ。


 そう、今回のアダマスドラゴン戦では俺とフェイが交代しながらタンクをする事になっている。


 なので俺が過剰な敵意ヘイト値を稼ぐとフェイでは敵意ヘイトをとることが出来なくなってしまうため、今回は『チャレンジハウル』や『フォース・オブ・オーバーデス』は使用できない。


「ハイッ!行きマスッ!」


 フェイは『スピードランページ』を発動させ一気に間合いを詰める。

 次いで『ナイトハウル』を発動させ、アダマスドラゴンの敵意ヘイトをとった。


 アダマスドラゴンはギロリとフェイを睨み、首を横方向へ弓なりに曲げる。

 そしてハエでも振り払うかの如く薙いだ。


「ここデス!!!」


 フェイは横薙ぎにタイミングを合わせて『シールドバッシュ』を発動させパリィする。


 が――遥か遠くまで飛んでった。

 フェイが。


 そこで気付く。

 すっかり頭から抜け落ちていた事に。


 フェイって今……レベル1じゃね?


 転移スクロールの枯渇問題から始まり、アイザックの襲来、ぺオニアのレベル上げと昇格、そして虎鐵の加入と続き、フェイのレベル上げを完全に忘れていた。


 ああああああああああ。

 ヤバい、ヤバい、ヤバい。

 どうしよう。


 考えててもしゃーない。

 今は飛ばされたフェイの事が最優先だ。

 死んではいないだろうが無事でいてくれ。


「ヘスス、カトルを連れてフェイの治療に向かってくれ!治療後はフェイとカトルをアタッカー組に合流させろ!その後はヘススだけ戻ってきてくれ」

「承知した」


 駆け出すヘススとカトルを横目に俺は『フォース・オブ・オーバーデス』を発動させた。

 そして、大きく息を吸い込み叫ぶ。


「総員、攻撃開始!!!」



 ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~



 アタシは今、アダマスドラゴンの背後で待機している。


 というのも、タスクさんが――


 (今回『チャレンジハウル』と『フォース・オブ・オーバーデス』が使えない。もしかしたら攻撃組に敵意ヘイトが飛ぶかもしれん。それを避けたいから少し時間をくれ。敵意ヘイトを固定したら合図する)


 と、言っていたからだ。


 なのでタスクさんの言う通り合図を待っていると、アタシの視界の隅を何かが飛んでいく。

 チラッとしか見えなかったが、見間違いでなければフェイが飛んでったように見えた。


「……今フェイちゃんが飛んでいかなかった?」


 リヴィにも見えていたのか、そんなことを聞いてくる。


「そう見えたッスけど……」


 アタシがそう答えると、リヴィの言葉を聞いていたヴィクトリアさん・ゼムさん・ぺオニアさん・虎鐵さんも会話に入ってきた。


「私にもそう見えましたわ」

「ワシもじゃ」

「私もです」

「某もだ」

「「「「「「……」」」」」」


 アタシたちが顔を見合わせる中――


「離してッ!!」


 血相を変えたポルがロマーナさんに羽交い絞めにされていた。


「ダメだ」

「どーしてッ!?」

「離せばキミは行ってしまうだろう?」

「決まってるじゃん!!」

「だからダメなんだ。聞くが、キミが行ったところで何になる?」

「それは……」

「何もできないだろう?それどころか足手まといになる可能性がある。タスクたちがいる場所はこのデカブツの攻撃範囲内だ。そんな所にキミが行けばタンクであるタスクやフェイはどうするだろうな?」


 それを聞いたポルは大人しくなる。

 すると、ロマーナさんはポルの頭にポンと手を置いた。


「冷静になり給え。わたしたちが出来る事は一早くこのデカブツを倒してやる事だけだ。一分一秒でも早く倒すことでタンクをしている奴らの助けとなる」


 冷静な表情を浮かべ、淡々と言うロマーナさん。

 その言葉はポルだけではなくアタシたちにも言っているように聞こえた。


 再度、アタシたちが顔を見合わせて頷く――その時。


「総員、攻撃開始!!!」


 遠くからタスクさんの声が聞こえた。


「合図ッス。行くッスよ!!」


 アタシの言葉を皮切りに全員が駆け出す。

 同時にリヴィの『バフ』がアタシ・ヴィクトリアさん・ゼムさん・虎鐵さんの四人に掛かった。


 何故リヴィの『バフ』が四人に掛かったかと言うと、今回のアダマスドラゴン戦ではパーティを入れ替えているからだ。


 まずアタシ・リヴィ・ヴィクトリアさん・ゼムさん・虎鐵さんの五人パーティ。

 アダマスドラゴンの体力を素早く削るための攻撃特化パーティだ。


 次にタスクさん・フェイ・ヘススさんの三人パーティ。

 タンクであるタスクさんとフェイが傷付いた時のためにヒーラーであるヘススさんを入れた防御特化のパーティだ。


 最後にポル・カトル・ぺオニアさん・ロマーナさんの四人パーティ。

 主にアタシたちとタスクさんたちのパーティ間を行き来して、戦況把握をしながら攻撃や回復など臨機応変に立ち回る支援パーティだ。


 とにかくアタシたちのパーティはアダマスドラゴンを出来るだけ早く倒せばいいって事っスね。

 やってやるッスよ。

 その為には、まずアダマスドラゴンに登らないとッスね。


 アタシたちはアダマスドラゴンの後ろ脚にしがみ付くと、鱗を伝って上へと登る。

 背中の上は思ったより揺れは無かった――が。


「危ないッス!」

「む?」


 一筋の光線が虎鐵さんを襲う。

 虎鐵さんは咄嗟に回避したが、間に合わず左腕を掠めた。


「ぐっ」

「大丈夫ッスか?」

「無論」

「いや、結構痛そうッスよ?大人しくポーション飲むッス」

「かたじけない」


 アタシは虎鐵さんに治癒ポーションを渡し、光線が飛んできた方へと視線を向ける。


 視線の先にあったのは、鱗の青色をもう少し深くしたような色をした大きな六角柱状の水晶。

 それが一本、聳え立つように背中から生えていた。


「アレがタスクさんの言ってたやつッスね」

「……多分。」

「じゃあ、アレを壊せばアダマスドラゴンを倒せるッスね」

「……だと思う。」

「簡単で良いッス!」


 アタシは弓を構えるのと同時に『メルトエア』・『ジールケイト』・『イーグルアイ』を発動させる。

 次いで『ウィークアタック』と『パワーショット』を発動させ矢を放った。


 矢は水晶に当たり――キンッと弾かれる。


「ンなッ!?」


 今、弱点を全力で撃ち抜いたはずッスよ。

 それもリヴィのバフが掛かった状態で。

 それでも刺さらないって事はタスクさん以上に硬いって事ッス。

 ……力でダメなら貫通ッス。


 アタシは、弓を引絞り駆け出す。

 そして、もう一度狙いを定め『ウィークアタック』と『ペネトレイトショット』を発動させた矢を放った。


 しかし――弾かれる。


 それもアタシだけじゃない。

 ヴィクトリアさんの拳やゼムさんの大槌も全て弾かれている。


 硬すぎるッス。

 ダメージ通ってるんッスか?コレ。

 簡単とか思っちゃった数秒前のアタシを殴ってやりたいッスね。


 そんなことを思っていると、水晶が淡い光を放つ。

 タスクさんから聞いていた攻撃モーションだ。


「来るッスよ!」

「わかっとる!」

「わかってますわ!」


 アタシたちは水晶から距離をとり足を止め回避に専念する。


 数秒後、水晶がヴィクトリアさんに向けてピカッと光線を放った。

 ヴィクトリアさんはそれをひょいと躱し、一瞬にして水晶との距離を詰め一撃を叩き込む。


 やはりと言うべきか、その一撃は弾かれた。



「硬いですわね。本当に壊せますの?」

「わかんないッス。でも……やるしかないッス!」


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