第34話 お試し星占い


「今日のご飯は唐揚げだよ」


「やったぁー」


 衣がサクサクしてて美味しい。


「凛兄の唐揚げにレモンかけてあげるね」


 あっ待って、僕レモン要らないから僕の分にはかけないで!







「うわあぁぁぁーっ!」


 ベッドの上。上半身だけ起こすと大量のウサギ達と目が合う。


 …夢か。


 なんで唐揚げなのかとか、真白は普段は唐揚げにレモンをかけないのになんで夢の中ではかけてきたのかとか、疑問が頭の中でぐるぐる回っている。

 こういった時の対処法、もとい理由付けの方法は知っている。「夢だから」、それが最も効率的に自分を納得させる方法だ。


「驚かせちゃってごめんね」


 体の周りや足に乗ってるウサギ達を撫でる。何匹かはベッドから落ちているので僕が飛ばしてしまったか驚いて跳ねて落ちたか、どちらにせよ僕のせいだ。

 起き上がってベッドから降りて伸びをする。VRゲームの中で寝たのは初めてだったけど、モフモフのウサギ達に囲まれていた分、現実より寝心地が良かった…気がする。変な夢を見たせいで長時間寝る事はできなかったけど。


 ぐいーっと伸びをした後にうさ丸を呼び、時間を確認する。今は現実時間で18時半くらい。

 部屋の中は照明器具があるから明るいが、窓の外は真っ暗だ。


 つまり。


「占星盤が使える…!」


 明かりがなくて人が少ない場所へ行って試してみよう。草原なら、人も街中よりかは少ないし空も十分見えるはずだ。


 部屋から出て店の方へ行くと、カウンターでブランとアリスさんが話しているのが見えてくる。


「おはよーブラン」


「会いたかったぞリンよー!」


 やたらテンションの高いアリスさんが飛んでくる。そういえば、魔術の習得とかで3日くらい会ってなかった。会えていなかった分の反動とでも言いたいのだろうか。エニグマに怒られていたのはもう忘れているらしい。

 しかしアリスさんと衝突することはなかった。ブランがカウンターを飛び越えて僕に向かって飛んでくるアリスさんの足首を掴んで減速させる。勢いを失い、足首を掴まれているせいで着地もできないアリスさんは顔から床に突っ込んだ。


「きゃっ」


「危ないからダメ」


 アリスさんを止めてくれたのは感謝するけど、そっちの方が危なくない…?


「なぁぁにをするんじゃブラン!」


「凛姉は私が守るの」


 2人がフレンドになっているというのは聞いていたが随分と仲がいいようだ。その仲の良さが僕に刃を向けないことを祈ろう。主に服とかで。


「草原に行ってくるよ」


「私も行く」


「よし、我も行こう!」



 結局、全員で来る事になった。

 草原は月の光しか辺りを照らすものはないが、そのおかげで夜空に輝く星がはっきりと見える。イノシシと戦っているプレイヤーもちらほら見えるけど、昼ほどではない。


 占星盤を取り出し、星空へ向かって掲げてみる。


「…またぁ?」


 毎回恒例とも言える、「しかし何も起きなかった」というやつ。

 調薬も合成も初級等価交換も、チュートリアルが存在しなかった。調薬は自分でなんとか理解できたが、合成や初級等価交換は師匠が教えてくれてようやく使えるようになった。しかしその師匠ですら『星占い』は知らなかったので自分で見つけるしかない。


 …チュートリアル、欲しいなぁ。


 なんて考えていても仕方ない。ここまでチュートリアルはなかったんだしどうせ作る気もないんだろう。


「えぇ〜、どうしよ」


 占星盤使えるぜイヤッホウ! と飛び出してきたのは良いものの、毎回恒例の予想が外れるという現象で出鼻を挫かれてしまった。

 フレンドメッセージでエニグマに聞いてみたが、占星盤という物を知らないとの事で、今回はエニグマにも頼れそうにない。

 占星盤については僕も知らないので、イメージから予想するというのもできないし、どうしたものか。


「こう? 違うか、じゃあこうかな?」


 占星盤を表裏逆にして掲げてみたり、先端に太陽とか月がついている針を動かしたりしてみるけど、変化はない。


「何しとるんじゃ…」


「使い方が分からないんですよ。チュートリアルとか一切無いので」


 少し離れた所で話し合っていたブランとアリスさんがこっちへ来た。


「ほう…なんじゃこれ」


「占星盤です」


「この隙間はなんじゃ」


 アリスさんは渡した占星盤の横にある隙間を指さしている。表とか裏は試したけど横は見てなかった。


「なんですかね」


「んー、物が入りそうじゃな。薄くてそれなりに大きい物…写真とかどうじゃ?」


 写真。言われてみれば写真が入りそうな大きさの隙間ではある。が、僕は写真を持ってない。スクリーンショット機能で撮れても現像する術がないし。


「あ、そうじゃ。前に撮った写真、現像したから持ち歩いてるんじゃった」


 そう言って、軍服ワンピースをくれた日にこの草原で撮った写真を渡してくる。なんで持ち歩いてるんだ、というツッコミは一旦置いておこう。

 渡された写真を横の隙間から入れてみると、占星盤のローマ数字の時計の裏に入り、写真の背景に写る星の光が強くなった。


「おお…?」


 入れた隙間から写真が出てくる。変化はあったが、ここからどうすればいいんだろうか。


「いや、我も当てずっぽうじゃったし…。まさか当たるとは思わなんだ…」


 流石にアリスさんも知らないらしい。というか当てずっぽうだったんだ。


 とにかく、星空の写真が何かに使えるというのは分かった。ここからどうすれば素材になるのかはまだ分からないけど、星空の写真を大量に撮っておけば使えるかもしれない。


「沢山撮っとこ」











 星空の写真を100枚ほど撮り、アリスさんの店に来た。

 アリスさんは写真をゲーム内で現像できるアイテムを持っているらしく、使わせてくれるとの事なので撮った星空の写真を現像させてもらう。


「カメラにメモリーカードが入っとるじゃろ? そう、それじゃ。そのメモリーカードをここに挿せば写真を選べる」


 その現像できるアイテムというのはプリンターだった。白い箱のような、なんというか……プリンター。世界観が壊れる。


「これ買ったんですか?」


 プリント中に気になった事を聞いておく。プレイヤーに作ってもらったにしても、NPCから買ったにしても技術がおかしいと思うけど。


「そうじゃ。店を開く前に家具屋とか骨董屋とか行ったんじゃがな、その途中のどこかで買った」


 家具屋に売ってたらもっと知名度あるだろうし骨董屋かな。


「安かったぞ。確か1500ソルくらいか。使い方分からんとか言っておったし、プレイヤー向けのアイテムなんじゃろ」


 …使い方が分からない?

 そういえばNPCがカメラを持ってたり売ってたりするのは見たことがない。カメラがないなら写真は存在しないし、使い方が分からないというのも頷ける。

 師匠は占星盤の使い方が分からなかった。占星盤が写真を使う事を前提としたアイテムなら、写真どころかカメラも知らないNPCである師匠が使い方を理解していないのは正しい反応、ということだろうか。


「凛姉がいっぱい…」


 師匠が過去の文献では占星盤を使えていた記録がある、という話をしていた。その過去の文献とやらを読めば、星の光が強くなった写真をどうすれば素材にできるのかも分かるのかな。


「ほれほれ、こんなのもあるぞ」


「ぐっ、これは没収する…」


「元のメモリーあるから幾らでも現像できるんじゃがな」


 今度師匠に聞いてみようか。その過去の文献をまだ持ってるかは分からないけど、読んだ内容を覚えてるかもしれないし。


「プリントなっが…」


 流石に100枚は長かった。1枚10秒くらいだから約1000秒。分換算だと……15分くらい?

 プリンターの前で15分も待てないし座っておこう。


「入れるとやっぱり光るんだ」


 現像できた何枚かを占星盤に入れてみると、星空の光が強くなって戻ってくる。

 写真を調べてみると、「星の写真」という名前だ。アリスさんから貰った僕が写っている写真も、そうでない写真も全て同じ名前になっている。

 占星盤の説明には素材を入手できる、と書いてあった。まさかこの写真が素材? 或いは素材の素材か。その場合は合成か何かでアイテムを作る必要がある。


 何にせよ、これが素材ならば使い道は恐らく合成だろう。では何と合成するのか。写真と合成するアイテムって何……?


「……いや分かんないな」


 さっきまで寝てたからか、それとも単純に僕の考えが及ぼないのか、全く思いつかない。


 ……いいや、師匠に聞いてみてからにしよう。過去の文献がどこかに残ってるならそれを読みにいくのも考えておこうかな。


「これもかわい、じゃなくて没収」


「何してるの2人とも」


「凛姉をアリスから守ってる」


 もう呼び捨てになるほどの仲になってるし。コミュニケーション能力高いね。


「というか僕の写真を店に貼るのやめてください」


 アリスさんの店、プリンターの近くのコルクボードには僕の写真が何故か貼ってある。軍服ワンピースを貰った日に撮ったのも、され以前に撮ったのも。掲載の許可を出した覚えはないんだけど。


「可愛いのをアピールしないのは損じゃぞ?」


「知らない人から声かけられるのが嫌なんですよ」


「じゃあやめる」


 コルクボードごと何処かに持っていった。写真を処分する訳ではないんだね。

 知らない人から声をかけられるというのは嘘だが、アリスさんの店もそれなりに客はいるのでいつかそうなってもおかしくはないし、今のうちにやめてもらった方がいいだろう。


「凛姉はワンピースも似合うと思うの」


「今の僕が似合うってことはブランにも似合うってことだよ」


「私はいいの!」


「なんで」


 薄々感じてはいたけど、ブランって僕が女の子になってから僕のことを着せ替え人形か何かだと思ってない? 髪結ってもらった時もそうだけど僕は兄なんだぞ。


「アリスに服作ってもらおうね。お金は私が払うから」


「白衣か軍服ワンピースだけで十分なんだけど。そもそもスカートそんな履きたくないんだけど」


「大丈夫だよ」


「えっ何が?」


 ブランは答えてくれずにニコニコしている。

 怖いんですけど?! バジトラの北の……なんだっけ、サスティク? に逃亡しようかな……。

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