五十六話:和む日



 IDO時代、<調教師>の上位職や最上位職が魔物と契約することが出来た。

 契約した魔物は一段階進化させる事が可能で、調教職は一様にレベル上げをしていた。

 だが、IDO内に魔物のレベルやHP、MPはステータスバーで確認できたがステータスウィンドウとして見ることは出来なかった。


 その常識をひっくり返す出来事が目の前で起こっている。

 ポルは俺の顔を不思議そうに覗き込むように見ている。

 

「どーしたの?」

「いや、魔物のステータスウィンドウを見た事が無くてな。驚いた」


 期待しすぎかもしれない。

 だが、どうしても期待してしまう。

 この世界のフィールド上で暮らす魔物の中にも、星付きユニークスキルや特殊な姿を持つ個体が居るんじゃないか?

 もしも、居るとしたら……この子は化ける。

 それも一人で俺たちパーティを相手出来るかもしれないほどに。

 

 愉しすぎるだろォォオ!!


「タスク兄、嬉しそー」

「おう、嬉しいぞ」


 俺は勢い余ってポルの頭を鷲掴みにして撫でる。

 ピンピン跳ねた髪を気にも留めず、ポルは上目遣いで俺を見上げる。


「ポル、今度から虫捕りに行くときは俺に言うんだぞ」

「来るのー?」

「おう、付いて行く」


 わーいと両手を挙げながらフェイとカトルに近付いて行く。

 すると、俺の隣にミャオが来て、口を開く。


「あのーッスね」

「なんだ?」

「その虫捕りってアタシは……?」

「もちろん参加だ。異論は認めん」

「ッスよねー!あああああ!」


 両手をこめかみに当てて喜んでる。

 そんなに嬉しかったか。

 頑張ってユニーク個体見つけてくれ。

 

「私は時間がある時にご一緒させて頂きますわ」

「ん、頼む」


 途中からヴィクトリアも戦っていた。

 経験値は入らないが、時間短縮というやつだ。 

 そろそろいい時間だったので俺たちは屋敷へと戻った。


 

 翌日、俺は庭に布を敷き、その上にアンキラ姉妹と座っていた。

 今日は特に予定は入っていなかったので、姉妹と過ごすことにした。

 庭では、ポルが昨日捕まえた破壊蜂を呼び出し、フェイと戦っていた。

 カトルはその横からいろいろと声をかけるいつもの修練風景だ

 

「いい天気ですねっ!これどうぞっ」

「タスク様ぁ?何か食べますかぁ?」


 甲斐甲斐しく俺の世話をする姉妹を相手にしながら修練風景を眺めていると、俺と姉妹の座っている布に近付いてきたバトラが座る。


「お疲れ。園丁の腕が良いと生垣でも映えるな」

「そう言って頂けると、嬉しい限りでございますな」


 バトラの園丁としての腕は本当に良い。

 センスもいい。

 最近では通行人も驚かなくなった。

 

 俺たちがここに住む前は人通りの少ない時間や、隠れながら園丁業務をしていたらしい。

 なので、俺は「バレてもいいから人目を気にするな」と伝えていた。

 バレた所で国王すら知ってる事をどうこう言ってくる輩はいないだろ。

 体が少し透けてるだけで無害なんだから。


 俺たちが雑談に花咲かせていると、修練していた三人も布に座りる。

 三人の前には既に冷えたお茶が置かれており、ぐびぐびと喉を鳴らし飲んでいる。

 

 和むわ。

 良いのかこんなんで?

 否!断じて否だ!

 

 俺はガバッと立ち上がる。

 姉妹やバトラ、休憩中の三人は急に立ち上がった俺を見てポカンと呆けている。

 

「最近ダンジョンに行っていない!ダメだ。我慢できん」

「そういえばぁ!最近言ってないですねぇ」

「でもっ!出かけすぎですっ!」

「そうか?まぁ時間はいくらあっても足りないからな」


 この世界には必要な時間が多すぎる。

 例えば、魔石や素材を拾うという、IDO時代にしなくてよかった時間が増えている。

 それに動けば喉も乾くし、腹も減るので休憩も必須だ。

 自然と周回スピードが落ちるのでレベル上げにも時間がかかって来る。


 本来、MMORPGとはレベル100からが本番だ。

 それはこの世界でも変わらない。

 十等級ダンジョンなんかレベル100ないとお話にすらならない。

 

 という訳で俺は決心した。


「大盾が出来たらダンジョンに行ってくる」


 姉妹は諦めたらしくハァとため息を吐き、俺を世話してくれた。

 しばらく世話をされていると、屋敷の鉄柵門が音を立てて開く。

 赤いポニーテールの受付嬢、フランカが敷地内に恐る恐ると入ってくる。

 きょろきょろと辺りを見渡すフランカは、俺たちを見つけると走ってくる。


「ダズグざあああああん」


 走っている途中で何故か泣き出し飛びついてくる。

 立ち上がり、受け止めて事情を聴く。


「どうした?なんかあったのか?」

「いえ!ありがどうございまず!」


 涙拭いて話せよ。

 鼻水付けるな。

 落ち着け。


「お客様。ハンカチにございます」

「どうされたんですかぁ?」

「とりあえずタスク様から離れてくださいっ!」


 バトラはフランカにハンカチを渡し、姉妹が俺からフランカを引き剥がしてくれる。

 フランカはハンカチを受け取り、涙を拭くと姉妹とバトラを見て叫んだ。


「お、お化けえええ!え、えええ!?」

「うちの使用人だ。気にするな」


 フランカの言葉に姉妹はムスッとした表情で挨拶をする。

 バトラは揺るぎ無い素振りで挨拶をした。

 フランカも姉妹とバトラに挨拶をすると本題に入る。

 

「スタンピートの件、ありがとうございました!今日早馬が来て『侵犯の塔』というクランの方たちが助けてくれた、と手紙が届いたそうです!それでギルド本部から報酬が出たので持ってきました!」

「いいのか?俺たち八匹しか倒してないんだが?」

「どういうことですか?」


 国王の時と同じように掻い摘んでフランカにも説明をする。

 聞き終えたフランカはうんうん唸っていたが、すぐにいつも通りの表情に戻る。


「このまま受け取ってもいいんじゃないですか? その隕石落とした人?が居るかわかりませんし! それなら八匹でも倒してくださった『侵犯の塔』の方が受け取ったほうがいいですよ!」

「ん。それなら貰っとく。ありがと」


 袋を受け取り中身を見てみると結構入っていた。

 少しだけ中身を取り出すと、持ってきてくれたお礼としてフランカに問答無用で渡す。

 丁度お昼時だったのでフランカをダイニングに案内し、昼食も食べてもらった。


「お邪魔しました!ご馳走になっちゃってすみません!」

「気にするな。また何かあれば来ればいい」

「はい!またお邪魔させていただきます!あ、それと『侵犯の塔』の名前がギルド内で結構、噂になってるみたいなんですが大丈夫ですか?」

「ん。大丈夫」


 というかそれが目的だ。

 名声と実績は何よりも持っておきたいものだ。

 残りのメンバーを集めやすいし、未開拓地に入る際に使える。

 そのほかにも理由はいくつかあるが、当面はこの二つくらいに有効だろう。


「では、特に私から噂をしている人たちに何か言っておく必要とかはないですかね?」

「うん。でも頼みたい事はあるかな」

「何ですか?私に出来る事なら何でもしますよ!」


 な、何でもって言った?

 なんてベタな事は言わない。


「メンバー募集用紙にクラン名いれといて」

「わかりました!ギルドに帰ったらすぐに入れておきますね!」

「よろしく」


 フランカは一度頭を下げ、手を振りながら去っていく。

 俺は内心ガッツポーズを決め小躍りする。

 フランカが帰った後も姉妹に付き合わされ―――



 休日二日目が終わる。

 

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