第430話 ダンジョン攻略の開始
次の日。竜大公とエクスの来訪で一日延びたダンジョン攻略を開始する。
昨日のうちに探索初心者のベルダとエクスの装備チェックは済ませてある。
今日もヴィヴィは見送りに来てくれた。昨日と同様に大きめの謎のリュックを背負っている。
「ヴィヴィ。そのリュックには何がが入っているんだ?」
「む? ダンジョン攻略に必要ないろいろな装備なのじゃ」
「え? ヴィヴィも参加するのか?」
「もちろんじゃ! な、モーフィ」
「も~」
昨日と同じリュックを背負っていることを考えるに、昨日から探索に参加するつもりだったらしい。
「ヴィヴィ。危険だから……」
「魔法陣の中に行くのじゃ。ならば専門家であるわらわが行かねば話にならないのじゃ」
「……そんなこともないと思うが」
「ともかくわらわも行くのじゃ!」
「うーむ」
なんだかんだ言って、ヴィヴィは強い。優秀な魔導士だ。
何が起こるかわからないダンジョン内に連れて行くのは危険ではあるが、役に立つだろう。
俺が悩んでいると、クルスが笑顔で言う。
「ヴィヴィちゃん、がんばろうね」
「任せるのじゃ!」
「まあ、いいか。……ヴィヴィは優秀な魔導士なのはよく知っているが、経験が浅いのは間違いない」
「うむ」
「指示には従ってもらう。いいか?」
「わかったのじゃ!」
そんなことを話している間に、ダンジョンへの入り口となる転移魔法陣があるジールの竜舎に到着する。
全員で集まると、ジールを撫でて皆で可愛がる。
ジールは相変わらず癒やし成分が高いドラゴンだ。
しばらくのんびりしているとと、クルスが言う。
「さて、いきますかー。アルラさん、いいですか?」
「そうだな。行こうか」
「待つがよい、アルラ。もう一度我が向こうの様子を見てくるのである」
「ああ、そうだな。ティミ、頼む」
ティミショアラが偵察に行ってくれるらしい。
すでに、ティミには一度偵察に行ってもらっている。あれから少し経ったので念のためだ。
俺は転移魔法陣にかけた封印を解除する。そして魔力を流して励起させた。
「これで通れるようになったぞ」
「うむ。アルラ。シギショアラ。待っているがよい」
ティミは転移魔法陣に飛び込んだ。そして、すぐに戻ってくる。
「前回と変わらず、生存可能な領域だったのである」
「転移先は、前回と同じ場所だったのか?」
「うむ、そうである」
前回、ティミは人工的なダンジョンのような天然の洞窟のような場所だったと言っていた。
正直それを聞いたところで、向こうがどういう状況なのかはよくわからない。
「さて、行くか。俺とティミが入ってから、十秒ぐらい間をあけて順番に入ってくれ」
「わかりました!」
クルスが元気に返事をしてくれる。
俺とティミが入った後、クルスとユリーナ、獣たちとエクスとヴィヴィ、最期にルカとベルダだ。
「さて行くか」
「そうだな!」「りゃあ!」
俺はシギショアラとティミと一緒に転移魔法陣に飛び込んだ。
いつもの転移の感覚があって、真っ暗な場所に着いた。
ダンジョンには光源が全くないようだ。
暗い洞窟を観察するために、俺は暗視の魔法を自分にかける。
「ティミ、
「なくても見えるが、あったほうが、よりよく見えるのである」
「りゃ」
「そうか。了解」
俺はティミショアラとシギショアラにも暗視の魔法をかける。
そして改めて観察すると、細長い直方体の部屋にいることが分かった。
細長い部屋の片端の床に転移魔法陣が描かれていて、逆の端の壁に扉があった。
壁も床も天井も扉も、同じ石で造られている。
石には扉以外に継ぎ目がない。石材を積んで建てられたわけではなさそうだ。
巨大な岩をくりぬいて作られたかのようだ。
「アルラ。継ぎ目がなくて洞窟みたいであろう? だが人工的に掘ったようにも見えるのだ」
「ふむ。確かにな。だが、ここまできれいな直方体なら人工物だろう」
「そうかもしれぬが、そういう石の結晶とかないのか?」
「直方体の結晶を作る石もあるが、ここまで大きいとなるとないんじゃないか?」
石ではないが、黄鉄鉱は自然状態で立方体に近い結晶を作る。
黄鉄鉱以外にも
そんなことを話している間に、クルスとユリーナが到着する。
同時に俺は暗視の魔法をかけていく。
「ふむー。確かにダンジョンですねー」
クルスはそんなことを言いながら、石の壁を撫でる。
そんなことをしている間に獣たちがやってきて、それからすぐにルカたちも来る。
全員に暗視の魔法をかけていく。
獣たちには必要ないかもだが、念のためにかけておく。
「わふ」「もっも」「ぴぎぃ」
獣たちは壁や床を一生懸命臭いをかいで調べていた。
「怪しい臭いはするか?」
『石の臭いしかしないのだ』
「もぅ……」
自慢の鼻での調査が空振りして、モーフィは少ししょんぼりしているようにみえた。
慰めるためにモーフィの角と角の間をやさしく撫でる。
『あるら、あるら』
「チェル、どうしたんだ?」
『ふししゃのにおいみたいなのがする』
「不死者の臭いか」
チェルノボクは死神の使徒、死王だ。
そのチェルノボクの言う不死者の臭いは文字通りの臭いではなく気配のようなものだろう。
『すごいつよい』
「不死者となった魔人というやつか」
『かもしれない』
そういって、チェルノボクはフルフルすると、俺の肩にぴょんと飛び乗った。
なかなかのジャンプ力である。
そして俺はダンジョン探索の経験が浅いエクスとヴィヴィ、それにベルダを見る。
エクスは少し緊張しているようではあったが、まだおちついていた。
ヴィヴィはエクスよりも落ち着いている。
ティミによる咆哮特訓を耐え抜いたので精神力が強いのだろう。
そして、ベルダはガチガチに緊張した様子で、右手を剣の柄にそっと添えている。
「ベルダ、あまり緊張しすぎない方がいい」
「は、はい! 緊張しないようにいたしますわ」
「それがいい」
とは言ったものの、緊張しない方がいいと言って緊張しなくて済むのなら苦労はない。
したくなくてもしてしまうのが緊張だ。
「りゃあ?」
そんなベルダを心配したのか、シギがパタパタ羽を震わせてベルダのもとに飛んでいく。
「シギショアラ……。かわいい……」
「りゃ?」
シギはベルダの胸元に飛ぶと、優しく頬を撫でた。
「シギショアラ。やさしいのですね。えへへ」
シギに撫でられて、ベルダの顔が緩んできた。
シギはとてもかわいいので、そうなるのも当然のことだ。
いい感じにベルダの緊張がほぐれたようでよかった。
「さて、少しずつ奥に進もうか。シギ。俺の懐に入ってなさい」
「りゃあ」
ここは未知のダンジョンだ。危険がある可能性は高い。
シギには懐に入っておいてもらった方がいい。
シギは一声鳴くと、素直に俺のところに戻ってきて、懐にもぞもぞ入る。
「りゃ」
顔だけ出して、もう一声鳴いた。
「シギちゃんも大丈夫だね! ドンドン進もう」
元気に言いながら、クルスが扉に向かって歩いていく。
そして無造作に扉に手をかけた。
「ちょっと、クルス――」
ユリーナの制止は間に合わない。
「うん? ユリーナ、どした――」
語りながら後ろを振り返りつつ、クルスは扉に手をかけ勢いよく開く。
同時に、
――ドン!
小爆発が起こった。
クルスは超反応で、後ろに跳んで事なきを得る。
「危ないですね! びっくりしました!」
「…………っ」
目の前で起こったことに、ベルダは驚き言葉を失っていた。
「な、なんという」
「こっわ! 恐ろしいのじゃ! 普通に死にかねない威力なのじゃ!」
「ももも」
エクスとヴィヴィ、モーフィもびっくりして怯えている。
爆発は中々の威力だったので、怯える気持ちはよくわかる。
「エクス、ベルダ、ヴィヴィ、それにモーフィ。これがダンジョン名物、
「話には聞いたことがありましたが……。見るのは初めてです」
「これが、罠なのですね……。アルラさま」
「恐ろしいものじゃ」
「ももぅ」
「まともに食らうと死ぬこともある」
今回の罠も、引っかかったのがクルス以外なら軽くない怪我を負ったことだろう。
「だから、扉を開けるときは注意深くしなければならない」
「わかりました。気をつけます」「はい。心いたしますわ」
「わかっているのじゃ!」
「もぅ!」
探索初心者たちは改めて気を引き締めたようだった。
「シギも気を付けてな」
「りゃあ!」
シギも懐の中で、尻尾をゆっくり振る。もぞもぞ動いた。
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