第252話
俺は風呂にも入らずに、自室に戻った。
すぐにベッドに倒れこむ。
年を取って、徹夜が少ししんどくなった気がする。
いつも、フェムとモーフィが一緒なので、ベッドが広い。
シギショアラを懐からそっと出す。
「りゃ?」
シギは小さく鳴いた。
「まだ寝てていいよ」
「りゃ」
シギは、すぐにまた眠りについた。
俺もシギをお腹の上にのせて、布団をかぶって眠りについた。
◇◇◇
「りゃ!」
俺は顔をぺしぺしされて、目を覚ました。
目を開けると、シギが目の前にいた。
頬を叩いたり、鼻をつまんだりしていたらしい。
「りゃあ!」
俺と目があうと、シギは嬉しそうに鳴いた。
「シギ……起きたの?」
「りゃあ」
窓の外を見る。
まだ明るい。日差しの強さや影から考えて、恐らく正午前後だ。
「お腹すいたの?」
「りゃ!」
すいてそうな声なので、俺はベッドの上で上体を起こした。
そうしておいて、枕元の魔法の鞄から肉を取り出す。
「たくさん食べるんだぞー」
「りゃむりゃむ!」
俺の手から、シギは肉を元気に食べていた。
正直、まだ眠い気がする。
徹夜に加えて、魔法を使いまくったから疲れているのかもしれない。
巨大な精霊石の破壊。大量のジャック・フロストの討伐。
最近では珍しく、魔力を沢山使ったと思う。
それにしても、全力で魔力弾を撃ったのは気持ちがよかった。
たまには全力を出したいものだ。
そんなことを考えていると、
「もっも」
布団の中からモーフィが顔を出す。
「モーフィ。いつの間に」
俺がベッドに入ったとき、モーフィは外で除雪作業に従事していた。
除雪作業が終わってから、布団の中に入りに来たのだろう。
「ふんふん」
モーフィは俺の太もも辺りにあごを乗せている。鼻息が荒い。
「モーフィ。除雪お疲れさま」
「もっも」
モーフィの頭を撫でてやる。
シギも肉を食べながら、小さな手でモーフィの頭を撫でていた。
「モーフィは、昨日寝なかったの?」
「もっ」
この返事はどっちかわからない。
『モーフィは寝ていたのだ』
「うお」
足元のほうにいたフェムから念話が飛んでくる。
「フェム、起きてたのか」
『今起きたのだ』
「そうなのか。フェムもお疲れさま」
俺がそういうと、もぞもぞとフェムがこっちにやってきた。
モーフィとは逆の方から太ももに顎を乗せる。
頭を撫でてやった。シギもお肉を食べながら一緒に撫でた。
『モーフィは一晩中ベッドに入って、枕の臭いを嗅いでいたのだ』
「へー、そうなんだ」
「もっ」
モーフィも寂しかったのかもしれない。
ヴィヴィが放っておかないと思うのだが、少し不思議だ。
「ヴィヴィの部屋で眠ればよかったのに」
『ヴィヴィもモーフィと一緒に寝ていたのだぞ』
「へ、へー」
俺が留守にしている間、俺の部屋は大人気だったらしい。
ヴィヴィとモーフィの様子を知っているということは、フェムもここにいたのだろう。
お肉を食べ終わると、シギはまた丸くなる。
「眠っていていいぞ」
「……りゃ」
シギはすぐにまた眠った。
俺も眠いので一緒に眠ることにした。
モーフィとフェムに挟まれているので、全く寒くない。
◇◇◇
再び目覚めると、外はまだ明るかった。
シギは既に起きていた。
モーフィの角と角の間に立って、モーフィの耳を咥えている。
すぐにシギは俺が目覚めたことに気がついた。
「りゃあ!」
「シギおはよう」
「もっも」「わふ」
「モーフィ、フェムもおはよう」
フェムとモーフィも起きているようだ。
俺はシギ、フェム、モーフィを連れて、食堂に向かう。
「アルさん、おはようございます」
「おっしゃん、おはよう! もう起きたの?」
ミレットとコレットは元気だ。
「二人ともおはよう」
「師匠! おはようございます!」
「ステフもおはよう」
俺はミレットたちに除雪の状況などを尋ねる。
「雪がやんだので、村の中は大丈夫ですよ」
「村の外の道の除雪はまだだよな」
「村の外はさすがにまだですねー」
道の除雪は現実的ではない。
「物資はソリで運んだりするしかないか」
俺がそうつぶやくと、ミレットは言う。
「そもそも、基本的に村内である程度自足できますから……。交通の便が悪くてもある程度なら問題ないですよ?」
「そうなのか?」
「村の中の交通が滞ると困りますし、吹雪き続けられると、外の作業ができないので困るのは確かなのですけど」
村の外に出なければならない作業もある。木々の伐採、狩猟などもそうだ。
俺はずっと、村の外との交通が途切れると大変なことになると思っていた。
だが、ミレットの話からすると、そうでもなさそうだ。
吹雪き続けられるのは困るが、積雪ならばさほど問題でもないらしい。
「それなら、よかった」
「でも、チェルちゃんの村は……まだ完成していないので心配です」
チェルノボクの村、つまり死神教団の村は、まだ自足できない。
確かに心配だ。
「そういえば、クルスは?」
「クルスちゃんは、ティミちゃんとどこかに行きました」
おそらく、昨夜までの悪天候に対する策をしに行ったのだろう。
とても立派だ。行先は領主の館だろうか。
出来る限り手伝ってあげたいものだ。
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