八十二話:リベンジ
食事と聞いた五人は頭の上に疑問符を浮かべる。
「ダンジョン内の魔物は食事をしないんじゃなかったの?」
前にダンジョンについていろいろと話していたカトルは目を輝かせながら聞いてくる。
それはフェイやポルも同じようで興味を示していた。
ダンジョン内の魔物はダンジョン内に溜まった魔素の集合体だ。
故に、食事や睡眠などは必要ない。
だが『哮る枯れ井戸』に生息している破裂蛙は例外中の一種であり食事のような行動をとるのだ。
「ここの蛙は違うんだ」
「そうなんだ。じゃあ、何を食べるの?一昨日来たときに結構歩き回ったけど食べられそうな物なんて全然落ちてなかったよ?」
「地面には無いからな」
そう言って俺は人差し指を立てて天井を指す。
俺以外の五人は天井に目を向けるが何もなく、さらに首を傾げる。
「何もないよ?」
「ここにはな。ダンジョン内の天井に紫色の球体みたいなものが生っている場所がある。そこまで蛙を誘導するのがタンクであるフェイの役目だ」
話をしているうちに通路の奥から一メートルほどの大きな蛙が現れた。
フェイはすかさず『ナイトハウル』を使い、ヘイトを取る。
「球体ってどこにあるんデスか?」
「ランダム生成だから、わからん!」
「へ?」
フェイは一瞬ポカンとしたが、蛙が舌を伸ばしてきたと同時に真剣な表情へと戻りバックラーで弾く。
刹那、カトルは大きく息を吸い込み指示を出した。
「フェイ、攻撃を弾きつつ通路の奥へ!タスク兄、ポル、ロマーナ姉、ゼム爺はフェイがヘイトを取っている間に脇を抜けて前進!」
声と同時に全員が動き始める。
すると、
「アァ!?」
思わず声を上げてしまった。
その声に驚いた全員が足を止める。
「どうしマシた?」
「すまん。気にするな」
おいおいおいおい、嘘だろ。
なんでパーティに参加していない俺にまでカトルのバフが掛かってんだ?
カトルが指示さえ出せばパーティ外であってもバフが掛かるってことか?
それとも俺が同じクランメンバーだからか?
消費するMP量は増えるのか?
人数の上限は?
足を動かしながらも俺の思考が加速していく。
以前スキルを確認した時、『コマンダーバフ』には術者の命令に従う事でステータスの上昇と書いてあったはずだ。
もしも、人数制限が無いのなら間違いなくカトルは化物の中の化物だ。
ダンジョン内は基本パーティ戦だが、それを用いないフィールド戦では無類の強さを誇るだろう。
そう考えているといつの間にか、フェイは攻撃をうまく弾きながら進んできた通路とは逆側に回り込んでいた。
「全員、通路の奥へ!」
俺を先頭に全員が通路の奥へと駆け出す。
後ろから迫ってくる蛙の攻撃を弾きながら、最後尾をフェイが付いてくる形となっていた。
数分走っていると俺の後ろを走っていたポルが指をさす。
「タスク兄、あれー?」
指が示す先の天井からは球体が半分だけ顔を出していた。
「ん。あれだ」
俺たちは球体の真下を通り過ぎると、最後尾に居たフェイに球体の真下で足を止めるよう指示を出す。
フェイが足を止めると、後ろから着いて来ていた蛙も足を止めた。
すると、ヘイトを無視して蛙は天井の方を向き、長い舌を伸ばして天井から半分だけ出ていた球体をペロペロと舐め始める。
「なにをしとるんじゃ?」
「ん?あれが食事だ。カトル、全員攻撃準備ね」
「はい!全員、攻撃準備!」
カトルの指示でゼムはミスリル製の大槌を、ロマーナは魔鉄製の長い針を、ポルはミスリル製の糸をそれぞれ構える。
「ちょい待ち!ポル、デスビィも出しとけ。レベル上げといた方がいいだろ」
俺の言葉に頷くと、デスビィも呼び出しカトルが
「全員、攻撃開始!」
破裂蛙は抵抗することなくタコ殴りにされ、魔石に変わるまで五分と掛からなかった。
「倒せた……のか?」
「魔石落ちてるよ?」
「ハイ。落ちてマスね」
「なんか、あっけなくないか?」
そんなことを言いながら魔石へと変わっていく破裂蛙をフェイ、カトル、ポルの三人はジッと見ていた。
まあ、あっけないという気持ちはわからんでもない。
だが、これが破裂蛙の正攻法なのだ。
なんでこんな設定にしたんだ運営。
あの硬い腹を貫く方が絶対に愉しいと思うぞ。
「でも、タスク兄はやっぱすげーな」
「ん?なにがだ?」
「だってさ、いろんな事知ってるじゃんか!!やっぱ俺もタスク兄の居た未来に行ってみたいなー」
「私もー」
「ワタシもデス」
「俺の居た未来は面白くもなんとも――」
背後から俺は肩をガシッと力強く掴まれた。
振り返るとロマーナがわなわなと震えながら口を開く。
「キミたち口ぶりからするとタスクは未来から来たように聞こえるのだが?」
「そうだな」
「ふむ。調薬師でもないのにわたしのレシピの間違いを指摘したり、わたしの調合できないポーションを持っていたことに合点がいったよ。ではタスク、未来にはどういったものがあるのか詳しく聞かせてもらおうか」
「帰ったらな」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべた後、ブツブツと呟きながら俺の肩から手を離した。
そんなことより、今はカトルだ。
俺はカトルの方を向き声をかける。
「カトル」
「なに?」
「お前、俺にまでバフ掛けたよな?」
「うん!それがどうかしたの?」
「従来のバッファーはパーティに参加していないやつにまでバフを掛ける事は出来ないって知ってるか?」
「え……」
やっぱり、知らず知らずにやってたのかよ。
「俺にバフを掛けた時のMP消費が増えてたり、どの位の人数が限界だとか自分でわかるか?」
「消費魔力は多分変わらなかったと思う!人数上限はちょっとわかんないな」
<指揮官>か……。
思ってた以上にヤバいな。
最上位職に上がったらどうなるんだ。
ゾッとすると同時に嬉しくもある。
全て事が片付いたら『塔』全員のレベルを底上げするか。
今からニヤニヤが止まらんなあ。
ハッハッハ。
その後も破裂蛙を見つけては球体の元まで誘導し、次々に倒していく。
フェイ、カトル、ポルの三人がしきりに辺りを見渡しているあたり、花に寄生された個体を探していたように見えたが、結局見つけることは叶わないままその日のレベル上げは幕を下ろすこととなった。
「ボス部屋に入らなくてよかったのか?」
野営地に戻り、食事を摂っている時にゼムが話しかけてきた。
「枯れ井戸のボスとは戦っても良いことは特に無い。というか、面倒くさいことこの上ない」
「お前さんがそこまで言うほどか」
「ああ。それに、今日ここに来た理由はフェイたちのリベンジだからな」
三人は気にしていないかもしれないが、俺個人としては一度苦渋を飲まされた相手にはキッチリ返しておかないと気が済まないのだ。
明日は是非とも花に寄生された個体にリベンジしてほしい。
ミャオを無理やりにでも連れてくればよかったかな。
リヴィと二人でやりたいことがあるとかで来てないけど。
翌日も朝からダンジョンへと入っていくと、昼を回った頃に花に寄生された個体を発見。
破裂させることなく寄生蛙を倒したフェイ、カトル、ポルのリベンジは無事に終わりを迎えた。
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