百二十五話:東国の侍(下)
――屋敷の庭。
ロマーナとぺオニア以外の『侵犯の塔』のメンバー全員が辺りで観戦する中、俺と虎鐵は五メートルほどの距離を開けて向かい合う。
あー、テンション上がるなあ。
なんせ久々のPVPだ……ミャオ以外とのだけど。
一度相手にして以来、ちょこちょこ挑んでくるようになったんだよな。
まあ、PVP自体は嫌いじゃないからいつでもウェルカムだ。
さてと――愉しもうかねえ。
「ッ!?何故、笑っている?」
「気にするな。それより来ないのか?いつでも来ていいんだぞ?」
「タスク。お主は強いのかもしれんが、某をナメすぎだ」
虎鐵は腰を低く落とし、大太刀の柄に右手を添えて構えをとった。
そして間合いに入ってくれば斬り伏せる、と言わんばかりの殺気を放ち俺をジッと見てくる。
待ちか。
ナメてんのはどっちだよ。
まあ、良いや。
来いってんなら行くか。
俺は『スピードランページ』を発動させて一気に距離を詰めにかかる。
四メートル、三メートル、二メートルと近付いた――その時、虎鐵はカッと目を見開き柄を握った。
「シィッ!!」
身の丈ほどある大太刀はたちまち抜き放たれ、鞘がカランと地面に落ちる。
俺は『スピードランページ』をキャンセルし、瞬時に『パワーランページ』を発動させ、大太刀の軌道上に突っ込んだ。
耳を塞ぎたくなるほどの金属音を響かせながら衝突する。
結果、虎鐵の大太刀は最後まで振り抜かれ俺の大盾は弾かれた。
――完全に押し負けた。
自分で言うだけあって強い。
刀系武器の威力は<
虎鐵が上位職と仮定すれば<
俺はバックステップで距離をとり、もう一度『スピードランページ』を発動させて突っ込んでいく。
「幾度来ようとも同じだ!」
虎鐵は先程と同じように、大太刀を振ろうとした。
その瞬間『スピードランページ』をキャンセル、そしてタイミングを合わせて『シールドバッシュ』で大太刀をパリィする。
「どこが同じだって?」
体勢を崩した虎鐵。
その隙を逃してやるほど俺は甘くない。
『チェインゲザー』発動。
俺の足元から鎖が出現しジャラジャラと音を立てて伸びていく。
虎鐵はその間に体勢を立て直そうとするも、瞬く間に纏わりつかれ為す術もなく地面を引き摺られた。
「いらっしゃい」
俺は至近距離まで引き摺られてきた虎鐵に『パワーバッシュ』を叩き込む。
大盾が直撃した虎鐵は数メートル吹っ飛んだ後、背中から着地した。
「もう終わりか?」
「ぐっ。まだ、まだぁ」
虎鐵は肩肘を立てて起き上がる。
そして立ち上がると、俺に向かって一気に駆け出してきた。
待ちを捨てたか。
俺を相手に『
だからと言って『
俺は『スピードランページ』を発動させ、一気に距離を詰める。
また俺がキャンセルさせると思っていたのか、虎鐵は駆け出した勢いのまま突っ込んできた。
「なっ!止まらな――い゛ッ!」
俺の『スピードランページ』が止まらないと気付いた時にはもう遅く、虎鐵は再び宙を舞った。
その後も虎鐵は何度も吹っ飛ばされ、立ち上がると俺に突っ込んでくる。
しかし虎鐵の攻撃が俺を捉える事は無く、その全てを弾いた。
………………。
…………。
……。
「終わりか?」
「まだ、まだ終われんよ。某は負ける訳にはいかん。お主のように才ある者には猶更、負ける訳にはいかんのだ!」
虎鐵はフラフラと立ち上がると、大太刀を引き摺りながら駆ける。
「才ある者?それは俺に対しての言葉か?」
「無論!お主以外誰が居る」
「……そうか」
――才能。
虎鐵は俺にソレがあるように見えてんだな。
だが……“ホンモノ”はこんなモンじゃねえよ。
中には地形を変えるほどの魔法を放ちながら笑う
中には影も形も見えない所から高火力狙撃を行う
中にはコンマ一秒の狂いもなくバフを掛けてくる
中には傷付いた事すら気付かない速度で回復する
俺はそんな“ホンモノ”たちの背中をずっと追っかけてきたからこそわかる――――俺に才能は無い。
だからこそ俺は死ぬほど努力し続けてきた。
それを才能の一言で片付けて欲しくはない。
俺は『インパクト』を発動させ、振り下ろされる大太刀ごと虎鐵を吹っ飛ばす。
そして『ライトフォース』と『グランドプロテクシールド』を大盾に付与し、虎鐵を目掛けて『パワーランページ』で突っ込んだ。
衝突と同時に鈍い音と乾いた音が響く。
数メートル後方に吹っ飛んだ虎鐵はゴロゴロと地面を転がり、倒れ伏したまま動かなくなった。
俺は地面に倒れている虎鐵の元へと近付き、膝を折って屈む。
「悪ぃけど、俺に才能は無えよ」
「……何を。お主に無いなら一体誰が持っているんだ」
「うーん。あいつらとか」
俺は呑気にご飯を食べている『侵犯の塔』のメンバーの方を指さす。
すると虎鐵は少しだけ顔を上げると、信じられないといった様子でそちらを見つめていた。
嘘は言っていない。
まだ“ホンモノ”とまではいかなくとも、間違いなく全員が良いモノを持っている。
中でもフェイ・カトル・ポルの三人なんて俺のよく知る化け物レベルになるだろう。
本当に羨ましい。
「嘘だと思うなら戦って見りゃ良い。特にあそこに座ってる猫。ミャオって言うんだが、お前と同じ上位職で俺を相手にちょいちょい当ててくるぞ」
「上位職で、とは?」
あー、やっぱ知らねえか。
俺はステータスを開き、虎鐵に見せながら上位職や最上位職の説明を簡単にしていく。
虎鐵は終始、口をポカーンと開けたまま俺の話を聞いていた。
「――では、某もその最上位職とやらの昇格が残されているという事か?」
「そうなるな」
「某を謀っている訳ではないのだな?」
「お前を騙してなんの意味があんだよ」
「確かに……タスク!――ぐおおおぉッ!」
虎鐵が勢いよく上体を起こした瞬間、腹部を抑えながら呻く。
「大人しくしとけ。さっきピシッて音がしてたし折れてると思うぞ」
「ぐおおおぉ……何の、これしきぃ」
虎鐵は痛みに顔を歪めながらも、綺麗な正座をした。
「タスク!頼みがある!某に修行をつけてくれ!」
「断る!」
「なぜだッ!?」
「俺には目的があるからな」
「目的とは?」
「難易度十等級ダンジョンの踏破だ」
「む、無謀だ!あの場所は人智を超えている!」
「それでも行く。だからお前を鍛えてやる暇はない」
黙り込んでしまった虎鐵を後目に『侵犯の塔』のメンバーの元へと歩いて行く。
すると、前方からカトル・ポル・フェイの三人がトコトコと走って来た。
「「タスク兄」」
「タスクサン」
「どうした?」
「やっぱりさー、もじゃもじゃを仲間にしちゃだめー?」
「理由は?」
「こんじょーあった!」
「タスク兄がいつも言ってるじゃん。俺たちが仲間にするなら根性があるやつにしとけーって」
確かに根性がある事は認める。
虎鐵は何度ぶっ飛ばそうが立ち上がって来た。
それに加えてプライドが高く、向上心もある。
ただ、一つ気がかりなのは才能に引け目を持っているという事だ。
そうさせる何かが過去にあったのかもしれない。
そんな虎鐵を才能の塊三人組の中に放り込んだら心が折れないかが心配になる。
……まあ、いいか。
なんとかなるだろ。
知らんけど。
「前にも言ったが三人で話し合って決めた奴なら俺に文句はねえよ」
「本当?」
「ああ」
「じゃー、行ってくるねー」
「行ってきマス」
三人は虎鐵の方へと走っていった。
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