第302話

 レアが死神教団の村で働き始めてから数日が経った。

 ルカとユリーナが情報を集めてくれているが、それほど有効な情報はない。


 そんなある日、ヴァリミエがクルスに尋ねた。

 

「クルスよ。レアの働きぶりはどうじゃ?」

「がんばってるよー」


 レアは死神教団の村に泊まりこんで労働刑の真っ最中だ。

 クルスも、一日一回は死神教団の村に様子を見に行っている。


「……ふむ。チェルノボクの村はどのくらい人手が不足しておるのじゃ?」

「全体的に足りてないよ」

「ぴぎ」

「春になったら忙しくなるのはわかるのじゃが……いまも忙しいのかや?」

「いまでも、仕事はあるけど……。ヴァリミエちゃん、どうしたの?」


 クルスは首をかしげる。


「いや、なに……。レアに魔動機械の技術を教えてもらいたいのじゃ」

「ヴァリミエちゃんは凄腕なんでしょう? わざわざ教えてもらわなくてもいいんじゃない?」

「そんなことはないのじゃ。体系が違えば、得るものはたくさんあるのじゃ」

「なるほどー」

 ヴァリミエは向上心がある。見習わなければなるまい。


「わらわも、教えて欲しいのじゃ!」


 ヴィヴィもヴァリミエの隣で、そんなことを言う。

 クルスは隣にいたチェルノボクを優しく撫でる。


「でもなぁ。レアちゃんにも仕事があるしなぁ」

「ぴぎっ?」


 チェルノボクはふるふるしていた。

 今日はいつもより、柔らかそうな感じだ。

 とても気持ち良さそうなので、俺もチェルノボクを撫でる。


「クルス。レアはどんな仕事をしているんだ?」

「色々です。人手が足りないところのお手伝いです」

「レアでなければ、出来ない仕事ではないのじゃろう?」

「まあ、ヴァリミエちゃんの言う通りですけど……」


 死神教団の村は労働力が不足気味だ。

 ヴァリミエの提案に従えば、その村から労働力を移動させることになる。

 クルスがためらう気持ちもわかる。


「ならば、追加でゴーレムを貸し出そうではないか」

「それなら大丈夫かなー? 一応司祭さんに聞いてみてからね」

「頼むのじゃ! とりあえず、いまからゴーレムを届けるのじゃ」


 そんな話があった次の日の朝。レアが戻ってきた。

 ヴァリミエ製のゴーレムは除雪後の雪を運んだり、薪を運んだり大活躍らしい。

 魔法の素養がなくても動かせるようにしてあるので、とても有用だ。

 レア以上に活躍するだろう。


 ヴァリミエは嬉しそうにレアに言う。


「レア、ついてくるのじゃ」

「はい」


 ヴィヴィも、ヴァリミエとレアにくっついていく。


「もっもー」

「モーフィも来たいのかや?」

「もう」

「ならば、モーフィも来るのじゃ」 


 ヴィヴィはモーフィを撫でながら言う。


「ステフ、それにミレットとコレットもついて来てよいのじゃ」

「え、私なのです?」

「してんのーいいの?」

「いいんですか?」

「ステフも、ミレットもコレットも、魔動機械について知りたいこともあるのではないかや?」

「それは、ありますけど」

「コレット、まどうきかい、作りたい!」


 コレットは嬉しそうに、モーフィの背に乗る。

 ステフとミレットは俺の方を見た。

 一応、師匠である俺の許可が欲しいのだろう。


「学んでくるといい」

「はい」

「頑張るのです」

「コレットに任せてー」


 元気に弟子たちはヴァリミエについて行った。

 ヴァリミエの領地、リンドバルの森で勉強するのだ。


 俺も行きたいが、一応衛兵業務がある。

 俺はフェムと一緒に残った。あとで弟子たちから何を学んだか聞こうと思う。


「りゃあ」


 シギショアラも俺と一緒だ。

 シギは防寒具を着て、胸の前に小さな袋を下げている。

 数日前に、ユリーナに作ってもらったおやつ入れである。


「シギ、寒くないか?」

「りゃぁ」


 寒くはないようだ。

 一方フェムは、魔狼たちのところへ行った。

 様子を見て、異常がないか確かめるのも王の務めなのだろう。


 俺はシギを優しく撫でながら考える。

 レアの兄の情報を探すということになった。

 だが、レアがずっと探していて見つからなかったのだ。

 そう簡単に見つかるわけがない。


「どうしたもんかなぁ」

「りゃ?」


 シギは首をかしげた。


「レアのお兄さん、どこにいるのかなー」

「……」


 シギは無言でおやつ袋からおやつを取り出す。

 そして、それを差し出してきた。


「くれるのか?」

「りゃあ」

「ありがとう」

「りゃっりゃ!」


 深刻そうな顔で考えていたから、心配してくれたのだ。

 シギは、とても心優しい子だ。


 シギにもらったお菓子を口に入れる。甘くておいしい。


「おいしいぞ」

「りゃあ」


 シギは自分もお菓子を口に入れると、羽をばたばたさせた。

 シギと一緒にお菓子を食べていると、頭がさえてくる気がする。


「そうか。甘いもので釣ればいいのか」

「りゃあ?」

『アル。一体何を言っているのだ』


 いつの間にか戻って来ていたフェムが呆れたように言う。


「いや、文字通りの意味じゃ無くてだな」

『ふむ?』

「精霊石を売りに出せば、黒幕が買いに来るかもしれないだろ?」

『そんなに単純ではないと思うのだぞ』

「かもしれないが、せっかくだしな」

『うまくいけばよいのだ』

「そうだな」


 俺はフェムの頭をわしわし撫でた。

 シギはフェムにもお菓子を差し出していた。

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