第78話 天候操作カスタム
訓練所で藁人形相手に弓の練習をしていたが、矢を上に放って当てるやつ、どうやってたんだろうか。エニグマ相手に練習していた時は当てたいという逆張りの意地と集中力があったが、冷静になったからか、時間が経ったからか当てられなくなった。
あ、いや、当てる事自体は可能なのだが命中率が低い。エニグマの時も結局1発も当たってないけど、弾かれたり避けられたりしなければ当たっていたはずだ。
「むむむむ……」
……そういえば当たってないな、あれ。適当に撃って落下地点を予測してそこに誘導してただけだ。ある程度は狙ってたけど、そこまで正確に狙ってはなかった。
「予測というより誘導か」
勿論命中率が高ければ良いけど、ちょっと難しいだろう。距離によって角度とかも変える必要があるし、敵はずっと止まってる訳ではない。
なんならエニグマと練習した時はエニグマが避けるだけだったからああなってただけで、実際に戦ったらエニグマも攻撃してくるだろうから練習通りにはいかない。
弓、狭い所だと扱いにくいし不便な所がちょっと多いな。
あとルグレで買った鉄製の矢だが、当然普通の矢より重い。そのため普段より強めに弦を引く必要があるし、強く引いても普通の矢より飛距離が短い。落下も速いので通常の矢と狙いの付け方が変わる。
だがこれらの弱点を補える強い点はある。それは単純な威力。重さと矢の形状が相まって強い貫通性能を持ち、普通の矢の数倍の威力が出る。
まあしかし、コストが嵩むのであまり使えないが。
使う前は気楽に考えていたが、いざ使うとなると色々と問題が出てくる物だ。矢だって無料じゃないし、どこかから湧き出てくるわけでもない。剣や魔法に比べて、遠距離且つ速い攻撃手段として使えるのだがやはりお金が絡んでくるのが難点でもある。
剣なんて買った時とメンテナンスの時にしかお金かからないし、魔法はスキルとプレイヤーが一緒に成長していくからINTを上げる装備とかにしかお金使わないしなぁ。
「お金ねー…」
そろそろ本格的に金策を考え始めるべきか。
ポーションや星水なんかを売るというのもやってはいるが、それでお金が貯まるかと言うと…うーんって感じ。
材料が無くなるくらいまでポーションを作り続ければそれなりのお金にはなる。
ただ、それをやったらどれだけの時間が必要になるだろうか。合成を使い、1回で10本作るのに早くても30秒くらいだとして、大体1000本分くらいの材料はあるから3000秒。つまり50分…って、そんな長くないな。
でも50分間延々とポーションを作り続けるのをやろうという気にはならない。
「あーあ、勝手にポーション作られて売られて収益が僕の所に入ってくるシステムないかなー」
NPC雇えたりしないかな。後でエニグマ辺りに聞いてみるか。
その後も弓を少し練習する。
ちなみにマルチプルアローだが、発動してから次に放つ矢が増えることが分かった。
正確に狙えない場面とか敵が固まってる所に麻痺の矢を使い、より効率的にダメージを与える時は鉄製の矢を使うといった使い分けも重要になってきそうだ。
あと、マルチプルアローで増えた矢は手に持つと消えてしまう。元の矢も無くなるようだ。流石にマルチプルアローで矢を増やすとかは無理らしい、残念。
そういえば朝起きた時は風が吹いてたなと思い出し、パネルを触ってみる。
「天候操作」の項目が増えているのでそこを調べると、なんか色々とある。「雨」や「風」、果てには「落雷」など、その他諸々の天候に関して。
試しに「風」をタップしてみると、パネルの上側に「風」と書かれたタブが増える。タブを移動すると訓練所を上から見たような写真が表示され、その下には風の強さが0から30まで変えられるメーターがある。
「おー…」
写真を触りながら指を動かした方向と同じ向きに矢印が出てくる。風の項目で矢印が出る辺り、風が吹く方向だろうか。
風の強さを変えてみると、訓練所にある木が揺れているので向きも強さもちゃんと変えれているようだ。
メーターを左右に振っていて思ったが、何故0から30なんだろうか。30って微妙では? そこは10とか50とかじゃないのか。
うーん…でも考えてもどうせ変わらないだろうし、そういう物なんだろう。そこに疑問を持つのはちょっとお門違いというのかな。
どうやら壁の近くは風が完全にないらしく、パネルを操作していても風は感じられない。木が揺れているので判別しているだけだ。
風の強さを30にすると木が倒れるんじゃないかってくらい揺れるのだが、ここで弓を構えて藁人形に撃ってみると少し真っ直ぐに進んですぐ叩き落とされるようにどこかへ行ってしまった。
「あっ強ぉーい…」
これ、僕が風が吹いている所に行ったら立ってられないんじゃないかな、って思うくらいには強い。鉄製の矢で試してみてもすぐに方向を変えて地面に刺さってしまう。
風の強さを18にして訓練所の中央に近付いてみると台風の時、ギリギリ外に出れる時みたいな強さだ。涼しいし楽しい。
しばらく風を堪能してからパネルの前に戻り、風のタブの×マークを押して消し、他のを見てみる。
最初の画面には風のメーターと似た、温度のメーターがある。これはマイナス10℃から50℃まで、随分幅広い。これもやはり、温度を変えても壁の付近は変わらない。
温度を下げると「雨」の項目があった所が「雪」になっていて、それを押してみるとタブが増えて雪が降り始める。これも強さを変えられるようで、最大まで強くすると目の前すら見えないくらいの雪が降ってくる。
「雪合戦出来るじゃん…」
最高か。あとでエニグマとアズマ呼んでかまくら作ろ。
とりあえず、一旦雪のタブを消し、温度を戻して今度は落雷を押してみる。
落雷のタブでは落下位置と落下の間隔なんかを変えられるようだ。1秒間隔にしてみたらめっちゃ目に悪いしうるさい。
《新規のクランメッセージが届いています》
【エニグマ:ホール集合】
【アクア:はーい】
【X-OVER:了解です】
初めてだな、このタイプのメッセージ。
クランに入ってからメッセージ欄に『クラン:「未定」』というのが増えていたけど、これが使われてるのは僕が入ってからは初めて…ではないな。なんかクランの名前とロゴ案募集中ってログが残ってる。
集合なら行こう。天候を全て元に戻してホールへ転移する。
ホールへ着くと、武器と防具を装備したエニグマとエアリスさん、鎧が集まって座っている。
「どしたの」
「ダンジョン行くから集合だ。行くか?」
「ダンジョンかー…」
「大丈夫だ、俺たちの利点は1回突破した事ある階層まではボスをスキップ出来るだけだ。1回も突破してないお前はスキップできないが、どの道ボスは倒すから大して変わらん。死んだらクランハウスに戻ってくるだけだからな」
「へー」
アイテム欄で魔法陣の残りを確認する。使えそうなのは結構な量残っているので戦闘に参加してもそれほど問題ない…かも。
「行きたい。良い?」
「おう」
「あたしも異論はないわ」
アズマも兜を縦に揺らす。あとはアクアさんとクロスくんが良いって言ってくれれば全員から許可を貰える。
「誰も文句言わねぇだろ」
「だと良いけどね」
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