第287話

 精霊王との出会いから一週間がたった夕食後。

 ルカが全員を招集した。

 俺、クルス、ユリーナにミレット、コレット、ステフ。

 それにヴィヴィ、ヴァリミエ、チェルノボクにシギショアラとティミショアラだ。

 フェムとモーフィも真面目な顔をして参加している。


 全員を前にして、ルカが言った。


「色々とわかったことがあるので発表するわ」

「ほほう? 今度はわからないことがわかったとか言い出さなければよいのじゃがな」


 冗談めかしてヴィヴィが笑った。

 ルカは真面目な顔で言う。


「大丈夫。安心して」

「うむ。情報とやらを聞こうではないか」

「りゃあ」


 ティミショアラは真剣な表情でそんなことを言った。

 一方、シギは机の上にごろごろしている。

 そのシギのお腹をティミはこしょこしょしていた。


 そんなシギがとても可愛いので、ルカはしばらくシギに見とれていた。


「ルカ? どうしたのだわ?」

「あ、ええ。そうね」


 ユリーナに語り掛けられて、ルカは我に返った。

 そして説明を開始する。


「魔族の精霊魔法使いということで調べ始めたら、所在不明になっているものが十人だけ見つかったの」

「十人なのかや?」


 ヴィヴィが疑問の声を上げる。

 冒険者は危険な稼業。その上、自由人の集まりだ。

 もっと多くの所在不明者がいると思ったのだろう。


「魔族の魔導士はそれなりにいるのだけど、魔導士自体が少ないし。魔導士の中でも精霊魔法使いとなるともっと少ないわ」

「なるほどなのじゃ」


 ヴィヴィが納得したところで、クルスが言う。


「十人まで絞り込めたのなら、全員を当たってもいいかも!」

「たしかに、十人なら可能よね。でもその必要はないわ」

「どうして?」

「また吹雪が発生したからよ」

「冬だから吹雪くことぐらいあるよ?」


 クルスの言葉にユリーナが首を振る。


「教会の情報網によると、ジャック・フロストが確認されたようなのだわ」

「ジャック・フロストの召喚なんて、普通無理なんじゃないの? 前回のは巨大な精霊石があったからできただけで……」

「確かに、クルスの言う通り、普通は無理なのだわ。さすが勉強しているわね。偉いのだわ」


 ユリーナはクルスを抱き寄せて頭を撫でる。

 それを気にする様子もなく、ルカは続ける。


「精霊石のかけらを回収していた可能性がある」

「精霊石か。上位精霊の近くでも小さな精霊石が見つかっていたな」

「そう。私たちが解決するまでの間に、発生していた精霊石を集めていた可能性があると考えているわ」

「そうだな」


 俺は机の上に精霊石を乗せる。

 上位精霊の近くで回収していたものだ。


「これが精霊石なのじゃな……」

 ヴィヴィが手に取って、興味深げに眺めている。


 精霊石は精霊力の結晶だ。非常に珍しい。

 シギの母、ジルニドラの魔力の残滓が巨大な精霊石へと変化した。

 それを触媒として、精霊王は召喚された。

 そして精霊王は魔術的な罠にかかり、上位精霊を召喚させられた。

 その後、召喚者は上位精霊に下位の精霊であるジャック・フロストを召喚させた。

 おかげで、クルス領は大量のジャック・フロストに覆われ、大雪害に見舞われたのだ。


「精霊石があれば、たしかにジャック・フロストぐらいなら呼び出せるかもな」


 精霊王を呼び出すには、ジルニドラぐらい巨大な精霊石が必要だ。

 だが、ジャック・フロスト程度なら、小さな精霊石でも呼び出せるだろう。


 そこまで考えて、俺には一つ疑問が浮かんだ。


「だが、なぜいまさらジャック・フロストを呼び出しているんだ?」


 前回の大雪害は、クルス領を壊滅させるという目的があったように思う。

 そもそも、なぜクルス領を壊滅させたいのかというのは疑問だ。

 それは召喚主を問いたださなければなるまい。


 それはそれとして、今更、下位精霊数体を召喚して一体何になるというのだろうか。


「もしかしたらだけど、前回と逆に進めようとしているのかも」

「逆とはどういうことだ?」

「前回は最初に精霊王を召喚して、それから、徐々に下位精霊を召喚したわよね」

「そうだな」

「今回は下位精霊を呼び出して、それから上位精霊を……」

「そんなことが可能なのか?」

「ジャック・フロストを通じて、精霊界から精霊力を引っ張り出して、それを結晶化すれば、可能かも」

「それは流石に無理なのだわ」


 ユリーナは否定する。


「いや、魔力ではわらわが既にやっていることじゃろう? 精霊力に応用することが出来ないというわけではないはずじゃ」

 ヴィヴィは土中の魔鉱石を魔石へと精製する魔法陣を至る所に描いている。


「そんなの、ヴィヴィちゃんが特別なのだわ」

「アル。上位精霊を拘束していた首輪あるかや?」

「ああ、あるぞ」

 俺は首輪を取り出して机に置いた。


「以前、この首輪を調べたとき、わらわは魔族の魔法体系に近いといったのじゃ」

「そういえばそうだったな。で、ヴァリミエは魔族、それもかなり古い魔法体系と言っていたな」


 俺の言葉をうけて、ヴァリミエもうなずく。


「そうじゃな。そして、ユリーナ。確かにヴィヴィは魔法陣の天才じゃ。だがな、魔石精製魔法陣もヴィヴィがゼロから生み出したものではないのじゃ」

「魔族の魔法体系に近いものがあるってことなのかしら?」

「そうじゃ。ヴィヴィの天才ぶりはその速さや洗練さ、効率性がずぬけていることじゃ」


 ヴァリミエの言葉を聞いて、クルスが真剣な表情で言う。


「とりあえず、ジャック・フロストが湧いているところを調べたほうがよさそうだね」


 その言葉に、全員がうなずいた。

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