第262話

 一週間、努力を続けたステフを俺は試験することにした。

 その日の訓練の終わり、それをステフに告げる。


「ステフ。明日俺と試合するぞ」

「し、師匠となのですか? 勝てるわけないのです」

「勝たなくてもいい。そもそも俺は本気は出さないから安心しろ。どのくらい強くなったか知りたいだけだ」

「了解したのです」


 それを聞いていた、コレットが俺の腕にぶら下がる。


「いいなー、コレットも試合したいなー」

「別に構わないぞ。ミレットはどうする?」

「じゃあ、せっかくなので、私もお願いします」

「それならば、三人とも今日はもう魔力を使わずゆっくりしておきなさい」

「了解なのです」「りゃ」

「おっしゃん、わかった!」「もっも」

「わかりました」「わふ」


 真面目な顔で弟子たちは返事をした。

 なぜか獣たちも真面目な顔をしている。まるで自分たちまで試合するかのようだ。


 訓練の最中、シギショアラ、モーフィ、フェムはずっとそばに居た。

 そして、見よう見まねで訓練に参加していた。

 弟子たちが魔法体操を始めたら、獣たちも一緒にやっていた。

 弟子たちが魔法発動の練習を始めたら、一緒に魔力弾を撃っていた。

 だから試合したいのかもしれない。


「言っておくが……フェムとモーフィとは試合しないぞ?」

「わふ?」「も?」

 二頭とも「なんで?」と言いたげに首をかしげる。


「だって……」

 とても面倒だからだ。

 フェムもモーフィもとても強い。そんな彼らと俺が試合をすれば地形が変わる。

 手加減すればいいのだろうが、強者相手に手加減するほど、大変なことはない。


 だが、期待に目を輝かせているフェムとモーフィに向けて、面倒だからとは言いにくい。


「今回は弟子たちの修行の成果を調べるためのものだからな」

「わふぅ」「もぅ」

「りゃぁ」

 シギまでがっかりしている。


「シギはまだ赤ちゃんだから、試合とかしなくていいんだぞ」

「りゃっりゃ!」

 赤ちゃんでも戦えると言いたげに、シギは俺の顔をペシペシした。


 その時、ティミショアラが声をかけてくる。


「なんじゃ。シギショアラは試合しないのだな」

「ティミ。いつからいたんだ?」

「割と最初の方からだぞ。シギの魔法体操は可愛いから、見逃したくない」

「それには同意だ」

「りゃあ?」


 弟子たちの真似をして、一生懸命体を動かすシギはとても可愛い。


「シギショアラはまだ赤子ゆえ、試合しなくてもよいと思うが、フェムとモーフィとは試合してやればいいのではないか?」

「も!」

 モーフィがそれを聞いて、嬉しそうに尻尾を振る。

 フェムは無言だ。だが、尻尾がビュンビュン揺れている。


「場所がないしな」

「それならば、極地に来ればよい」

「極地か」

「古代竜に合わせて作ってあるゆえ、試合ぐらいできるであろう」

「なるほど」

「もっも!」

 モーフィは俺のお腹辺りを鼻先でつんつんする。

 余程試合したいと見える。


「じゃあ、明日、フェムとモーフィとも試合しようか」

「わふぅ!」

「もぅもぅ!」

 フェムとモーフィは嬉しそうだ。


「それがよいのだ。我とアルラの試合も、シギショアラに見せたいしのう」

「え?」

「腕がなるのう!」


 ティミは張り切っている。

 そういうことで、俺はステフと試合したあと、ティミと試合することになった。


「まあ、シギの教育のためにも、試合しようか」

「うむ。そうこなくてはな!」

「りゃっりゃ!」

 ティミとシギはとても嬉しそうだ。


 弟子たちが休憩に入ったのを見て、ティミが言う。

「ところで、この一週間、アルラは弟子たちに、どんな特訓をしたのだ?」

「ミレットとコレットはいつも通りだ。だが少し魔法の実践を多めにした」

「ふむ?」

「基礎さえ固めておけば、後でいくらでも応用は効くから基礎ばかり教えてきたのだが……」

「そういうものか?」

「魔法はそういうものだ。とはいえ、実際に一度使ってみておいた方がいいのも確かだからな」

「なるほどのう」


 そういいながら、ティミはシギを抱きかかえて、頭を撫でている。

 シギの教育について考えているに違いない。


「ステフの場合はどうなのだ?」

「ステフはもともと魔導士としていい腕を持っていた」

「そうなのか?」


 ティミは意外そうな顔をする。

 俺やユリーナと比べたら、それは当然未熟だが、魔導士全体としては上の方だ。

 最初の師匠、つまり俺の兄弟子の教育がよかったのだろう。


「だから、ステフはミレットたちとは逆に基礎固めを多めにした。魔力の扱いをよりうまくなってもらわないと、実践的な魔法を教えることも出来ないからな」

「ふむ?」

「あとは、戦闘で魔法を使う場合の基本的な考え方とかだな」

「なるほどのう。そんなに特別なことをしていないのだな?」

「画期的な方法で、あっという間に強くなれるなら、苦労はない」

「それは、もちろんそうであるな。シギショアラ、地道な努力が大切なのだぞ」

「りゃあ?」


 シギは首をかしげる。

 シギはほとんど何も教えていないのに、空を飛び、魔力弾を口から出せる。

 才能に溢れすぎだ。努力しなくても、あっという間に強くなれるだろう。

 とはいえ、慢心しても困る。


「シギは明日、俺の魔法をよく見ておくんだぞ」

「りゃあ!」


 シギは嬉しそうに鳴いた。

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