第344話

 魔法による催眠を解除したからといって、意識が戻るわけではない。


「レア、すまないが拘束はこのままにしておく」

「はい。わかっています」


 覚醒直後の混乱から、暴れる可能性がある。


「ユリーナ。それにしても早かったな」

「思っていたよりも、骨が折れてなかったのだわ」


 ユリーナは自称魔王の状態を調べながら言う。

 自称魔王は体中の骨という骨が折れているが、レアの兄はそうでもなかったらしい。


「きっと骨が頑丈なのだわ」

 それでも三十本は折れていたようだ。

 やはりユリーナの治療の早さは異常だ。


 俺はレアに尋ねる。


「そういえば、お兄さんの名前はなんていうんだ?」

「レオです」

「そうか。いい名前だ」


 レアの兄でレオ。憶えやすくていい。


 しばらくたって、ルカ、ヴィヴィ、モーフィが戻ってくる。


「なにか、面白いものはあったか?」

「よくわからない魔動機械があったわ」

「転移魔法陣を組み込んだ、なにやら複雑な奴じゃ」

「ほほう」


 あとで調べなければなるまい。


 さらにしばらく待って、レオが目を覚ました。

 自称魔王より早く目を覚ましたのは、ユリーナの治癒魔法のおかげだろう。


「……にいちゃ」

「レア?……どうしてここに?」

「レア、にいちゃのこと、ずっと探してたんだよ」


 レアはレオに抱きついて、泣きじゃくる。

 困惑していたレオも、状況を理解しはじめたのだろう。

 レアに向かって泣きながら謝っていた。


「りゃあ」

 それをじっとシギショアラは見つめていた。

 俺もレアたちが落ち着くまで見守ることにする。

 暴れる様子もないので、一応魔法の拘束は解いておいた。


 しばらく泣いた後、落ち着いてレアとレオは頭を下げる。


「ご迷惑をおかけしました」

「兄を助けてくれてありがとうございます」

「冒険者同士、助け合いだからな、気にするな」


 そこにルカが言う。


「ところで、聞きたいことがあるのだけど」

「なんでもお聞きください」


 それからルカのレオに対する聞き取りが始まった。

 俺は魔人と自称魔王の見張りをしておく。


「レアちゃんは、こっちから聞くまで何も言わないでね」

「はい」


 二人の話の整合性を確認するためだろう。


「まず、こいつとはいつ、どこで知り合ったの?」

 ルカは自称魔王を指さした。


「私は魔王が討伐された後、エルケーの街で冒険者をやっていました」

「へぇ。意外なのだわ」

「依頼料は代官のかけた税金のせいで、雀の涙でしたが、唯一のBランク冒険者ということで、頼りにされていましたし……」


 ギルドマスターが上納金の支払いを断った後、殺されたのが唯一のBランク冒険者だ。

 それがどうやら、レオのことで、生きていたらしい。

 そういえば、大量の血と肉塊が残っていただけと言っていた。

 それが偽装だったのかもしれない。


「それがどういう経緯で、こいつの部下に?」


 ルカはあえて、ギルドマスターから聞いたことに触れない。

 矛盾点がないか、慎重に確認したいのだろう。


「こいつは魔王城に住み、上納金を要求してきました。俺もギルドマスターも当然断わります。すると次の日、魔人に襲われ捕縛されました」

「魔人なら、Bランク冒険者があらがうのは難しいかもしれないわね」

「はい。そして魔王城に運ばれました」


 それから魔法の催眠にかけられ、配下にされたのだという。


「たくさんの人は殺されたのに、どうして、あなたは殺されなかったのかしら?」

「こいつはほかの者も殺さずに、魔王城に攫っているのです。そしてゾンビにするか決めていました」


 攫われると魔法の催眠をかけられるのだという。

 それから何ができるのか、どんな家族がいるのか全て白状させられる。


 そして、有用だと思われたら魔法催眠状態のまま利用される。

 催眠のまま維持するのは、ゾンビより細かい命令をだせるからだ。

 そして、有用ではないと判断されれば、ゾンビにされてしまうのだ。


 その後、レオはクルス領の精霊大量発生を命じられた。

 それが失敗に終わった後は、魔動機械の操作、整備に従事していたのだという。


 レアを手ごまにしたので、兄の方は整備に回したのだろう。

 それだけ魔動機械が重要だったということかもしれない。


「その魔動機械ってどんなものなの?」

「はい。転移魔法陣機能と、魔石や薬物などを生成できる機械です」


 そして魔石や違法な薬物を王都に流し、資金を得ていたようだ。

 ネグリ一家とのコネクションもそこで築いたのに違いない。

 自称魔王の経済的な生命線といえる。


「その機械って、精霊石は生成できないの?」

「はい。魔石は生成できたのですが、精霊石は生成できないのです」


 それで、レアを使って、精霊石を生成しようとしたようだ。

 それもとん挫して、俺たちから買おうとしたに違いない。


「こうなると、自称魔王の方から話を聞きたいわね」

「そうだな。ユリーナ。自称魔王が意識を取り戻すぐらいの治癒かけられるか?」

「……とてもむずかしいことを言うのだわ」


 そう言いながら、ユリーナは治癒魔法を自称魔王にかける。

 レオの時より、時間をかけて治していた。


「胴体の骨は大体つなげたけど……手足は一部そのままにしといたのだわ」

「それがいい。逃げられたら困るしな」


 そして、俺は自称魔王の顔に魔法で作った氷を当てる。

 しばらくして、自称魔王は意識を取り戻した。

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