雑話:双子の追憶
数年前―――。
これはとある異色なパーティーの話。
「ねぇレトナ、まだ歩くの?」
黒髪の少年、カトルは疲れたように言う。
「そうね。もう少しだから頑張りましょうね!」
すぐ後ろに居た黒髪ロングの綺麗な女性、レトナは答える。
レトナは冒険者としては珍しい支援職であり、カトルたちの母親だ。
「おいおい、カトル少しはポルを見習ってがんばれよな」
先頭を歩く赤髪オールバックの大柄な男性、ダリオスがカトルに向け言葉を放つ。
ダリオスは冒険者としても中の上ぐらいの実力を持つ火力職であり、父親だ。
「いや、ポルだってさっきから疲れたって呟いてるよ!」
「……疲れたー」
隣を歩くのは、父と同じ赤髪ショートボブの少女、ポル。
カトルの双子の姉?か妹?かは知らないが大事な家族だ。
「まったく二人ともまだまだ子供ねー」
「そんなんじゃいつまで経っても強くなれないぞ?」
「「いや、子供だよ!!」」
街道を歩く四つの影が楽しそうに話している。
いかにも冒険者な服装をして、名前で呼び合っている彼らは少し風変わりな四人家族である。
後ろをトボトボと歩いている、カトルとポルはまだノービスの双子だ。
ポルは、長旅で疲れている様子は見えるが、あまり表情には出ていない。
隠しているのではなく本人曰く表情筋を動かすのも疲れるだそうだ。
カトルは、ポルとは違い疲れた表情で文句を言いながらも父の後を続いている。
四人はこの世界で珍しい冒険者一家のパーティである。
カトルとポルは未だ天啓を授かる歳ではない為、言ってしまえば二人だけのパーティ。
だがダリオスは何かと豪快な父親で、ノービスのカトルとポルも連れまわされていた。
危なくないかと聞いても「やってみなきゃわかんねーだろ!」との事。
いつも言っている、ダリオスの口癖だ。
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
「いいよ!もう帰ろうよ!無理だって!」
涙目で叫んでいるのはカトル。
…………。
……………………。
………………………………。
これは数日前の話―――。
きっかけは六歳の誕生日の小さなお願いからだった。
「ねぇダリオス、あれ食べてみたい!」
ポルが指さす先にあったのは市場で売られていた珍しい果物『三色バナナ』。
名前の通り、見た目は少し大きめなバナナで色が三色に分かれている。
売り子の宣伝文句は三種類の味が一度に楽しめる、とのことだ。
「ん?……あれか」
ダリオスが少し苦笑いで反応する。
「あれはちょっと高いわね……」
続くレトナも同じ反応をする。
「ポル、他のにしなよ?」
そういうカトルは既に欲しい装備を頼んでいる。
来週は双子の誕生日。
残るは、ポルだけだった。
普段、物を欲しがるそぶりを見せないポルが自分から言ってきた。
叶えてやりたい気持ちは山々だが、『三色バナナ』はダンジョンのボスドロップ品。
値段が高い。
「んー、買ってはやれんが取りに行くか!」
「そうね。久しぶりに行きましょうか」
だが、そのダンジョンはかつて二人でクリアしたダンジョンの一つだった。
ダリオスやレトナぐらいのパーティで行けば、特に問題はない。
と、その時のダリオスとレトナは思っていた。
「なんだー!なら最初からそうしよーぜ!」
「久々のダンジョンだー」
小さい頃からダンジョンで戦う両親を見てきた双子は嬉しそうにはしゃぐ。
だが、そこで初めて双子は知る事になる。
ダンジョンには危険が、傷が、死がつき纏うものであるという事を。
今まで双子が見てきたダンジョンは難易度一等級のダンジョンだった。
だが、今回行く場所は難易度二等級。
難易度二等級、普通のパーティなら難なくクリアできるだろう。
ただ、彼らは火力とバフの二人で戦えるのは実質一人なのだ。
今の状況は一人で双子を守りながらダンジョンに挑むようなものだった。
難易度一等級なら火力で押し切り、無傷でいけてきた。
だからこそ、双子は見た事なかったのだ。
両親が傷つく姿を。
そして現在。
涙目になってる息子。
震えている娘。
そんな子供たちを背にダリオスとレトナは思う。
来て正解だったな―――。
今までは安全の為、難易度の低い場所を回っていただけだった。
しかし、ダンジョンとは、外の世界とは、危険なものなのだ。
その事を知るきっかけになるなら、きっとこの経験はいい誕生日プレゼントになるだろう。
そんな事を考えているあたり、かなり戦闘に力が入り色々とキマっているのだろう。
「おい!レトナ!ボス部屋は出れないって教えてなかったのか!?」
「戦闘の事はあなたに任せるっていったはずよ!」
「ったく、子供みたいに震えて泣いてやがるぜ?」
「仕方ないわよ子供なんだから」
軽口を交わしている間も攻防は続く。
そして子供たちの震えや叫び声も大きくなる。
「無理だってー……」
「もうやめろよ!!」
普通の親ならここで安心させる言葉を投げかけるだろう。
いや、普通の親ならこんな所につれては来ないだろう。
だが……。
「やってみなきゃわかんねーだろ!」
一喝。
双子は口を噤み、静かになる。
父としては不正解だったかもしれない。
だが、冒険者としては正しかったはずだ。
双子の目に光が戻った。
泣きそうな顔で震えてはいるが、それでも黙って両親の背中を見つめていた。
しばらくして戦闘は二人の勝利で終わる。
傷つくなんて、当たり前。
強気な二人組でダンジョンを潜り続けてた両親にとって難易度二等級のボスなど敵ではない。
戦闘が終わり、ダリオスがドロップした『三色バナナ』を手に、笑顔で子供たちに振り返る。
二人は安堵と歓喜に泣きながら抱き着きダンジョンを出た。
その日だけは、彼らは両親の背におぶられながら帰路についた。
何故、子供たちを連れて旅をしているのかと問われれば、子供の頃からサバイバルに身を置き、ダンジョンに潜り、力を付けさせるためである。
ダリオスとレトナは、それは普通ではない事は百も承知している。
ただ、二人とも力不足で死にかけた経験があるため、子供二人にはそのような経験はしてほしくないと思い、小さい頃から鍛える事にしたのだ。
そのおかげか双子はノービスであっても、レベルは上限の30だ。
最低限、サバイバル生活や戦闘における基礎や知識などが身についていた。
その反面、旅をし続けているが故に友達と呼べるものができた事はない。
街に行っても家族の様子を見て、奇異の目を向けられることも少なくはない。
現に今も向けられており、四人は地味で汚れた装備を付けて歩いている。
お世辞でもおしゃれとは言えない全身フル装備の家族の姿。
だが、そんな状態でもカトルとポルに不満はない。
それどころか双子にとっては自慢の両親であり、心の底から尊敬する冒険者なのだ。
だからこそ、その背中を見続けて育った双子は思う。
この人たちの様な冒険者になりたいと。
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数年後、そんな両親を目の前で亡くした双子は出会う。
だらしなく伸びた黒髪、やる気の無さそうな目をした仏頂面の男。
「お前ら、行く所無いなら俺んち来ないか?」
この男、タスクが双子たちの未来を変えた。
双子は決心する。
両親を超えた冒険者になって見せる。
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