三十九話:堀小人の坑道
カトルとポルを屋敷に迎えて三日が経った。
カトルとポルは王都での暮らしも徐々に慣れてきている。
一緒に住むにあたって二人の事を少し聞いてみたのだが、元々カトル・ポル・両親の四人は根無し草だったらしく、四人で旅をしながらダンジョンに潜り、路銀を稼いでは旅をするといった生活を送っていたようだ。
なんというかハードである。
この子たちは甘やかしてやろう。
カトルとポルを迎えてからも俺たちは、グロースからの依頼であるテアのレベル上げに精を出していた。
ここ三日とも全てダンジョンを変えており、難易度こそ変わらないが、勉強になると思うダンジョンに赴いている。
俺はあくまで傍観者だったので周回ペースは速くないが、それでもみんなはメキメキとレベルを上げていった。
その間、へススとゼムは「体が鈍る」とか言ってカトルとポルをつれてダンジョンに行っては、敵を薙ぎ倒し、カトルとポルのレベル上げをしている。
依頼を終わらせて二人を連れてダンジョンに行かねば。
――カトルとポルが来て三日目の夜。
俺が晩御飯を食べていると、ゼムが話しかけてきた。
「明日は休みじゃったよな?」
「そうだぞ」
「だったら、ワシに付き合ってくれんか?」
おお、ゼムから誘ってくるなんて珍しい。
これは明日は槍が降って来るかもしれないな。
「お前さん。なんか失礼な事を考えとらんか?」
「そんなことないぞ。俺の目を見ろ」
「嫌じゃ。お前さんの目なんぞ眺めたくないわい。で、付き合ってくれるのか?」
「いいけど、どこ行くんだ?」
「買い物じゃ。金属が欲しい」
もう無くなったのか? 結構、渡してたはずなんだが。
ゼムの集中力をナメてたな。
一度、鍛冶をしているゼムを見た事がある。
その時は周りの音が一切、耳に入っていない感じだった。
しかし、まあ、今のゼムの職<鍛治職人>で、いくら鉄を打とうと満足できないだろう。
ならば!!
「買い物は却下だ。ゼム、鉱山へ行こう」
「はあ!? 正気か!? 鉱山に行ったところで鉱石が採れるかどうかわからんじゃろ!」
「大丈夫だ。絶対に採れるところがある」
もちろん、ダンジョンだけど。
ポカンと呆けているゼムを放置し、俺は座っているミャオとリヴィの間から顔を出し、ニッコリ笑顔で話しかける。
するとミャオとリヴィは俺の顔を見るなり「ひッ」と小さく声を漏らし、体を傾けさせながら離れた。
「失礼では?」
「その顔をしてる時のタスクさんは恐ろしいんッスよ! 絶対、とんでもない事を考えてるッスから!」
リヴィはコクコクと頷き、逃げようとする。
……が、逃がさない。
俺はリヴィの肩をガシッと掴み、椅子に座らせる。
「そんなことないぞ? ただのピクニックのお誘いだ」
「ピクニック……ッスか?」
「ああ。明日、山に行くんだが一緒に来ないか?」
嘘は言っていない。
鉱『山』に行くのだから。
「それなら行くッス!」
「……ミャオが行くなら。」
よし。
言質はとった。
俺はヘススにも声をかけると二つ返事で了承された。
ヘスス、お前ほんとに付き合い良いな。
断ってるのを見た事ないぞ。
夕食も終わり、食器をアンとキラの二人と片付ける。
その後はダイニングでみんなと雑談をした。
ここ最近では毎日屋敷に帰ってきているので、話す時間も多くみんな結構仲良くなりつつある。
――翌日。
俺たちは山、もとい鉱山に来ていた。
隣に居るミャオは肩を上げ、ワナワナと震えている。
リヴィは「お前、騙したな?」と言わんばかりに、眉を顰めて俺を下から睨み上げてきた。
「うし! 行こうか!」
「待つッス」
「……待ってください。」
早速、俺がダンジョンの方へ歩き出そうとすると、ミャオが右後ろから、リヴィが左後ろから服を掴んできた。
なんかデジャヴを感じる。
「何かな?」
「これの!! どこが!! ピクニックなんッスか!? アタシたち信じてたんッスよ!? お弁当もほら!!」
ミャオは布に包まれた箱を俺に突き出しながら怒鳴る。
俺はそんなミャオの肩に手を乗せ、諭すように言った。
「いいか? ミャオ。ピクニックとは、野外でご飯を食べたり、遊んだりすることを言うんだ。だから鉱山に来て、ご飯を食べて、ダンジョンに行けばそれは立派なピクニックだ」
ガパッと大きく口を開け、呆然としているミャオ。
その隣でリヴィは頬を膨らませ、プルプルと震えていた。
そんな中、後ろで鉱山を眺めていたゼムが声を漏らす。
「まさかとは思ったが……ここを選ぶとはな……」
今、居る鉱山は『
『
『堕落した隠れ里』同様、少し精神目が心配だが、このダンジョンでボスがドロップする鉱石がどうしても欲しい。
「来たはいいが、ゼム。……お前、大丈夫か?」
「なーに、大丈夫じゃ。ワシに遠慮はいらんぞ」
そう言ってゼムはダンジョンの入口へと歩いていく。
「ヘススは大丈夫か? 相手はドワーフだぞ?」
「問題ないのである。それが必要なことならば、相手が同族であろうと拙僧は攻撃できるのである」
ゼムといい、へススといい、ほんと頼もしいやつらだ。
その後、俺たちが『
この『
地下型とは『嘆きの納骨堂』のように階段を降りては、また進んでいくといったタイプのダンジョンだ。
『
短いかと思えばそうでもない。
その理由は、すべての階層にボスがいるからだ。
加えて、下へ降りる階段は各階層のボス部屋の奥にある。
そして一階層から四階層のボスを倒したとしても、ボス部屋の扉は開かないため、途中で引き返すことが出来ない。
故に――難易度六等級。
そう、『
しかし、テアのレベル上げ序にミャオとリヴィもレベルが上がっている今の俺たちならば問題ないはずだ。
「前から来るッスよ!」
しばらく歩き進んでいると、ミャオが声を上げる。
ミャオの言う通り、前方には手入れのされていないモジャモジャの髭を生やした二匹のドワーフが居た。
服の上からでも分かるほど太く筋肉質な剛腕で、先端の鋭いピッケルを握りしめながらドスドスと走ってくる。
リヴィの『バフ』が全員に掛かるのと同時に、俺は『チャレンジハウル』を放ちながら駆け出すと、ドワーフAが振り下ろしてきたピッケルを大盾で真正面から受け止めた。
次いで、ドワーフBが振り下ろしてきたピッケルにタイミングを合わせ『シールドバッシュ』でパリィする。
体勢を崩したドワーフBに、ミャオがすかさず『パワーショット』を撃ち込んだ。
すると――。
「ッ!? なんでッスか!?」
ミャオは驚きの声を上げる。
それもそのはず。
ミャオの放った矢がドワーフBの胸部に当たると『キン』という金属音と共に弾かれ、刺さらず地面に落ちたのだ。
これが六等級。
ただで通してくれるほど、お優しくはない。
ミャオは一瞬悩み、弓を魔法鞄に戻すと短剣を取り出す。
いいね、いいね。
ちゃんと考えてるようだ。
ミャオを横目に俺がドワーフAの振り下ろしてきたピッケルを受け止めると、ドワーフAの後頭部をゼムが大槌で思い切りぶん殴る。
「硬すぎるわい! 本当に効いとるのか!?」
「ああ。効いてるから心配すんな」
俺たちが話している隣で、ドワーフBが立ち上がり、ドワーフAと同時にピッケルを振り上げてきた。
同時はキツいと思った俺は『インパクト』を発動させる。
ドワーフA・ドワーフBはどちらも後方に吹っ飛び、ヘススが<闇属性魔法>でドワーフAの片腕を撃ち抜く。
俺はそのままドワーフAに近付き、吹っ飛んで転んでいるドワーフBはミャオとゼムに任せる。
戦い続けること十数分後。
ようやく二匹のドワーフが霧散した。
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