第392話
全員が黙ったまま、じっとティミショアラの飛び込んだ魔法陣を見つめていた。
ものすごく長く感じる二十秒が経った後、魔法陣が光ってティミが戻ってくる。
「りゃっりゃあ!」
シギショアラが俺の懐から出て、ティミの方へ羽をバタバタさせて飛んでいく。
飛んでいるシギの尻尾が元気に揺れていた。尻尾を見ているだけで癒される。
ティミが戻ってきて嬉しいのだろう。
「ふう。ただいまである。シギショアラ、叔母さんを心配してくれたのか?」
「りゃあ」
そういって、ティミは飛んできたシギを抱きしめると頭をやさしく撫でた。
「ティミ。お疲れさま。無事で何よりだ」
「おかえりなのじゃ。向こうはどうであったかや?」
「うむ。人族でも生存できる環境であったぞ」
「そうか、それなら俺たちも中に入れるな」
俺がそういうと、ヴィヴィが真面目な顔でティミに尋ねる。
「向こうは人工物のような感じだったのかや?」
「いや。詳しくは調べておらぬが、洞窟? いや、ダンジョンのような感じだった」
そしてほんの少しだけ考えて言う。
「人工物のようにも見えたし、……自然の洞窟を利用したようにも見えたのである」
「なるほど……、強敵の気配はしたかや?」
「いや、そういうのは特になかったのである。もっとも、向こうに行って、環境を確かめてすぐ戻ってきたゆえ、いてもおかしくないのだが」
少し俺は考える。日没まで一時間ほどだ。探索は明日に回してもいいかもしれない。
とはいえ、ダンジョンであれ、洞窟であれ、どちらにしろ日光は入らない。
昼でも夜でも変わらないから、問題ないといえなくもない。
「一応調べた方がいいかもな」
「待つのじゃ。強敵がいないようならば、魔法陣は封じておけばよい。探索は明日に回すべきじゃ」
ティミが少し考えて言う。
「ジールに一晩寒空の下で過ごさせるのはかわいそうである」
「それもそうか」
とりあえず、魔法陣は封じておいて、竜舎の建築を先に行うことにした。
先に竜舎を建築するとなれば、急がなければなるまい。
俺は魔法陣を封じると、皆に向かって言う。
「日没まで、もう時間がない。急ごう」
「わかったのじゃ!」
「任せるがよい!」
「りゃっりゃ!」
ヴィヴィもティミショアラも、そしてシギショアラも張り切っている。
俺は素早く竜舎を建てる範囲を決めて、地面に印をつけておく。
竜舎の構造は単純だ。衛兵小屋や倉庫のように小部屋があるわけではない。
四方の壁と屋根、扉と窓があればいいだろう。
「ティミ、魔法の鞄からどんどん石材を出して加工してくれ」
「わかったのだ」
「俺が石材を並べていくから、ヴィヴィはモルタルを頼む」
「任せるのじゃ!」
魔法の鞄からモルタルを取り出したヴィヴィが言う。
「おや、姉上がモルタルをちょうどよくしてくれていたようじゃ」
「それは、すごく助かるな」
魔法の鞄の中に入れておけば、変化しない。だから先に練ってくれても不都合はない。
それをわかっているから、ヴァリミエがやってくれたのだ。
これで、モルタルを加工する手間が省けた。
「ヴァリミエはいつ練ってくれたのであろうか?」
「俺たちがヴァリミエの倉庫に魔法陣を描いていたころじゃないか?」
俺は安心してティミの切ってくれた石材を並べていく。
そこにヴィヴィがモルタルを乗せて行く。俺はさらにその上に石材を並べていった。
「ティミ。この石材の切り方素晴らしい」
「そうであるか? ならばよかったのである」
ティミは石材を大きめに切断してくれている。
高さは人の身長の半分ぐらいで、横の長さは人の身長ぐらいだ。
さらにティミは石と石の接合面に組み合わせられる凹凸をつけてくれている。
その凹凸を合わせてはめ込みながら積み上げれば安定するのだ。
「シギショアラ、こう魔力を使えば石を斬るぐらい簡単である」
「りゃあ!」
ティミは頭の上にシギを乗せ、教えながら魔法を使っていた。
「アルラ。石材は大きい方が安定するであろう?」
「そうだな、細かいと積み上げるのも時間がかかるし面倒だしな」
「大きい方がいいといっても普通はこんなに大きな石材、持ちあげられないのじゃ。重力魔法のおかげじゃ!」
そんなことを会話しながら、俺たちはテキパキと作業していく。
俺とヴィヴィは衛兵小屋や、狼小屋、倉庫などを建築した経験がある。
もう慣れたものだ。息の合った作業を続ける。
「屋根は我の力の見せ所である」
「ティミに任せる」
「シギショアラ。叔母さんのすごいところを見ているがよいぞ」
「りゃあ!」
シギが楽しそうに鳴くと、ティミは満足げにうなずく。
そしてティミは巨大な石材を板状に加工していく。
屋根も石材を互いにはめ込めば、三角屋根に組みあがるようになっている。
「石の屋根は積み上げるのが大変であるが……。アルラの重力魔法があれば問題ないであろう」
「そうだな。積み上げるのは任せてくれ」
ティミが加工してくれた石材を俺が重力魔法でくみ上げる。
屋根のモルタルは、ティミが飛び乗って埋め込んでくれた。
あっという間に積みあがり、小屋が完成する。
「うむ。いい感じになったな」
「早さも出来も素晴らしいものができたな」
「あとは魔法陣を描けば完成なのじゃ!」
満足して小屋を眺めていると、後ろから声がした。
「なんと……」
ベルダが驚いた表情で立っていた。
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