第326話

 俺は明日旧魔王領に行くための準備を始めるために、立ち上がる。

 その時、クルスが言う。


「ヴァリミエちゃん。今はライとリイについてなくて、いいの?」

「うむ。いざというときは、この自作の指輪が鳴ることになっているのじゃ」

「なるほどー」


 ヴィヴィもそうだが、ヴァリミエも魔道具を作るのがとてもうまい。

 店で買ったら、ものすごく高いだろう。


「ムルグ村から急いで駆けつければ、五分もかからないのじゃ」

「転移魔法陣さまさまだねー。さすがヴィヴィちゃん」

「なに、大したことではないのじゃ!」

 ヴィヴィは照れていた。



 次の日、朝ごはんを食べた後、俺たちはリンドバルの森に向けて出発した。


「おっしゃん、がんばってねー」

「アルさん、気を付けてくださいね」

「ミレットもコレットも、留守番頼む」

「お任せください!」

「コレット、おるすばん得意だからね!」


 コレットはフェムの背中に乗っていた。


「フェム。クルスを頼むな」

『任せるのだ!』

 フェムは尻尾をピンと立てている。やる気充分だ。


「クルスも、トルフ商会を頼む」

「任せてください!」


 残る者たちに見送られて、倉庫を通り、リンドバルの森に向かう。

 ルカとユリーナは転移魔法陣がある建物を出ると、森を興味深そうに眺める。


「久しぶりな気がするわ」

「そうね。そんな気がするのだわ」


 俺はヴァリミエに言う。


「ヴァリミエ、ライに会えるか?」

「あとドービィにも会いたいのだ」

「りゃっりゃ」


 ティミショアラとシギショアラは、ドービィに会いたいようだ。

 ドービィはグレートドラゴン。同じ竜ということで気にかけているのだろう。


「ライは……会えると思うのじゃが……。リイはむずかしいのじゃ」

「やっぱり、気が立っているのか?」

「そうじゃなー。この時期は本来は獅子のオスも気が立っているものじゃが……ライは賢いのじゃ」

「なるほど」


 野生を理性で押さえつける感じだろうか。

 ヴァリミエが周囲に向けて声を出す。


「ライ、ドービィ、帰ったのじゃぞー」

「がう」


 まずライが出てきた。

 相変わらず立派な獅子だ。これでも小さくなっている。

 本来の大きさは、巨大化モーフィぐらいあるのだ。


「ライ、アルたちが遊びに来たのじゃ」

「がうー」


 ライは俺のところに来ると、頭を押し付ける。

 たてがみのモフモフが半端ではない。


「ライ、元気にしてたか? それとおめでとうな」

「もっも」

「りゃあ!」


 モーフィは、ライと互いに匂いを嗅ぎあっている。獣なりの挨拶なのだろう。

 シギは嬉しそうにライを撫でる。

 ルカもユリーナもティミもライにお祝いを言って、撫でていた。


 ステフとレアは最近、よくリンドバルの森に来ていた。

 だから、慣れているのだろう。声をかけながら軽く撫でていた。


「ライには、これをやろうではないか」

 ティミがごそごそと鞄から肉を取り出した。


「嫁さんと、分けて食べるがよいぞ」

「がうがう」

「ティミ、何の肉なんだ?」

「地竜であるぞ。今朝、ちょっと狩ってきたのだ」


 地竜の肉ならば、魔力含有量も高い。リイの滋養にもよかろう。


「がう」

「ライとリイのために、ありがとうなのじゃ」


 ライとヴァリミエはティミにお礼を言っている。

 俺も何かあげるべきだろう。魔法の鞄を探してみた。

 魔熊の肉がある。だがこれはまずいらしい。祝いのプレゼントには適さない。

 他にないか探してみると、ユニコーンの肉が入っていた。


「ライ、俺からはこれをやろう」

「がう!」

「アルまで……。ほんとうにうれしいのじゃ」


 ライとヴァリミエからお礼を言われていると、

「……ぎゃぁ」

 物陰から声がした。ドービィである。


「ドービィ、そんなところに隠れておるでないのじゃ。こっちに来るのじゃ」


 ドービィは建物の陰に体を隠して、顔だけ出してこっちを覗いていた。

 怯えているのだろう。ドービィは古代竜のティミが怖いのだ。


 ドービィは小走りにやってきて、ヴァリミエの手をぎゅっと握る。

 怖いので保護者のヴァリミエの手を握ったのだ。そんなところも可愛い。


「ドービィ、元気だったか?」

「ぎゃっぎゃ」

「りゃあ!」


 シギが一声鳴くと、パタパタと飛んでドービィのもとに行く。そして頭の上に乗る。

 シギはドービィと仲がいいのだ。


「ぎゃあ」

「りゃっ」

 ドービィもシギが好きなようだ。嬉しそうに羽が動く。


「もっ」

 モーフィもドービィのところに行って、互いに匂いを嗅ぎあって挨拶している。

 俺はドービィに近づいて頭を撫でる。


「ドービィにも何かあげないとな」

「ぎゃあ?」

「これ少ないけど……」

「ぎゃっぎゃ!」


 ドービィには魔猪の肉をあげた。

 喜んでいるようなので、何よりだ。


「我もドービィに何かやらねばな」

 ティミが近づくと、

「ぎゃっ!」

 ドービィの体がこわばった。本当に怖いらしい。


「これをやるのである。地竜の肉だぞ」

「ぎゃぁ」


 ドービィはティミに頭を下げる。だが、ヴァリミエの手をつまんでいる。

 ドービィはヴァリミエよりずっと大きい。

 それなのにヴァリミエの陰に隠れようとしているのが面白い。


「ドービィ、そんなに怯えなくてもよいのだぞ」


 ドービィをティミは撫でまくっている。

 緊張でガクガクしているドービィを、ティミは気にする様子もない。


「ティミ、ドービィにまで、本当にありがとうなのじゃ」

「気にするでない。ドービィはシギショアラのお友達ゆえな」

「りゃっりゃ!」


 ライとドービィへの挨拶を済ませると、俺たちは森を後にすることにした。

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