第345話

 気付くと同時に自称魔王は悲鳴を上げた。

「あぁ、痛い痛いいぃぃ」

「うるさい」


 怒鳴りつけると、周囲を見渡し状況を把握したようだ。

 それからは大人しく尋問に応じはじめた。

 黙秘しようとしたら、骨の折れている足や手を踏みつけると素直になった。


 自称魔王は先代魔王の息子なのだという。

 勇者クルスに復讐をたくらんでいたら、魔人が接触してきたのだという。


 俺は傍らに倒れる魔人を見る。


「こいつは?」

「ミスリルの魔人王、その配下と聞いている」

「なるほどな」


 ミスリルの魔人王を倒した後、王都周辺にいた配下の魔人は捕まえた。

 だが、全員は捕まえられなかった。

 その中の一匹なのだろう。


「ミスリルの魔人王の配下だから、ゾンビ化技術に詳しいのね」

「そうだろうな」


 自称魔王は先代から受け継いだ魔道具や魔動機械を持っていた。

 それに魔人は目を付けたのだろう。

 そして、魔人はエルケーの街の代官をゾンビにし、支配することに成功した。


「代官は既にゾンビなのか」

「それなら、このあり得ない状況もわかるというものね」


 普通の大都市には王都からの転移魔法陣が設置されている。

 だが、エルケーの街は併合されたばかり。

 転移魔法陣がない。それゆえ、自称魔王たちに付け込まれたのだろう。


「そもそも、お前らの目的はなんだ?」

「父の仇をとるため、悪逆非道の勇者クルスを殺めることだ!」

「父の仇か。まあ理解できる。で、そのために精霊を召喚しクルス領に攻め込もうとしたのか?」

「そうだ」

「ではなぜ、次の精霊召喚はクルス領で行わなかったんだ?」

「魔王軍を復興し、王都を落とすほうが、より効果的な復讐になると考えた」


 それで精霊石の生成、収集を始めとした戦力増強に活動の方針を変えたのだ。


「魔人の奴。絶対面白がってるのだわ」

 そういって、ユリーナが意識のない魔人の足を軽く蹴る。


 自称魔王はともかく、魔人の方は愉快犯である気がする。

 本気で魔王軍の復興などできるわけがない。

 そもそも強者を重んじる魔族が、先代の息子というだけで魔王と認めるとは思えない。


「アル、どうしたらいいかしら」

『何かこいつらが入る箱みたいなのはないか? オリハルコンやミスリルだと助かるのだが』


 俺は念話を使う。自称魔王や魔人に聞かれたくないことを話すためだ。


『小さい箱ならともかく、大きいのはないのだわ』

『あ、そういえば、さっき魔王城を見まわったときにあったかも』

『それは助かる。それにこいつらを放り込んで魔法で封をして王都に運ぼう』


 魔人はともかく、自称魔王は呼吸のこととかを考えないといけないので面倒だ。

 それでも仕方がない。


『それがいいかも。万一のことを考えて、クルスの家に転移魔法陣があることは知られたくないもの』


 おそらく自称魔王は処刑を免れたとしても牢獄から一生出られないだろう。

 とはいえ、何事も万が一ということはある。


『ヴィヴィ、エルケーの街に転移魔法陣を設置したい』

『そうじゃな。それがいいかもしれぬのじゃ』


 リンドバルの森を経由するのは時間がかかる。

 転移魔法陣でつないだほうがいい。


『ヴィヴィ、ルカと一緒にトムの宿屋に戻って、ティミと一緒にリンドバルの森に戻ってくれ」

『エルケーに転移魔法陣をつなげるのじゃな? エルケーとつなげるのはムルグ村かクルスの屋敷か、どっちがよいかや?』

『そうだな。とりあえずはムルグ村で頼む』

『わかったのじゃ』

 ルカを付けたのは、ティミがいなくなった後のトムの宿屋の防衛を任せたいからだ。


 ヴィヴィとモーフィ、そしてルカがトムの宿屋に向けて走り去った後、俺は尋ねる。


「で、自称魔王さん。トムの宿屋に何があるんだ?」

「トムの宿屋?」

 俺はトムの宿屋の場所を教える。


「ああ……あれか」


 どうやら、トムの宿屋の地下深くに古代遺跡の入り口があるらしい。

 魔法的な入口ではないので、魔力探知にも引っかからなかったのだ。


「その古代遺跡ってのはどんなものなんだ?」

「俺は知らない。魔人が、王都侵略に有効なものがある。そう言っていた」


 魔人から話を聞きたいが、基本魔人は口を割らない。

 司法省の専門家に任せないとならないだろう。


『わたしはルカが言っていた箱をとって来るのだわ』

『頼む』


 ユリーナが部屋を出ていった。

 ルカからはどのあたりに、箱があったのかは聞いている。迷わないだろう。

 しばらくしてユリーナが戻ってくる。

 金属の箱を持ってきている。一辺が俺の身長の半分ぐらいの箱が二つだ。


『これに入れるといいのだわ』

「とりあえず、魔人を入れるか」


 俺は魔法で拘束されたままの魔人をつかんで箱に放り込む。

 魔人は大きい。だが、無理やり押し込む。

 全身の骨が折れているので押し込みやすい。


「ぎゃああああああ」

 気絶していたはずの魔人が絶叫を上げた。

 無視して外側から魔法でガチガチに箱に封をした。


 そして、俺は自称魔王を見た。


「や、やめてくれ……。死んでしまう」

「確かに死にそうだな」


 自称魔王を入れる前に、少し箱を加工する必要がありそうだ。

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