五十七話:銀狼
俺は今、囲まれている。
遡ること数分前。
ギルドに亀竜の魔石や素材を売る目的で訪れた。
あわよくば調薬師や遊び人の加入者が居ないかを確認するためでもあった。
メンバーを募集しているカトルも付いてきたいとの事だったので連れてきたのだが、受付嬢に魔石と素材を渡し、果汁を頼んでテーブルに座った時だった。
「『侵犯の塔』ってお前らか?」
「亀竜やったってマジなのか!?」
「加入したいです!お願いします!」
「お前らってあの募集用紙出してる奴らだよな?」
「調薬師とか遊び人じゃなくて俺なんかどうよ?」
「パーティに空きがあったら入れてくれ!」
嵐が来た。
めんどくさい。
名声と実績は欲しいが、こういうのは求めてない。
だが、カトルはそれが誇らしかったのかフフンと胸を張って果汁を呷っている。
最初は相手をしていたが、二十人程いる冒険者たちを一気に相手にするのはいい加減、面倒くさくなってきた。
だが、シコリを残すのも嫌なのでどうしようかと考えている時だった。
パンパンと大きく手を叩く音が聞こえる。
「困ってんだろーが!散れ!」
その声に辺りは静まり返る。
振り向き、声の主を見た冒険者たちがざわつき始める。
声の主はざわつく冒険者たちをかき分け、テーブルの横に立つ。
両側を刈上げた襟足の長いオールバックの銀髪。
身長が180センチくらいの男はテーブルに手を付き口を開く。
「オメーがタスクってやつか?」
「そうだが?」
「バウムが言ってた通り無愛想な奴だな」
あ?
誰だそれ?
まぁ確かに仏頂面だが。
知らん奴に侮辱される謂れはない。
そんなことを考えていると、男は笑い出す。
「なんだ!結構喋る奴じゃねぇかよ!俺はエドラルドってんだ!エドで良いぜ」
喋ってないんだが?
というかこいつ他の奴に散れって言っといてまだ話す気か?
「ああ。わかった。エドラルド」
「オメーな……まあいい!オメーが『侵犯の塔』の―――」
「マスター!」
エドの後ろから長いピンクの髪を揺らしながらこちらに走ってくる。
少し聞き覚えのある声と見覚えのある姿の女性は俺に対して控えめに手を振ってくる。
「もう!先に行かないでください!それとタスク君お久しぶりね」
「どうも」
「こいつお前とバウムの事覚えてないぜ」
「えっ!?嘘でしょ!?」
今、思い出したわ。
クランの事をいろいろと話してくれた二人だ。
確か『銀狼』と言ったか?
マスターって事は、エドラルドがクランマスターって事か。
「おう!物分かりが早くて何よりだ!俺が『銀狼』のクランマスターだ」
「あ?口に出てたか?」
「んや、顔見てりゃわかるよ。オメーよく喋ってんぜ」
二ヤリと笑みを受けべながら俺たちのテーブルの椅子を引き、腰を下ろす。
隣の椅子にセフィールも座る。
何故さも当然のように座ってくるんだこいつら。
「話の続きだがオメーが『侵犯の塔』のマスターか?」
「そうだが」
「オメーら全員『銀狼』に来ねーか?歓迎するぜ?」
「断る」
即答した俺をキョトンとした顔で見るエド。
すると声を上げて笑いだす。
隣に座っていたセフィールは眉間に手を当て、ため息を吐く。
「そう言うとは思ってたぜ。じゃあ、同盟ってのはどうよ?」
同盟か……。
クラン同盟とは、一言で言ってしまえば無意味。
俺たちみたいにダンジョンに潜るクランには。
フィールド狩りを中心とするならば、同盟もアリだ。
というのもクランには人数上限がある。
人数無視で狩りに行けるフィールドでの人数増強が出来るという訳だ。
だが、同盟を結んだところで同じダンジョン内に侵入できるわけではない。
レイドボスの居るダンジョン内には確か同行できたはずだが手は足りている。
なので、この誘いは断ってもいい。
「理由は?」
しかし、IDOならともかくこの世界での同盟は無意味な物とは思っていない。
「特に理由はねーな!オメーがすげえ奴になりそうだから。ってとこか?」
嘘だな。
何かしら理由がある。
エドはうまく隠してるが、セフィールを連れてきたのは間違いだ。
そんなことを考えていると、またもエドは笑い出す。
「察しの通りだぜ!理由はあるが言えねえ」
「そうか。なら交渉決裂だ」
俺の言葉にエドは笑いを止め、ジッと見てくる。
するとエドの吊り上がった眉の力が抜け柔らかい顔になる。
「……わかった。用事はそれだけだ。じゃあ、またな!」
「ちょ、マスター!?」
それだけ言うと、エドは凄い勢いで去っていった。
速いな。
<
多分上位職、それも近接戦に特化してそうだ。
セフィールも俺たちに一礼するとエドを追いかけて行った。
『銀狼』か。
覚えとくか。
長い付き合いになりそうだしな。
その後、亀竜の魔石と素材のお金を受け取りギルドを後にした。
「あーあ!今日もいい人いなかったなあ。タスク兄はどうやってあのメンバーを集めたんですか?」
「募集だぞ。運が良かったんだ」
帰り道、歩きながら両腕を頭の後ろにまわしカトルが聞いてくる。
俺は最初の募集であの三人が来たのは軽い奇跡だと思う。
エドやセフィールと話している間、カトルは他の冒険者と話していたがハズレだったようだ。
カトルたちの為にも、もっと『侵犯の塔』の知名度上げないとな。
「タスク兄のパーティ強いから羨ましいですよ!俺も早く冒険したいなあ」
「カトルたちは絶対に強くなるから焦るな。焦って死んだら意味ないからな」
「はい!!」
この子達は強くなる。
ユニーク上位職を持って生まれてきた双子。
努力を重ねている粘体少女。
そして後二人……。
三人とも異種差別などしない子たちだ。
この大陸だけじゃなく、他の大陸でメンバーを集めてもいいかもしれん。
そのうち、大陸ごとに家買うか。
使用人は付いて来れないのだが。
なんかいいアイテムとかないだろうか。
カトルと話しているうちに屋敷に着いた。
ダイニングに入ってすぐにある物が俺の目に入る。
大盾。
その隣ではゼムがニカッと笑い、こちらに近付いてくる。
ゼムは俺の前に立つと両腕で持ち上げるように、大盾を俺に渡す。
受け取った俺は<鑑定>スキルを使用。
――――――――――――――――――――――――
【オレカルの大盾】
《亀竜の鱗加工》
・製作者:ゼム
・レベル:50~
・<VIT>B
・<RES>C+
・◇:なし
・◇:なし
――――――――――――――――――――――――
「どうじゃ?渾身作じゃわい」
面部分はオレカルの黄色に亀竜の緑が合わさった、光沢のある黄緑色。
把手部分もしっかりと持ちやすく魔物の皮を巻き加工してある。
細部の模様など飾り気は無くシンプルだがそれが良い。
よくわかってるな、ゼム。
「最高だ」
鍛冶職人で<VIT>Bは凄いな。
確かミャオの弓も<DEX>B-だったはず。
やはりゼムを引っ張って来て正解だったな。
因みにだが人間のステータス値と武器防具の値は表記こそ同じだが実数値が違う。
それは下位職の値と最上位職の値でも同じ事が言える。
だからこそ、ヴィクトリアやエドを見たときに下位職ではないとわかったのだ。
ともあれこれで―――
ダンジョンに行ける!
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