第270話

 次の日、朝ごはんを食べてから、王都へと向かうことにした。

 同行するのはクルスとステフ、それにミレットとコレット、ティミショアラだ。

 ヴィヴィとシギショアラも忘れてはならない。

 一応、俺は狼の被り物をかぶっておいた。


「アルが被るならば、わらわも被るべきじゃな……」


 ヴィヴィがそう言って牛の被り物を被る。

 俺は色々あるので、正体を隠したいが、ヴィヴィは顔を知られていない。

 顔を出しても大丈夫なはずだ。

 俺がそう言おうとしたのだが、シギが羽をぱたぱたさせた。


「りゃっりゃー!」


 シギは俺の懐から顔を出して、被り物をかぶっている俺とヴィヴィを見ていた。

 被り物が好きなのかもしれない。

 シギが喜んでいるので、ヴィヴィに被り物なくてもいいんじゃないかというのをやめた。


「シギもコート着ておこうな」

「りゃあ」


 懐に入り込んだシギを出して、ヴィヴィが作ってくれたコートを着せる。

 やはりかわいい。


「何度見ても可愛いな!」

「りゃあ」


 ティミがシギを抱きしめようとしたのだが、シギは俺の懐へと戻っていった。

 ティミは少し寂しそうに、顔だけ出しているシギの頭を優しく撫でた。


 準備を終えて居間へと向かうと、ステフが少し驚きの表情を浮かべた。

 

「師匠。その被り物はなんなのですか?」

「俺がアルフレッド……」

「りゃっ!」

「俺がアルフレッドラだとばれたら面倒だからな」

「そうなのですね」


 特に今回向かうのは魔導士ギルドだ。俺は長年会費を滞納しているのだ。

 会費ぐらい簡単に支払えるが、滞納していた事実は変わらない。

 ギルドに対する心証が悪すぎる。

 支払うのは後で頃合いを見てからでいいだろう。


「では、行きましょう!」

 クルスが、嬉しそうに腕を組んできた。


「わふわふ!」

「もっもー」

 いつものように、フェムとモーフィはついてくる。


「今日はお留守番だぞ?」

『……今日もなのだ!』

「……もぅ」


 フェムは抗議してくる。そして、モーフィはしょんぼりしている。

 王都に行くとき、フェムとモーフィを連れて行くことが最近は少ない。

 それに対する抗議だ。


 獣たちがしょんぼりしているのを見てクルスは可哀そうになったのかもしれない。


「アルさん。フェムちゃんとモーフィちゃんも連れて行ったらだめでしょうか」

「えー、だが、今日向かうのは魔導士ギルドだからな」

「魔導士ギルドにも動物ぐらいいますよー」


 俺はいないと思う。


「わふ!」

「もっも!」


 だが、クルスの言葉で、フェムとモーフィは元気になった。

 尻尾をピュンピュン振っている。


「仕方ないなー。大人しくしておくんだぞ」

『言うまでもないことなのだ』

「もう!」


 少し不安を感じながらも、フェムとモーフィを連れて王都に向かうことにした。

 倉庫の転移魔法陣を通って、王都のクルスの屋敷に移動する。

 転移魔法陣部屋をでると、クルス邸のメイドに出会った。


 メイドは俺たちに挨拶すると、フェムたちに目を向ける。


「あら、フェムちゃんにモーフィちゃん。今日はみんなと一緒なのね」

「わふ!」「もっ!」

「はい。おやつよ」

「わふわふ!」「もっも!」


 フェムとモーフィはメイドたちからおやつをもらっていた。

 随分と仲がいいらしい。


「りゃ!」

「可愛いわ」


 シギが鳴くと、メイドたちが集まってくる。


「なんていう子なんですか?」

「シギショアラです」

「可愛いです。撫でてもよろしいですか?」

「どうぞ」

「おやつを上げても?」

「おやつは慣れた人の手からしか、食べないかもです」


 信頼している人の手からしかシギはおやつを食べないのだ。

 卵から孵ってしばらくは、俺の手からしか食べなかった。

 それを考えれば、かなり成長したと思う。

 それでも、あまり知らない人の手から物を食べることはない。


「そうなんですか。残念です」

「じゃあ、よかったら、これをあげてくださいね」


 そういってメイドさんからおやつをもらった。

 それをシギにやると、パクパク食べた。


「りゃあ!」

 シギはメイドさんたちに、お礼を言うように、一声鳴いた。


 屋敷を出てから、フェムとモーフィに尋ねる。


「もしかして……。フェムもモーフィも、こっそり王都に来てるのか?」

「……わ、わふぅ」

「……もー」


 フェムとモーフィは顔をそらしていた。これは絶対、こっそり王都に来ている。

 そして、クルス邸のメイドさんたちに可愛がられていたのだろう。

 まったくしょうがない獣たちだ。


 メイドさんたちも怖がっていないようだし、クルス邸から出なければ問題ない。


「もう、仕方ないな。……だが、俺たちのいない時に、勝手にクルスの屋敷からは出るなよ?」

「わふ!」

「もっ!」


 許されたと思ったのか、フェムもモーフィも尻尾をビュンビュン振った。


「フェムとモーフィだけで屋敷から出たら、大きな問題になるからな?」

『わかっているのだ』

「も! も!」


 フェムはふんふん鼻を鳴らしている。

 モーフィは力強くうなずいていた。


 それから俺たちは魔導士ギルドへと歩いて行った。

 道中、軽くクルスと打ち合わせした。どうやって試合に持ち込むかの作戦を立てたのだ。


 冒険者ギルドと違って、魔導士ギルドは貴族の多く住む地区にある。

 それゆえ、クルスの屋敷からも近いのだ。


 魔導士ギルドの建物前につくと、クルスは足を止めて真剣な表情になった。

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