第366話

 俺が御用商人に尋問を始めようとすると、ルカが言う。


「寒いし。お話し合いは冒険者ギルドに移動してからにしない?」

「そうなのだわ。ごう……いや尋問も人目があるとしにくいのだわ」


 ユリーナが笑顔で言う。

 御用商人はガタガタ震える。


「え? ごう? もしかして拷問って言いかけましたか?」

「気のせいなのだわ」

「そうだよ。考えすぎだよー」

「ひぃぃ……」


 クルスが顔を近づけて言うと御用商人はガクガク震える。

 獅子の被り物がリアルすぎて怖かったのだろう。


「そうだな。とりあえず冒険者ギルドでお話し合いしようか」

 俺はそういってから、御用商人を持ち上げてモーフィの背に乗せた。


「もっ!」

 モーフィは不服そうに鳴いた。嫌いな奴を乗せるのは嫌なのだろう。


「すまない。モーフィ。気持ちはわかるが、運ぶのを手伝ってほしい」

「もぅも」

 モーフィは仕方ないなーといった雰囲気で鳴く。納得してくれたようだ。


「ありがとうな」

「も」


 モーフィにゾンビを運んだ荷台をくくって、御用商人の護衛を乗せる。

 屈強な男たち五人と、魔導士一人、計六人だ。

 意識を取り戻す前に魔法で拘束していおいたのだ。


「お、お許しください」

 意識を取り戻していた護衛の一人が懇願する。


「許せるかどうか決まるのはお話合いの後だ」

 俺がそういうと、護衛の一人が叫ぶように言う。


「俺は金で雇われていただけなんだ! 全部あいつが命じたことで……」

「あとで話を聞くって。正直に話せば……良いことがあるかもしれない。逆に素直じゃない奴は……。言わなくてもわかるよな?」

「は、はい。わかりますわかります」


 意識のある護衛たちは必死にうなずいていた。

 この調子なら別々の部屋で尋問すれば楽に情報を集められそうだ。


 俺たちは冒険者ギルドに向かって歩いていく。

 販売を終えたミリアも含めて、みんなで移動する。


 エルケーの街の商人たちがボソボソ話しているのが聞こえてきた。


「これから拷問するらしいぞ」

「ああ、恐ろしいな……」

「だが、いいざまだ。あいつのせいで何人死んだかわからねーぞ」

「確かにな……」


 やはり、御用商人は相当悪い奴らしい。

 ヴィヴィが足を止め、商人たちの方に歩いていく。


「ふむ。そんなに死者がでたのかや?」

「す、すみません」

 聞こえていたことが意外だったのか、商人が怯えたような表情になる。


「気にしなくていいのじゃ。少し話が聞きたいだけなのじゃ」


 商人の一人が話し出す。

「……直接殺されたやつもいますし……。燃料や食料品などが高騰したせいで亡くなった奴だっています」

「なるほどなのじゃ」


 生活必需品が高騰すれば、命を落とすものは当然出る。

 商人たちはそのことを言っていたらしい。


 代官が機能していないので、実際の死者数は判然としない。

 だが、商人の口ぶりからすると結構亡くなったようだ。


 俺たちが冒険者ギルドに入るとギルドマスターは驚く。

 人数が多かったからだろう。

 そんなギルドマスターにルカが言う。


「こいつらを閉じ込める場所が欲しいわ」

「全部で七人ですか。別々に閉じ込められる方がいいんですよね?」

「もちろんそうですが……。難しければ一緒でも大丈夫ですよ」


 口裏合わせ等が心配だが、尋問を先に済ませれば大丈夫だろう。

 悪だくみの相談などをされても困るが、スペースが不足しているのなら仕方がない。


「大きめの魔獣を入れるための檻ならありますが、それで大丈夫ですか?」


 冒険者ギルドの建物は当然のことながら街の中にある。

 冒険者ギルドの檻に魔獣を入れるためには街中を通らなければならない。

 必然的にあまりにも巨大な魔物を閉じ込めることは想定されていない。

 それなりの魔獣を入れる檻になる。七人を入れるのに充分な広さだろうか。


「一応見せてもらえますか?」

「どうぞ、こちらです」


 俺がギルドマスターに頼むと案内してくれた。

 一緒にクルスとフェムがついてくる。


「でも、アルさん。互いに話をさせないほうがいいですよね? 一緒に閉じ込めていいんですか?」

「まあ、尋問の進捗次第だが……」


 そんなクルスを見て、ギルドマスターは怪しむような目で見る。

 建物の奥に進み、御用商人と護衛たちには会話が聞こえない位置まできた。

 ギルドマスターは小声で言う。


「あの、アルさん。そちらの獅子の方は?」

「えっと……。事情があって正体を隠しておりまして」


 俺は少し考えた。

 ギルドマスターは俺が魔王を倒したアルフレッドだということは知っている。

 だが、クルスとは初対面の可能性がある。

 たとえ初対面でなくとも、今は獅子の被り物をかぶっているので、気づけまい。


「アルさん、仮面とっても大丈夫だと思いますか?」

「それは任せる」

「了解です! じゃあ、自己紹介しますね。一応ぼくが来てることは内緒ですよー?」


 そういいながら、クルスは獅子の被り物をとった。

 ギルドマスターは驚いて、目を見開いた。


「こ、これは勇者伯閣下でございましたか」

「会ったことあったかな? ごめんね? 覚えてないんだ」

「それは当然です。冒険者ギルドのイベントで遠くから拝見させていただいただけでありますから」

「それなら、覚えてなくても失礼じゃないね! よかったー。今後ともよろしくね」

「はい! お会いできて光栄です」

「でも、勇者がエルケーにいるってのは良くないらしいから内緒ね?」

「ええ、そうでしょうね。内緒にしておきます」

「冒険者ギルドの本部の方にも内緒ね?」

「もちろんでございますとも。心得ております」


 クルスと握手して、ギルドマスターは感動していた。

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