第81話 数で押されるとキツイ


 ダンジョン攻略を再開して1階層から10階層までと同じように淡々と進み続けている訳だが、さっきと違うのはずっと暇だった僕とアクアさんも戦闘に参加する事。

 階層を重ねる毎に敵は強くなる。それは攻撃力は勿論、防御力もそうだ。防御力が高ければ、これまでの階層でやっていたこちらの攻撃力でゴリ押しするのが出来なくなる。

 あと単純に数が多くなっている。


 敵は倒すのに時間がかかり、しかも数は多い。戦闘は長引くほど不利になっていくので迅速な処理が求められる。故に少しでも火力の足しが必要になり、後衛組も晴れて戦闘に参加という事だ。


 嬉しくはないけどね。


「『ミラージュアロー』」


 そして10階層ずつ変わるというダンジョンの雰囲気。10階までは石造りの迷路のような場所だったが、11階からは広い、野原のような空間だ。何故か日もある。

 階層の移動は階段ではなく、魔法陣。転移したらパーティーメンバー全員で次の階層へ立っていて、モンスターが現れる。それを全部倒すとまた魔法陣が現れ、それを使って移動すると次の階層で戦闘…という構造らしい。


 現れるモンスターは緑色の肌を持った人型のモンスター、コボルトだとかゴブリンとか言われるやつとか、狼とかクマとか。ドラゴンになりたそうなトカゲも居たりする。

 階層を移動してから一方向からしかモンスターは出てこないので前衛と後衛の概念があるが、多方向から来たら乱戦になりそうだ。或いは背中合わせで戦うか。


 さっきまでと違う点はまだあった。

 ある程度の知識を持っていたり、矢を見てから避けるモンスターが居るのだ。だからミラージュアローは使える。

 逆に、1体に攻撃を集中させるタイプの戦闘ではなく、今のような数を対処する戦闘では状態異常系のアビリティは使いにくい。

 毒を付与してもダメージソースにはなるが、毒を付与して放置していても普通に攻撃してくるため、反撃で倒すから大して変わらない。

 麻痺や睡眠も足止めにはなるが、1体に当てても他の対処に追われて効果時間が終了する。

 もう1つ、マルチプルアローだが、パーティーメンバーが居ない所なら撃てる。少し離れた所を狙って放てば有効なダメージソースに成り得るし味方の邪魔をする事も無い。クールタイムが長いため全然使えないが。


「『スラッシュハリケーン』!」


 前方でエニグマが風のようなエフェクトを撒き散らしながら敵を複数体吹き飛ばしている。しかしそれで倒せている敵と倒せていない敵がいる。


 『思考加速』のスキルを使えばこういった時のサポートも可能だ。飽くまで加速するのは思考のみであり、体は加速してくれないが、思考だけが加速しても十分強い。

 光となって消えていく敵、光になりかけている敵、健在な敵を判別する。エニグマの攻撃を受けて生きている敵は2体。狼とゴブリンだ。

 流石に思考が加速していても2体は仕留めきれない。後の脅威となる可能性があるのは敏捷性の高い狼だと判断を下し、吹き飛ばされて空中で身動きが取れない狼に向かって弓を構える。


 遅い。自分の体が普段の2倍の遅さで動く。

 弓を動かしながら鉄製の矢を番え、引き絞りながら標準を合わせる。

 狼までの距離、吹き飛んでいく方向と速さ、僕が放つ矢の推定速度を予測する。


 大丈夫だ、考える時間はある。


 少しゆっくり、優しく山なりに投げたボール程度の速度で飛んでいく狼が動く先へ矢を放つと同時に、『思考加速』の制限時間が来る。

 元に戻り2倍の速さで流れる時間の中で、矢が狼に当たり倒した事を確認する。


「よし、当たった」


 順調、練習の成果もしっかり出ている。大した練習してないけど。


 遊撃担当であるクロスくんが動き回ってモンスターのHPを減らしてくれてるおかげで、一撃で倒せる敵もちらほら居る。

 急所を攻撃すれば更にダメージが上がる。だから頭を狙って撃っているが、頭への命中率は低い。胴体とかには当たるから外してはないけど、なんか勿体ない。


「おいアズマ! チェンジ!」


 エニグマが叫びながら休憩中に使っていた棒みたいな槍をアズマに渡すと、アズマは剣をしまって槍を持ち、盾を構えながらモンスターが密集している所へ突っ込んで行った。

 すると今度はエニグマが盾を取り出し、タンクの役目を務める。


 戦闘中に役割変更って、そんなのも出来るのか。ステータスとかが難しそうだけど…。


「って、そんな場合じゃないな」


 モンスターが出てくるのは部屋に入ってから一定時間のみで、その時間は既に終わっている。これ以上増える事はないのだが、如何せん最初に出てきた数が多い。減ってはいるけどまだまだ居る。

 1体でも多く数を減らすのを優先すべきだろう。


 モンスターへ矢を放ちながら、アズマが突っ込んで行った方を見てみると、割れるように間が出来ている。その奥にはアズマが立っていて、棒みたいな槍からはモンスターが死んだ時の光のようなエフェクトが出ている。

 貫通したのか、あれ全部。

 丁度折り返しのようで、槍を前に構えながら盾で攻撃を防ぎつつこっちへ向かって走ってくる。当然アズマを攻撃するモンスターも居るが、アズマの前に出た瞬間槍に貫かれたり、飛びかかった所を走っている勢いのまま盾で殴り飛ばされたりしている。運良く攻撃出来ても、アズマの防御力が高いからか全く効いてなさそうだ。


「『エンチャントファイア』1、2…『スラッシュウェーブ』!」


 エニグマが前方に火の衝撃波を放つ。衝撃波は横に広く、かなりの数のモンスターを巻き込んで倒していく。しかし貫通力はないのか、前方に数メートル飛んで消えてしまった。


 モンスターの数も段々と減ってきて、クロスくんも1体ずつ倒してから次へ攻撃を開始する、という感じになってきているためモンスターの減りは加速している。エニグマの衝撃波も、アズマの突進もそれを助長させている。

 やがてモンスターの数えられる程度まで減り、すぐに0になった。


「疲れるぅぅー」


 魔法陣が現れるのを横目に、地面に座り込んで休憩する。

 現在の階層は12、あと7回同じような事繰り返すのか。精神が死ぬけど。


「いつもこんな感じなの?」


「まあな」


 それは凄い。レベルもガンガン上がるわけだ。

 僕だってスキルレベルだのプレイヤーレベルが上がったというログが流れてきている。


 『弓術』スキルのレベルアップで『バーサークアロー』というアビリティを手に入れた。これはモンスターに当てると仲間を攻撃し始めるという状態異常を矢に付与するアビリティらしい。

 しかし強い精神力を持っていると耐えられるとかなんとか。MND値が関係してくるのかな。

 クールタイムは他の状態異常系のアビリティよりも10秒長く、110秒になっている。それでも仲間割れさせるのは強い。


 プレイヤーレベルの方はいつの間にか13に。ここから上がりにくくなると言われるレベルだ。

 ステータスポイントはSTRに振るという方針で決めていたので振っておく。

 僕以外のパーティーメンバーのレベルは全員20以上。それでこのキツさは恐らく、20以上で適正か少し低いくらい。そうなればその適正レベルに合うような経験値量だろう。

 なら適正レベルよりずっと低いと思われる僕なら上がりやすいかな。


「今はまだ楽な方だ。問題は15階層から出てくる『ミラースライム』ってモンスターだな」


 まだ楽? これでか。僕には厳しいなぁ、ダンジョン攻略。

 というかミラースライムって何だろう。鏡のスライム?


「厄介なのはカウンターの特性だ。一撃で倒さないと与えたダメージを上乗せして攻撃してくる」


「当たらなければ良いんじゃないの?」


「避けられるならな」


 避けれないのか。エニグマでも避けれないような速さなのか、単純に回避出来ない、攻撃という過程を挟まずにHPを消し飛ばしてくるようなやつか。


「液体の毒はカウンターされないがな」


「だから最近毒ポーション欲しがってたんだ」


「そういうこった」


 エニグマが手を差し伸べてくる。それを掴むと引っ張り上げられ、立たされる。


「次行くぞ」


「あいよー…」


 アウトドア派に連行されてバーベキューとかに行くインドア派ってこんな気分なのかな。

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