第60話 閃光玉


 いや、錬金術って本来卑金属を貴金属に変換する術とかじゃなかったっけ。

 移動中に思った。金を錬成するから錬金術であって、それが名前の由来、故に本来の力はそうであるはず。

 ただしこれは現実的に考えるならば、である。ここはゲームで、錬金術というのも昔の化学の基となるような物から変化してきているし、金を錬成するような術はあるか分からない。

 しかし可能性は否定できないので、手に入れた鉱石などは売らずに取っておく事にした。


 なんやかんやでルグレ、雑貨屋ぐれ〜ぷの店主さんの部屋まで戻ってきた。

 ……やっぱり慣れないな、ぐれーぷさんって呼び方。無意識に店主さんって呼んでしまう。


「しばらく暇になると思うし、ブラン好きな事してきて大丈夫だよ。出かけないから迷う事もないし」


「分かった」


 ブランだってやりたい事はあるだろうし、拘束しておくのは申し訳ないのでそれを伝えて素材の確認に入る。


 素材の確認という観点から入るのであれば、採取ポイントから出てきた、恐らく水晶やクリスタルが含まれているであろう、まだ取り出してない岩と、謎のリアダントクリスタルという結晶か。

 作業をするべきだという自制よりも好奇心が大きく、先にリアダントクリスタルを調べる。


 改めてじっくり説明を読むと、リアダントクリスタルは衝撃を与えると強く光を放つクリスタルと書かれている。

 試しにテーブルの上に置いて木刀を振り下ろしてみると目の前が真っ白になった。待っていても視界は白いままで、ようやく回復してきて周りの物が見えるようになってきても、まだ不安定で残像が見えたりする。


「何やってるの凛姉…」


「いや、ちょっと気になってさ」


 そういえば好きにしていいって言ったけど、ブランはまだ何処にも行ってなかった。巻き込んでしまっていたら申し訳ないが、歪んだ視界で見る限りは余裕そうだし、僕が木刀を取り出した辺りで何が起きるか予測してたとかだろう。

 顔や目を速く動かすと残像が見えるが、ゆっくり動かせば問題ないくらいには回復した。

 このクリスタルは使えるかまだ微妙なラインだ。どの強さの衝撃で光を放つかにもよる。幸い、リアダントクリスタルはかなり多目に採れたので実験してみる事に。


 クリスタルを木刀で優し目に殴ったり、魔術で攻撃したりして実験したが、時折クリスタルが光って僕の視力が回復するまで待機してを繰り返す地味な作業なので端折る。


 結論としては、クリスタルは破壊と同時に閃光を放つ。恐らく、最後に与えた衝撃で減る耐久値の多さで光も強くなる。

 クリスタルの耐久値が100だとして、残り1とか5まで削ってから残りを削って破壊すると光は比較的小さく、新品の状態から一気に耐久値を削って壊すと光は強い。勿論、視力を失っている時間も光の強さに比例する。弱い光では長くて5秒程度なのに、最初に木刀で破壊した時は1分くらいは何も見えなかった。

 破壊の方法は問われず、兎に角破壊すれば発光する。木刀で殴ろうが、地面に叩きつけようが。

 1つ思い付いた使い道のために試した事がある。紙に包んでその上から木刀で破壊してみたが、変わらず視力は失った。つまり、煙玉と同じように魔法陣を描いた紙で包んで投げて使えるという事だ。


「使えるかな…?」


 見たこともやったこともないけど、PvPはあるしモンスターにも有効かもしれない。

 量産するなら、コストが低い魔術の方が良いだろう。低コストでリアダントクリスタルを破壊できる程の威力がある魔術、尚且つメインである閃光を目立たせる、小さい規模の物。

 ……要求多いな。特に小規模で破壊可能というのが難しい。ケムリの実は発火するだけで外殻が壊れるので簡単に煙玉を作れたが、今回はそうもいかなそうだ。


「火は無理かな。水と風も…うーん…」


 発火だけでは壊せないだろう。強い魔術は必然的に規模が大きくなってしまうので目立ってしまう。できるなら、物理寄りの手段で壊したい。

 物理寄りの属性は土か氷かな。コストは土属性の方が低いので氷はやめておこう。


「規模が小さい物…」


 そういえば、魔法陣の発動条件が曖昧なままだ。

 魔法陣を手に持ってる時は発動させようと思ったら勝手に発動してる。

 手から離れた場合、例えば落とし穴とか針とかの設置型の魔法陣は踏んだら発動するし、煙玉に使ってる発火の魔法陣は着弾で起動する。となると衝撃かな?

 しかし視力を奪うアイテムとして着弾と同時に発光はどうなんだろう。できれば相手の目の前、空中とかで発光させたいのだけど。


「ん、確か師匠から借りた本があったような……」


 前に魔術の事を聞いた時に貸してくれたから持っていたけど、結局読んでなかった。というかアイテムがごちゃごちゃで忘れてた。


「師匠って誰?」


「あー……?」


 ブランからの質問に答えようとしたけど、なんて答えれば良いんだろう。名前を出しても知らないだろうし。


「プレイヤー?」


「いや、NPC」


「じゃあいい」


 なんでさ。

 プレイヤーなら興味があったのか分からないけど、ブランは師匠について知りたい訳じゃなさそうだ。


 少し脱線したが、本に戻ろう。

 本を開いてパラパラと捲っていき、起動条件に関するページを探す。手から離れていても思考通りに起動するというのではなかったが、一応見つけた。


 遠隔起動の方法は、魔法陣を使う事。文字にするとアホみたいだけど、間違ってはない。

 項目名は「魔法陣の同期」。鎖を描いた魔法陣や、一方に燃えている紐、もう一方に紐に繋がっている爆弾のような、導火線を描いた魔法陣は互いにリンクするらしい。

 それだと1個起動すると全部連動してしまうと思ったが、丸とか三角とかの記号で区別できるっぽい。鎖や導火線自体が「同期」という属性を表しているから、記号は要素という判定なのかな。


 鎖は文字通り同期で、どれかが発動すれば同期しているのも勝手に発動する。導火線は入力と出力の概念があり、導火線側を発動すれば爆弾側が爆発するが、爆弾側から導火線側には行かない。

 これらの同期方法は魔法陣の中に描いても互いに干渉しないらしく、同期するし元の魔法陣の効果は変わらず、遠隔起動が可能になる。



 クリスタルを包む魔法陣は土の針にした。これなら閃光を妨害せず、それなりに低コストで破壊可能だ。そしてこの魔法陣に、リンクさせる魔法陣の爆弾側を描き、白紙に火がついている導火線の魔法陣を描く。記号は取り敢えず丸で。

 これ、インベントリにしまったままなら起動しないとかがあれば、導火線側を使い回せるようにして使う分だけ取り出して使えるのでは?


「試してみるか…」


 その前に、そもそもちゃんと同期できるのかというのを試す。机の上にクリスタルを置き、少し離れて導火線の魔法陣を起動させる。

 ピシッという音と共に目の前が真っ白になり、何も見えなくなる。どうやら一撃で破壊する事も、遠隔で起動するのも成功のようだ。


 視力が回復したら、同じものを作ってクリスタルをインベントリに入れて導火線側を起動する。魔法陣に変化はなく、アイテム欄を確認してみるとクリスタルは残っている。


「リンクの魔法陣も消えないし、平気かな…」


 試しにインベントリに入れたクリスタルと同じ、丸記号のリンクを描いた魔法陣でクリスタルを包んだ物を机の上に置いて導火線を起動する。

 先程と同様、何も見えなくなった。視力が回復してからアイテム欄を確認すると、まだクリスタルは残っている。

 つまり、さっき考えたように導火線側の魔法陣を使い回せるようにすれば同じ記号だけで作れるということだ。


 魔法陣を何回も使うのには、なんか方法があった気がする。師匠から聞いたはずだ。

 確か……金属に彫るとかだっけ。鉄とかの鉱石はあるけど、彫る術がないな。


「というか彫るのは何だろ。鍛治とはまた少し違うような」


 どちらかというと装飾だし、金属細工? 金属細工ってあるのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る