二十話:オークション
『蟒蛇の塔』を踏破してから二日後。
俺たちは王都に戻ってきていた。
もう少し周回していたかったのだが、戻ってきたのには三つ理由がある。
先ず一つ目は俺の槍。
折れた。
それはもうポッキリと。
しかし俺は「大盾だけでもいける!」と四人を説得したのだが結局ダメだった。
次いで二つ目は『五頭大蛇の体鱗』。
こちらも「俺のインベントリに入れておけば劣化しないから!」と説得したがやはりダメだった。
因みにだが、蛇人間の魔石と素材、五頭大蛇の魔石は全て冒険者ギルドに売り払った。
その時、赤髪ポニーテールの受付嬢は遠い目でブツブツと何かを呟いていたけど……これからもいっぱい売りつけるので頑張って欲しい。
最後三つ目はゼムのレベル。
下位職の上限値であるレベル50になった。
ちゃんと昇格できるのか?
レベルやステータスはリセットされるのか?
どのくらいステータスが伸びるのか?
など、思うところがたくさんあったので「昇格してからもう一周しよう!」と説得したが断固として拒否された。
な・ぜ・な・の・か!!
こうして今、俺は何処かわからない大きなドーム状の建物に連れてこられて椅子に座らされている。
どこ? ここ? IDO時代に侵入できなかった建物なのは間違いない。
というのも王都に何度も訪れた事がある俺ですらこの場所に見覚えがないからだ。
俺の周りは階段型の客席があり、正面には大きなステージの上に台が一つあるだけで誰も居ない。
大人しく座ったまましばらく待っていると「おまたせしました!」と拡声器の魔道具を持った男性が勢いよくステージ上に現れた。
その時、察した。
ここがオークション会場なんだなと。
どんな商品が売りに出されているんだろう? もしかしたらレアアイテムがあったり? もしかしたら俺の知らない凄い物があるかも? ちょっと楽しみになってきた。
レアアイテム――それはダンジョンのレアドロップ品はもちろんのこと、IDO時代は簡単に手に入った課金アイテムですらこの世界ではレアアイテムの部類に入る。
それは何故か。
課金の概念が無くなったであろうこの世界で、どうやって課金アイテムが手に入るかわからないからだ。
あ……待った。
俺、入札方法知らねえ。
知ってそうなゼムも今、居ないし……困った。
憶測でしかないのだが出品者として会場の裏にでも居るのだろう。
頼みの綱は隣に座っているミャオ・リヴィ・へススの三人だけか。
「誰か入札方法知ってる?」
「知らないッスよ? アタシ、初めて来たッスもん」
「……ごめんなさい。……私もです。」
「同じくである」
……終わった。
いや、まだだ。
周りを見て覚えれば良いだけだ。
「ミャオ。出番だ!」
「へ? なんッスか?」
「盗賊のスキルに遠視があるだろ」
<盗賊>スキル『イーグルアイ』:洞察力が上昇する。
本来は敵の動きを細部まで見るためのスキルだが、オマケに遠視効果がついていたはずだ。
「あるッスけど……こういう時に使うためのスキルじゃないッスよ」
「知ってるぞ。だが、使わなきゃ損だ。もしかしたら物凄いレアアイテムが出品されてるかもしれんしな」
俺がグイッと顔を近づけながらそう言うと、ミャオはおずおずと後ずさりながら口を開く。
「わ、わかったッスよ。やればいいんッスね。やれば」
俺はニヤリと笑顔を作り頷く。
それを見たミャオとリヴィの顔が引き攣っていた。
失礼な奴らめ。
そうこう話しているとステージ上の競り人が口上を述べ終わる。
話を聞く限り、どうやら今回は商品が五つあるとの事だった。
早速、一品目を乗せたワゴンが露出の多い女性に押されてステージ上に運ばれてくる。
競り人はワゴンの上に乗せられた小瓶を示しながら叫んだ。
「なんと! 一品目はこちら! 治癒ポーションです!」
……は? なんて?
どんどん値が上がっていく中、俺は<鑑定>スキルを使い、ステージ上のワゴンに乗せられた小瓶を見てみる。
――――――――――――――――――――――――
・
効果:傷の治癒。疲労の軽減。
――――――――――――――――――――――――
……まじかよ。
ショボすぎるぞ。
普段から俺がダンジョンに潜る前、ポーチに入れてみんなに渡しているのは
それなのに……。
先程の治癒ポーションがIDO時代の数十倍の値段で売れていく。
……冗談だろ。
もう、いいや。
「ミャオ」
「なんッスか?」
「もうやめだ」
「え? なんでッスか?」
「もういいんだ。期待した俺が悪かったんだ」
「へ? は? 何のことを言ってんのかわかんないッスけど……とりあえず、やめていいんッスね?」
「ああ」
二品目、三品目と終わっていったが、これといって珍しい物も無く、値段だけがあり得ないほど上がっていった。
この分じゃ何もないだろうと思い俺が席を立ちあがった、その時、四品目が自らの足でステージ上へと
そしてステージ中央に立ち、客席側に体を向けたのは水色の粘液が人型をとっている幼い少女。
首には魔道具の首輪が嵌められており、抹茶色のボロい布を一枚だけ纏いっていた。
魔人種――それも
見た所、十歳前後に見えるが。
ところで……。
「なんだ? アレ」
「あー、奴隷ッスね。最近では街中でも良く見かけるようになったッスよ」
「なるほどな」
「……ひっ。」
「た、タスクさん? どうしたッスか? 怖いッスよ?」
リヴィは怯え、ミャオは驚き、ヘススは片目を開けて俺の方を見てくる。
それもそのはず。
今の俺は自分でもわかるほど、ブチギレ寸前だ。
IDO時代、四大大陸のどこの国にも奴隷制度は無かった。
因みに四大大陸とは海を挟んで東西南北に分かれた大きな大陸の事を指しており、主に、東に人種、西に獣人種と亜人種、南に魔人種とそれぞれ種族が別れて暮らしている。
中にはミャオ・リヴィ・へススのように大陸を渡って暮らしているものもいるのだが。
そしてもう一つ、前述しなかった北には未開拓地と呼ばれる全体が濃い魔素と深い森に覆われた大陸あるが、とても人が住める場所では無いため奴隷制度どころの話ではない。
「ミャオ、あの子は奴隷で間違いないんだな?」
「はいッス」
「これをしたら奴隷になるとかって条件はあんのか?」
「詳しいことはわかんないッスけど……あの子の場合は捕まっちゃったんじゃないッスか?」
捕まった? 捕まったら奴隷にされるのか?
今思えば王都で一度も魔人種を見ていない。
ほとんどが人種で、居ても獣人種と亜人種くらいだ。
何故だ? この世界では何が起こってる? 考えたところでわからんから、今はとりあえず……。
「ミャオ」
「今度はなんッスか?」
「あの子を競り落とせ」
「へ? はあッ!?」
ミャオは一瞬ポカンとした後、驚愕の表情に変わり、すぐに嫌そうな顔をした。
だがそんなことは関係ない。
何としても競り落とす。
あの子が何をしたのかは知らん。
犯罪を犯したのかもしれん。
将又、別の理由があるのかもしれん。
だが、そんなもん知らん。
ただただ、俺が気に入らん。
自分でもわかっている。
これは俺の我儘だ。
だが、しかし、見過ごせん。
「ほんとに競り落とすッスか?」
「ああ。いくらかかっても構わん。競り落とせ」
「やってみるッス」
ミャオが競り人の言った金額の少し上の金額を提示する。
すると負けじと他の買い手が俺たちの出した金額の少し上を提示し、競り人がその値段を叫んだ。
ええい、まどろっこしい。
「ミャオ。倍出せ」
「えッ!? そんなに出しちゃって良いんッスか?」
「構わん。やれ」
ミャオが現在の金額の倍を提示する。
刹那、その場の空気が凍りついた。
こうして俺は粘体種の少女を競り落とした。
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