第11章 朔の月輪

第51話 残る気配

 小さな山を登った先に、その家はあった。

 山の上と聞いて采希はログハウス的なものを想像していたのだが、きちんとした和風の、しかもかなり大きい家だった。

 家屋のさらに先に畑が見える。こちらも結構な広さだ。

 采希さいきたちの気配に気付いたように、農作物の間で動いていた人影が立ち上がってこちらを振り返った。


「こんにちは~! 初めまして、那岐なぎです! よろしくお願いします!」


 腹筋を使った那岐の大きな声に、人影はちょっと笑いながらこちらに歩いて来る。

 少し猫背で俯き加減に畑の畝をまたぎ、采希たちの傍を通りながら手招きする。

 ぼさぼさの頭にキャップ、薄汚れたツナギと長靴。無精ひげを差し引いても、姪であるあきらとは似ても似つかないその風貌に采希は少し戸惑った。


 血の繋がりはないも同然なので似てなくて当然なのだが、巫女が自分よりも上だと絶賛するような能力者にはとても見えなかった。

 男の後に付いてぞろぞろと玄関をくぐると、彼が采希たちに向き直る。


「……本当に来たんだな。ま、上がってくれ」

「はい、宮守さん。あの……迷惑なのは承知なんですけど……」

「いや、迷惑じゃない。畑仕事も手伝ってくれるんだろ?」

「それはもちろん。ただ――」


 物珍しそうにきょろきょろと家の中を検分する那岐と琉斗りゅうとに視線を移す。


「すみません、俺一人で来るはずだったんですが……」


 話しながら男の後に続くと、広い居間に案内された。

 広い部屋に、ずっしりとした大きめの座卓が艶やかに鎮座している。いかにも高そうだ。

 采希に座布団を勧めながら、彼――れいがおもしろそうに笑った。


「那岐、だっけ? 元気だな。……もう一人は、誰だ?」

「従兄弟の琉斗です」


 名前を聞いた黎は、開け放たれた障子の向こうにいる琉斗を思いっきり振り返り、その背中をしみじみと眺める。


「――あれが琉斗か……」


 琉斗がどうかしたんだろうか、と采希は黎を見つめる。琉斗の話をした記憶はなかった。


「あきらが、似てるって言われたってな」


 笑い含みに話す黎に、采希は納得する。


「そうですね、話し方とか物事に対する反応とか……本音を隠せないとことか、似てると思います。頭の良さは正反対ですけど」


 なるほど、と黎が小さく頷いた。


「電話でも言ったけど、俺の事は『黎』でいい。――で? 除霊やらの依頼の電話に辟易して逃げて来たんだろ?」


 采希は大きなため息をついて、頷いた。




 黎の予告通り、次から次へと采希に出動を依頼する電話が掛かってきた。こちらの機嫌を損ねない程度の対応と丁寧さではあるものの、如何せん数が半端ではなかった。

 どう言葉を尽くして断っても、そこを何とかと食い下がる。

 世の中にはこんなに霊が溢れているのか、と采希がうんざりするのに、そう時間は掛からなかった。

 中でも一番多かったのが除霊。そして、呪われてるから呪詛返しをしてほしい、ライバルを呪ってほしい、ある相手から守ってほしい、等々。


「さすがに予知に関する依頼はなかったけど……あきらもあんなに呪いがらみの依頼を受けてたんですか?」

「そうだな、呪詛返しは多かったと思う。呪ってほしい、って依頼には一喝して追い返していたけどな」


 思い出し笑いをしながら、湯呑にお茶を注ぐ。采希の方に湯呑を押し出しながら、後ろを振り返った。


「おーい、琉斗、那岐、お茶だ」


 どたどたと二人が居間に駆け込んできた。

 余所様のお宅を訪問してはしゃぐ成人男子は、子供よりも始末が悪いと采希は頭を抱える。


「兄さん、この家、すごい。奥に道場みたいなとこがある」

「一体どれくらいの広さなんだ? あ、挨拶が遅れてしまって申し訳ないです。俺は――」

「まあいいから、座れ、琉斗」


 名乗る前に名前を呼ばれた琉斗が一瞬きょとんとした顔をする。采希と眼が合い、納得したように那岐の隣の座布団に座った。


「黎さん、この家かなり大きいですけど、一人で住んでいるんですか?」


 湯呑を両手で持ち上げながら那岐が尋ねた。


「ああ。あきらが戻るまでは、一人だな」


 那岐が思わず俯いてしまう。そんな那岐を見た黎は、那岐の肩をぽんぽんと優しく叩いた。


「お前さんたちのせいじゃないって、言っただろうが。あきらを消したいと思った奴らは――まあ、そのうち尻尾を出すだろう」

「黎さんには見当がついているんですか?」

「いや、心当たりが多すぎてな。いずれお前さんにも接触してくるかもな」

「…………」


 巫女に呪詛を掛けた誰か。それが自分にも接触してくると言われ、采希は小さく唸って腕組みをした。ふつふつと怒りがこみ上げてくる。


「ああ、悪い、忘れてた。――分かってる。今、出してやるって」


(……?)


 ぶつぶつと独り言のように呟いていた黎の膝の上に、きらきらと光が集まった。


「――シェン!」

《采希さん!》


 姿を現わすなり采希に飛び付いてきた、青銀の猫の肢体を受け止める。思わず顔をすり寄せた。


「お前、どこに行ってたんだ? 全然見かけないから心配してたんだぞ」

《私はマスターによって真っ先に黎さんの所に飛ばされました。元々の飼い主は黎さんですし、他の眷属と違って私はあまり力を持たないので……。今は黎さんの元で養生中です》


 黎がシェンの元の飼い主だったと聞いて采希は眼を見張る。――では、シェンの名前を付けたのは巫女ではなかったのか、と考えていると采希の視線に気付いた黎がにっと笑った。


「シェンの名前は俺が付けた。あきらじゃなくて残念だったな。『采希と黎さんはセンスも似てる』とあきらが言っていたぞ」


 黎の言葉に、采希は少しきょとんとする。

 確かに巫女は采希と黎は似ている、と言っていたが、自分ではどこが似ているのかさっぱり分からなかった。


「あ! そういえばアルを連れてきたんだった! 琉斗兄さん、アルはどこ?」

「ああ、車のドアを開けた途端に飛び降りて、どこかに向かったようだぞ。――そういえば、どこに行ったんだろうな」


 那岐と琉斗の会話にシェンが反応する。ちょっと周りの空気を嗅ぐような仕草をして、尻尾をぱたりと振った。


《ご近所さんに挨拶しているようですね。もうすぐ戻ってくると思います》


 落ち着いて告げるシェンとは対照的に、采希は妙に落ち着きなくそわそわしている琉斗が気になった。

 采希と眼が合うと、琉斗は左腕のバングルを采希に向けて見せる。


(――?)


 金色のバングルが小刻みに震えている。


「……紅蓮?」


 采希が小さく呼ぶと、待ちかねたように小さな巫女姿の童女が飛び出して来た。

 采希の胸元にしがみ付き、そっと黎の方を覗き見るような仕草をする。


「紅蓮、どうした……?」


 黎が眼を見張って采希の方に身を乗り出した。


「――え? 紅蓮なのか?」


 声に応えるように紅蓮が黎の顔に飛びつき、嬉しそうに頬ずりした。


「そっか、お前、でかくなったな」

「……黎さん、紅蓮を知っているのか?」


 琉斗が驚いた様に問い掛ける。


「紅蓮を作ったのはあきらだけどな、最終的に気を整えたのは俺なんだ。あきらに頼まれてな。――覚えててくれたのか、紅蓮」


 そうだったのか、と采希は少し驚いた。紅蓮は龍神の気を纏っていたので、巫女と龍神の力で作られたと思っていた。

 すっかり離れなくなった紅蓮を肩に乗せながら、黎が立ちあがる。


「腹、減ってるだろ? 昼メシにしよう」




 ちゃっかりとお昼ごはんの時間には帰って来て、今は昼寝をしているシェンの息子のアルを残し、采希たちは三人とも作業着に着替えた。

 帽子や軍手を身に付け、畑に入り込んで一斉に雑草を抜き始める。

 じりじりと日差しが照りつける中、采希の耳には何やらぶつぶつ呟く声が聞こえてきた。


「琉斗、うるさい。――何が不満だ?」


 采希の声に飛び上がるように、びくりと反応する。


「あ……その、だな。……俺は……虫がちょっと……」

「うん、苦手なのは知ってる。――で?」

「いや、だから、こういう所は……ヤツらに出くわす可能性が……非常に高くてだな」

「ヤツら?」

「脚がむやみにたくさんあるヤツとか、触ると潰れて汁が出てくるようなヤツとか……あと、急に飛んだりするような……」


 どれだけ虫に対して恨みがあるんだろうと采希は額を押さえる。わざとらしく大きな息を吐いた。


「虫を怖がる成人男子って、どうなんだ?」

「いや、怖がってはいないぞ。その……嫌いなだけで……」


 その怯え方は怖がってるだろうが、と突っ込んでやりたいのを采希は飲み込んだ。以前にGもどきと対峙した時の青ざめた顔を思い出したせいだ。

 苦手なものは誰にでもあるので仕方ないと思いつつ、采希は膝に手を当てて立ち上がった。


「あのな、そんな虫嫌いのあなたに朗報です」

「――?」

「……もう涙ぐんでんじゃねぇか。この畑――っつーか、ここの敷地全体にな、虫除けの結界が張られてんだよ」


 そう言いながら、固くなった腰を反らして伸ばしてみる。


「――本当か?」

「マジ。敷地に入って気付いた時、何でだろうって思ったけど、畑を見て納得したんだ。虫が来なけりゃ、農薬使わなくても栽培できるんじゃね? ってな」


 琉斗が恐る恐る周囲を見渡す。本当にいい天気なのに、虫は全く見当たらない。

 くっくっと笑いを堪える声がして振り返ると、黎だった。


「虫除けをしたのは子供の頃のあきらだよ。でもそんなエコロジカルな理由じゃない。あいつも虫が大嫌いなんだ。唯一、蜂だけは入れる。受粉に必要なこともあるんでな」

「――はい? そんな理由でこんな大掛かりな結界を?」

「そうだな。でもそれが分かるお前さんも大したもんだと、俺は思うけど」


 何坪あるのかは分からないが、畑のみならず家屋やその周囲、見渡せるかなりの範囲を結界が覆っている。しかも対象は虫限定だ。


(器用というか、能力の無駄遣いというか……)


 腕組みをして、采希はしみじみと考え込んでしまった。

 だったら不法侵入者や悪意の念も対象にすりゃいいのに、と思うと同時に虫除けの結界をさらに覆うように巨大な網目のが視えた。


「采希、大丈夫か?」


 網目の正体を見極めようとしていた采希に、琉斗から声が掛かる。


「んあ? 大丈夫って、何が?」

「あ――いや、ここにいるとな、どうしてもあきらの話題になるだろう?」

「そりゃそうだろ、ここはあきらの家なんだから」

「だから……采希が辛いんじゃないかと……」

「……辛いって言うか、寂しくは感じるよな。ここにはあきらの気配があちこちに残っているのに、あきらはいない。ああ、本当にあいつはいないんだ、って実感させられるな」


 琉斗が采希から視線を逸らして俯く。

 そんな風に聞く琉斗の方が辛そうに思えて、采希はやっと思い当たった。


「ごめん、配慮が足りなかったな。琉斗、お前、あきらの事がそんなに……」

「――…………え?」

「……え? ……って、あれ?」

「……何のことだ、采希? あ、違うぞ。俺はあきらの事は、嫌いではないが恋愛感情は持ってない」

「そうなのか?」

「そうだ。お前こそ――」

「あ~、何て言うかさ……」


 采希は大根と思しき葉が並んだうねの間にしゃがみ込み、琉斗を手招きする。琉斗がしゃがみ込んだところで話を続けた。


「俺、人付き合いが苦手だろ? こんな俺と友達になってくれて、しかも何度も助けてもらった。だから、何ていうか、同士みたいな感じだな」


 ここは畑の片隅だったが少し周りを確認し、采希は更に声をひそめる。


「それに俺、気付いたんだ。あきら、黎さんの事が好きだったんじゃないかって」

「それは、どう言う――」

「……兄さんたち、サボりっすか?!」


 頭上から降って来た低音の声に慌てて振り返ると、逆光で影になった那岐が仁王立ちしていた。

 眼だけが妙に光って見え、口元は笑っているように大きく開かれている。

 なのに――ゴゴゴゴゴ……という効果音が采希の耳に聞こえた気がした。

 ちょっとびびってしまいそうなそのフォルムに、采希は慌てて琉斗と共に足元の草を抜き出した。




「奥の道場か? あれは、俺の養父――つまり、あきらの爺さんが居合やら気功やらを教えるのに使ってたんだ。ここは別宅でな、あきらが生まれ育った家は別にある」


 夕飯の支度を手伝いながら那岐が投げた質問に、黎がのんびりと答える。


(居合……じゃあ、あきらの――あの卓越した刀捌きは……。しかも別宅でこの広さ……?)


 采希がご飯をよそう手を止めずに巫女の刀筋を思い出していた。


「じゃあ、黎さんも剣術は得意なのか?」


 琉斗が身を乗り出す。


「得意かどうかは……一応、爺さんに仕込まれたけどな」

「あきらちゃんも?」


 那岐も巫女の腕は知っているので、興味津々で尋ねた。


「――いや、あきらには俺が教えた。あきらが産まれて間もなく、爺さんは亡くなったから」


(じゃ、あのあきらの師匠って事か? これはちょっと……)


 采希の嫌な予感はすぐさま的中し、案の定、琉斗の眼が輝いた。


「黎さん!! 俺にも剣術を教えてくれないか?! いや、教えてください!!!」


 やっぱり、と采希は眼を閉じる。


「あぁ? ……めんどくせーな。……ま、いーけど」

「僕もお願いしたい! 兄さんも一緒にお願いしようよ!」


 なんでこいつらはこんなに元気なんだ、と思いつつ采希が返事を渋っていると、黎と眼が合った。


「う……」

「……お前さん、あきらの眷属を引き受けたんだろ? その中に、太刀も入ってるはずだぞ」


 黎の言葉にちょっと眼をしばたたき、ああ、と思い出す。


「あの、大振りな太刀ですか? ――え? 太刀が眷属?」

「琥珀と似たような物だな。人型にはならないが」

「――でも俺は剣術は……。それに、あのサイズだと太刀に振り回されるのがオチです」


 黎がちょっと首を傾げる。


「ああ……そう言や、あきらの手にある時はかなりの長さになってたな。――あいつはな、遣い手に合わせて大きさが変わるんだ。遣い手にとって一番使いやすいサイズになる。俺の時は打ち刀になったぞ。お前さんも今度、試してみるんだな」

「――はぁ……」


 自分には弓の方が向いている気がしていた采希は、断る流れを掴めずにそっと眼を逸らす。

 稽古を付けてもらえると決まってはしゃいでいる体力自慢コンビを横目で見ながら、采希は小さく溜息をついた。


 夕飯の後、那岐が家の中を探検したいと言い出した。


「探検ってお前、いくつだよ。それに、着いてすぐに家の中を走り回っていただろ」

「道場付きのお宅なんて滅多に拝見できないよ。黎さん、案内してください!」


 黎は気怠そうに立ち上がりながらも、嫌な顔もせずに引き受けてくれた。

 一人で残っているのもどうかと思ったので、采希も渋々後に続く。


 屋敷内は一人暮らしには見えないほど、廊下も窓も綺麗に掃除されている。

 聞けば、元の居合の門下生やらが時折世話をしに来てくれるとの事だった。

 実はな、と黎が采希の耳に囁く。


「あきらが置いた式神たちが掃除している。見えても驚くなよ」


 にやりと笑うその顔は、年齢よりもずっと若く見えた。



「――黎さん、この部屋……」


 先導して次々と襖を開けていた那岐が、ある部屋の前で立ち止まる。その部屋には襖ではなくドアがついている。

 那岐は、開けるのを躊躇しているようだった。


「……匂いで分かったのか? そこは、あきらの部屋だ」


 黎の返答に、琉斗と那岐が顔を見合わせる。


「――いや、ここは入ってはいけないぞ、那岐。レディの居室だ」

「……うん」


 ようやく二人に追いついた黎が、いとも無造作に扉を開ける。

 いつの間にか采希たちに付いて来ていたアルがするりと部屋の中に入り込んだ。

 この家で、この部屋だけが洋間だった。


「あきらがこの家に住むようになって、ここだけ改装したんだ。年頃になったら部屋に鍵がほしいだろうと思ってな。だけど使った気配はないようなんだ。それはそれでちょっと心配だな」


 黎の呟きに、采希が最後尾から答えた。


「心配?」

「危機感っつーか、そういうのに欠けてるんじゃないかって思った」

「あ~、でもこの家にはあきらと黎さんだけだし。不審者なんかはまず入れないからじゃないですか?」


 虫避けの結界を更に覆っていた網の目の正体は、不審者を排除するための物だった。何故か霊や念については素通り出来る仕様になっている。

 采希は率直に思った事を言ったつもりだったが、黎は眼を逸らして困った顔をした。


「――でも、この部屋、女子の部屋にはあんまり見えない気がしますけど」


 采希が呟くと、黎も頷いた。

 ごくシンプルな、ベッドと机、壁一面の本棚。寝具やカーテンは辛うじて淡い色で彩られているものの、可愛らしい小物などは皆無だ。机の上にはノートパソコンが一台。本棚はびっしりと活字がメインの本で埋まっている。


(――? これって……写真?)


 二つ折りにするタイプの写真立てが、閉じられたまま机の隅に置いてあるのに気付き、何気なく手に取って開いてみた。


 写っていたのは――明るい茶髪のロングヘアに帽子、メイクを施した17~8の少年と、こめかみの辺りの髪だけを金に染めたビジュアル系の20歳くらいの青年。仲良さそうに顔を寄せ合っている。

 その後ろにはもう三人、似たような風体の派手目の男性たちが楽器と共に写っていた。

 もう一枚は黒い短髪の少年と一緒に笑っている――巫女に見えた。


「……あいつ、こんな写真、どこから見つけてきたんだ?」


 采希の後ろから肩越しに黎が写真を覗き込んでいた。


「これ、あきら……、じゃないですよね」

「――真琴さん。あきらの母親だ」


 巫女に驚くほど似ている。髪型を同じにしたら采希には見分ける自信がなかった。

 采希は写真の女性を見つめる黎の視線が揺らいだのに気付く。


(――ああ、そう言うことか)


 本棚を物色していた琉斗と那岐も采希たちの会話に引かれて写真を覗く。


「黎さん、かっけーね!」

「俺は隣の男性に興味があるな。どこかで見た記憶があるんだが……黎さんもギターを嗜むのか?」

「いや、ベースをちょこっとな」

「…………はい? ……黎さん、って……もしかして」


 琉斗と那岐の会話から、おそらくこの茶髪の少年が黎なのだろうと思った采希は、呆然と写真を見つめる。


「……あー……若い頃に、ちょっと……」


 あきらにそっくりな母親に気を取られて全く気付かなかった采希は、改めて写真を食い入るように見つめた。

 確かに、どちらの写真に写っているのも黎だった。どちらの写真でも、本当に楽しそうに、幸せそうに笑っている。


(この写真を選んで飾ってた、ってことは……あきら、やっぱりお前……)


「もういいだろう、戻るぞ。お前ら、そろそろ風呂に入れ。野良仕事後の野郎四人じゃ、汗臭くて敵わん」

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