四十九話:初戦
まただ。
腰が痛い。
ケツが痛い。
体の節々が痛い。
「帰って良―――」
「言わせないッスよ!?」
俺の言葉を遮るミャオ。
ちっ。
馬に乗り、サントリナの街を出た俺たち五人は土を踏み固められたような道を疾駆していた。
目指すは『千年孔』というダンジョン―――ではなく、亀竜を迎え撃てそうな場所。
街を出る前に冒険者ギルドのマスターに貰った大雑把な地図を頼りに、森の中の少し開けた場所を目指して走っていた。
早いもので野営を挟み二日が過ぎた頃、目的地である森の中に広がる草原に着いた。
草原はサントリナと『千年孔』の途中に位置しており、見晴らしもいい。
少し行けば森が広がっているので、ここで戦うのがベストだろうと踏んだ。
だが……。
「あのお城は何なんッスかね?」
「ダンジョンだ。アレは俺たちがいずれ踏破する予定のダンジョンでもある」
この草原は『いにしえの皇城』が少し遠くの高い丘の上に見えている。
「ダンジョンだったんッスね!等級はどのくらいなんッスか?早く行ってみたいッス」
「十等級だ」
「やっぱり行きたくないッス」
掌を反すのが早かった。
だが何があってもあそこだけは付き合ってもらう。
別にクランホームにしようとかは微塵も思っていない。
このメンバーでかつての仲間たちを超えたいだけ。
ただの我儘だ。
俺たちは草原に大きな布を敷き、その上に座りお茶を啜る。
待つこと一時間ほど経った時、小さく地鳴りの様な音がする。
草原の奥、森に生え揃った木の上から小さな何かが見えてきた。
ミャオが『イーグルアイ』を発動させたのか目の色が変わり、次第にプルプルと小刻みに震えだす。
「大丈夫か?」
「あの……エルダードワーフよりおっかないんッスけど……」
そりゃ、そうだ。
難易度六等級を超えた辺りから、等級が一つ上がる度に強さも跳ね上がる。
運営が俺たちを確実に殺しに来ているレベルで。
次第に地鳴りの様な足音や木の折れる音が響いてくる。
刹那、一本の首が森の奥から顔を伸ばし、飛んでいる鳥型の魔物に向けブレスを放つ。
吐き出された高圧の水流は一瞬で鳥型の魔物を捉えると跡形もなく消し飛ばす。
その光景にミャオとリヴィは震え出し、ヘススの額からは汗が出る。
ヴィクトリアだけが冷静な表情でその光景を眺めていた。
「ヴィクトリアは大丈夫そうだな」
「大丈夫じゃありませんわ。抱きしめてくださいます?」
「あ?断る」
クスクスと笑うヴィクトリア。
ミャオとリヴィに近付き、ポンポンと頭と軽く叩く。
「お前たちはいつも通りやればいいんだよ」
自信なさげに頷く二人からヘススに視線を移す。
「怖いか?」
「正直言うと怖いであるな」
「ん。それでいい」
ヘススは恐怖するくらいが丁度良い。
感情を表に出さないほうが逆に怖い。
何かあっても気付けないのは死に直結する場合があるからだ。
「よし、行くか」
俺の言葉に皆は頷き、武器を構える。
五分程すると木々を倒しながら、一体の亀竜の姿が露になる。
二階建ての一軒家大の甲羅を持ち、大木よりも太い首を持っている。
甲羅から出た部位には硬そうな鱗が生え揃っている。
縦長の瞳孔は俺たちではなく遠くを見ているあたり、敵とすら思っていないのだろう。
『チャレンジハウル』を放つと同時にリヴィは全員にバフを掛ける。
亀竜の目がようやく俺を捉えると鼻をピクリと動かす。
「ア?いきなりブレスかよ」
『オーバーガード』発動、真上からのブレスを大盾で受け、踏ん張る。
うん、クッソ重い。
リヴィのバフ系が無かったらヤバかったな。
上から叩きつけるように吐かれた水流で、足が草原に突き刺さる。
ハハハ。
愉しいなァ。
『フォース・オブ・オーバーデス』発動ォ!
亀竜の体が『死の恐怖』によりビクンと揺れ、頭と手足を甲羅の中に引っ込める。
「行くぞォー!」
俺の号令と共に、ミャオが『イーグルアイ』『メルトエア』『ジールケイト』『ウィークアタック』を重ね掛けし終わった状態で弓を引絞っている。
そして、『ピンポイントショット』ではなく『パワーショット』を放つ。
精密性を捨てた威力重視で放たれた矢はミスリル製。
エルダードワーフ戦以降、ミャオが『ピンポイントショット』無しでも当てられるように隠れて練習をしてきた一撃。
風切り音と共に弦音が響く。
その矢は引っ込んだ首の付け根、亀竜の弱点に深々と突き刺さる。
亀竜からすれば、爪楊枝くらいの大きさだな。
されど爪楊枝だぞ?
ヘススの『ディングリース』により傷から漏れる魔素が増える。
<拳闘士>スキル『ファスト・ステージ』:<STR>・<AGI>・<CLI>の弱上昇。
発動、ミャオの攻撃と同時にヴィクトリアは亀竜のすぐ近くまで駆けており、ドレスを揺らしながら飛びあがる。
ヴィクトリアの『ファスト・ステージ』はリヴィのバフと重複するため、三つのステータス値は大幅に上がっている。
その状態から深々と突き刺さった矢の筈を目がけてスキルを放つ。
<拳闘士>スキル『イラ・メドゥラ』:貫通重視の打撃。
発動、矢の筈に拳が当たり、亀竜の首筋に見えなくなるほど埋没し、ストローの先から液体が出るように魔素が噴出する。
ヴィクトリアの着地と同時に呻き声をあげながら、亀竜は顔や手足を甲羅から出した。
<拳闘士>スキル『セカン・ステージ』:<STR>・<AGI>・<CLI>の上昇。
発動、出てきたばかりの亀竜の横顔を思いきり『イラ・メドゥラ』でぶん殴る。
出てきたばかりの無防備な横っ面に拳を叩き込まれた亀竜の巨大な頭は一度揺れ、ミャオによって放たれた矢が左の眼球の中心に突き刺さる。
怒ったのか、亀竜は後足で立ち上がり左足を俺目がけて下ろしてくる。
さすがに踏みつぶされるのは避けたいが―――
俺は逃げん!!!
左足が大盾に当たるタイミングで『シールドバッシュ』でパリィ。
だが、それだけではビクともしない。
すかさず『インパクト』を放ち、浮き上がった左足を『パワーバッシュ』でぶん殴る。
下ろしてきた左足がズレ、地面に付く。
反対の右足の下にはヴィクトリアが立っており、スキル同時発動。
<拳闘士>スキル『サード・ステージ』:<STR>・<AGI>・<CLI>の大上昇。
<拳闘士>スキル『マグナム・メドゥラ』:威力重視の打撃。
黒いドレスを飛びながら翻し、下りてくる右足に拳を叩き込む。
右足が側方にズレ、両足をずらされた亀竜は腹から地面に倒れ伏す。
着地したヴィクトリアはドレスのスカートの裾を摘み、礼をする。
いいね。
巨体が倒れるサマは気持ちいいよなあ!
伏した状態になった亀竜の右の眼球にミャオが『パワーショット』を放ち突き刺す。
右足近くに居たヴィクトリアが飛び上がると、右目に刺さった矢の筈を『イラ・メドゥラ』で埋没させる。
<拳闘士>スキル『ラスト・ステージ』:<STR>・<AGI>・<CLI>の大幅上昇。
発動、と同時にヴィクトリアの姿が一瞬ブレ、消えた。
すげえ速いな。
下手すれば素のミャオより速いんじゃね?
それは無いか。
ヴィクトリアは既に左目の前に飛び上がっており『イラ・メドゥラ』で矢の筈を殴った。
両目に矢を埋没された亀竜は怒り、暴れまわる。
大人しくしろよ。
『フォース・オブ・オーバーデス』発動。
十数分後、本当の死が亀竜を襲う。
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