十五話:休日(上)
『いにしえの皇城』を出た俺は王都に戻り、購入した屋敷の玄関でホーム設定をした。
これで『いにしえの皇城』はダンジョンに戻ったはずだ。
これからはこの屋敷が俺たちの家になる。
うし、気持ちを切り替えていくか。
最低限生活ができるようにするとしよう。
思い立ったが即行動、取り合えず照明魔道具の燃料である魔石が、魔力切れしていたので全て取り換える。
次いで二階に上がり自分の部屋に行き、課金して入手した家具を設置した。
IDO時代の時と何か変わっていないかと<鑑定>スキルで色々と見てみたところ、どうやら課金ベッドは疲労や傷の回復速度が上がるらしい。
効果のほどは試して見てからのお楽しみだな。
課金タンスはIDO時代と同じで見た目以上の容量を仕舞えるようになっていたので助かった。
その他にもたくさんの課金家具を設置し終えた俺は持ち帰ったものを整理するため倉庫に籠る。
俺に扱えない武器や防具をはじめ、劣化しない物やアイテムなどを次々に棚に置いていき、劣化する物や各種ポーションなどはインベントリに詰め込みなおした。
屋敷に元からあった棚などは最大限利用させてもらう。
次にキッチンへと行き錆びた調理器具や腐った食材は全て処分し補充した。
キッチン回りのコンロや冷蔵庫などの魔道具も魔力切れしていたので全て取り換える。
こうして全ての部屋を回り終えたころには日も暮れ、外は真っ暗になっていた。
おおう、時間の感覚が全く無かった。
うーん、腹減ったな。
俺は晩御飯を作ろうとキッチンへと向かった。
すると美味しそうな匂いが鼻孔をくすぐる。
扉を開けキッチン内に入ると、アンが料理をしていた。
「へえ。
「食べませんよっ? これはタスク様の分ですっ」
「そうなの? ってかアンは料理ができたんだな」
「生前から料理は大得意でしたっ! なのでこれからも料理は全て私にお任せくださいっ」
アンはフフンッと鼻を鳴らしながら無い胸を張っている。
自信あるみたいだし任せるか。
だけど、たまには手伝ってやろう。
「ありがと。何か欲しい物があったら遠慮なく言ってくれ」
「はいっ! ありがとうございますっ」
キッチンを出た俺は隣のダイニングで椅子に座って待っているとワゴンに乗せられた料理が運ばれてくる。
次々と並べられていく料理はどれも美味しそうで、料理が大得意というのは本当だったようだ。
いいね。
想像以上に
俺が料理を黙々と食べていると、隣でアンがソワソワとしながら見てくる。
これは……感想を言った方がいいのだろうか? でも気の利いた一言など俺には無理だしな。
まあ、無難にでいいか。
「めちゃくちゃ美味しいぞ。この料理が毎日食べられると思うと嬉しくなるな」
やべえ……自分で言っといてなんだが、臭え! なんか恥ずかしくなってきた。
俺は横目でアンを見る。
アンは満面の笑みを浮かべ、口元が緩み切っていた。
よぉし。
お世辞など一切抜きで美味しかったのですぐに完食してしまった。
アンはスキップしそうな勢いで食べ終わった食器をキッチンへと運んでいく。
すると入れ違いでキラがダイニングに入ってきた。
「アンちゃん凄い上機嫌だぁ。タスク様が何かしたんですかぁ?」
「いや。何もしてないぞ」
「えー、本当ですかぁ? あ、そういえばタスク様ぁ。お風呂の準備できましたよぉ」
「何から何までありがとな。ホント助かるわ」
「それがお仕事ですのでぇ。お背中流しますぅ?」
「流さなくていい」
俺が即答するとキラはプクーッと頬を膨らませ、ジト目で見つめてくる。
俺は逃げるようにダイニングを出て、風呂場へと向かうと更衣室には綺麗に畳まれたタオルが置いてあった。
ほぼ一日整理していたこともあって埃まみれになった服を脱ぎ、浴室に入ると大きな湯舟にお湯が張られ湯気が上がっている。
おおおおおッ! いいぞ、いいぞお!
この世界に来てからというもの、温泉以外で肩までお湯に浸かっていない。
こんなんテンションが上がるだろ。
しかーし、まずは体を洗う事が先だ。
俺はペタペタと水捌けの良さそうなタイルを歩き、シャワーの魔道具に魔力を流しながら体を隅々まで洗っていく。
そして待ちに待った湯舟に浸かり体を温め、腕や足などを揉み解した。
一時間くらいお風呂を堪能した後、浴室を出ると既に脱いだ服はそこになく、代わりに新しい服が置かれていた。
え? あの子たち優秀すぎでは? 俺、何もしなくて良いじゃん。
着替え終えた俺は自分の部屋へと戻り、課金ベッドに潜りこむ。
刹那、疲労感がスーッと体から吸われていく感覚に襲われた。
加えて、睡魔も凄い勢いで襲ってくる。
ヤバい。
これは癖になる。
これは……スヤァ。
睡魔との闘いに敗れ、俺は寝た。
――翌朝。
目を覚まし上体を起こすと体内が空になったんじゃないかと思うほど軽かった。
これ本当に大丈夫だよな? 若干、怖いわ。
そんな事を思いつつ私服に着替えた俺は部屋を出て階段を軽快に降りる。
そしてダイニングの扉を開け中に入ると、アンが既に朝食の準備を終えて俺の席の横でスタンバっていた。
……多くね? 朝食から物凄い気合を感じるんだが。
それにしてもこの子たちはちゃんと寝ているのか?
もし寝なくていい体なら俺も欲しい。
そうすればダンジョンに行ける。
「おはよ、アン」
「おはようございますっ! あの、タスク様っ。今日は何かご予定はあるんですかっ?」
「少しね。なんで?」
「少し足りない物があるので序に買ってきていただけないかとっ……」
「いいぞ」
朝から少し……いや、凄く多かったが完食すると、アンは嬉しそうに食器を片付ける。
俺はダイニングを出て、玄関ホールへ向かうとキラが掃除をしていた。
「おはよ」
「おはようございますぅ。お出かけですかぁ?」
「ああ。買い物に行ってくる」
「あ、では序に買ってきてほしい物があるんですがぁ」
「いいぞ」
キラからも頼みごとをされた。
まあ、敷地内から出られないから仕方ないか。
使用人たちは優秀なので、その程度は些細な事だ。
外に出るとバトラが生垣や庭の手入れをしていた。
俺が手を挙げるて挨拶をすると、バトラはススッと近付いてくる。
「タスク様。おはようございます」
「おう、おはよ」
「申し訳ございませんが、お願いがございます」
「いいぞ」
バトラにも頼みごとをされた。
まあ、知ってた。
流れ的にそうだとは思ったよ。
屋敷を後にした俺は四箇所ある目的地の中で一番近いゼムの店にやってきていた。
店内に入ると何故かそこに居たミャオと目が合う。
「おはよーッス!」
「おはよ」
「ん? なんじゃ、お前さんも来たのか」
「おはよ。も、ってなんだ? も、って。俺は大盾と防具を買いに来ただけだ」
「タスクさんもッスか? アタシもッス!」
「嬢ちゃんはもう買ったじゃろ! はよ帰れ!」
「えー、良いじゃないッスか! 交流は大事ッスよ?」
「そう言って後何時間居座るつもりじゃ!」
察し。
こいつよっぽど暇なんだろうな。
なるほど。
ゼムが疲れた顔をしているわけだ。
だがミャオの言う通りコミュニケーションは大事だ。
頑張れ、ゼム。
俺はレベル25以上が装備できるミスリル製の大盾と軽鎧を手に取りゼムに料金を支払う。
いらないと言っていたが今回は無理やり渡した。
しかし、今回ゼムの店に来て気付いたのだが……ミスリル以上の装備が無い。
ミスリル以上の良い物となると危険な場所やダンジョンでの鉱石採取が必要になる。
そのうちパーティメンバー全員で鉱石採取に出かけないといけないな。
まあ、まだ行かないけど。
鉱石があっても加工できる腕がないと意味がないからな。
「じゃあ、俺は帰るよ」
「えッ!? もう帰っちゃうッスか? もっとたくさんお話しするッスよ!」
「お前と違って、俺にはまだ用事が残ってんだよ」
「う。それじゃ仕方ないッス。ゼムさんで我慢するッス」
「我慢せんでいいから嬢ちゃんも帰――」
「嫌ッス!」
ギャーギャーと言い合いをする二人を横目に店を出る。
なんだかんだうまくやってるようで良かった。
ゼムの武具店を後にした俺はアンに頼まれていた食材や調味料を買いに行く。
昼時という事もあり、市場は賑わっていた。
人混みをかき分け、少し広い場所に出たその時――不意に後ろから声をかけられる。
「……こんにちは。」
「お? リヴィも買い物か?」
「……はい。」
リヴィは食材の入った紙袋を両腕で抱えている。
何故? 宿暮らしだったよな? 食堂くらいあるんじゃねえの? 宿に泊まった事ないから知らんけど。
「用事は終わったのか?」
「……はい。」
「じゃあ、俺の買い物に付き合え」
「……え。」
これは決してデートのお誘いでは無い。
リヴィは目が利くから連れていくだけだ。
というのも『ましらの穴倉』に行く前、大量に買い込んだ食材の善し悪しを全て教えてくれた。
俺は戸惑うリヴィを問答無用で連れまわす。
お詫びに昼飯を奢るとさらに戸惑っていた。
そうしてリヴィと別れた後、バトラに頼まれていたガーデニング用具やキラに頼まれていた掃除道具などを買い、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます