第248話
ティミの頭上から地面に落ちる途中、苛烈な精霊魔法の攻撃にさらされた。
周囲にはジャック・フロストが数十体いるのだ。
俺はクルスにおぶられながら、魔法障壁を展開する。
――ガガガッガッガガ
魔法障壁にジャック・フロストの精霊魔法がぶつかって嫌な音を立てる。
数十発の精霊魔法を防いでいる間に、クルスの足が地面に着く。
辺り一面深い雪だ。クルスの足は深く沈み込む。
この状態では、普通は走るどころではない。歩くことすら難しい。
だが、クルスは、
「よっと」
一言、つぶやくと同時に、聖剣を振りぬく。
一瞬で周囲の雪が吹き飛んだ。
それから、ものすごい勢いで、上位精霊へと駆け寄っていく。
深雪だろうとお構いなしだ。
足に魔力をまとわせて、雪への沈み込みを抑えているようだ。
そうしながら、加速していく。
精霊魔法による激しい攻撃を、たやすくかわしながら、間合いをつめる。
あっという間に上位精霊が目の前に迫ってくる。
俺は首輪を綺麗に取り除く魔法を準備。
クルスが上位精霊の真横を通り過ぎる瞬間、俺は首輪を掴んで破壊する。
そのまま首輪を右手に持ち、左手で魔力弾を連続で放つ。
周囲のジャック・フロストを掃討するのだ。
俺は魔法障壁を張りながら、攻撃に転じるつもりだった。
だが、クルスの機動が素晴らしい。
全てかわしていくので、俺が防御する必要がない。
俺は一体一体、ジャック・フロストを倒していった。
順調に討伐していく。だが数が多い。まだ少し時間はかかりそうだ。
そう思った瞬間、
「ピイイイイイイイイイイイイイ」
鋭い鳴き声と同時に、背後から強烈な冷気が迫ってくるのを感じた。
同時に、精霊魔法が激しくなる。
これまでの比ではない。
クルスの機動が激しくなった。異常な速さでかわしていく。
それでもかわし切れない。
精霊魔法を防ぐため、俺は魔法障壁を展開する。
精霊魔法の氷よりも冷たい塊が、俺の眼前で障壁に当たって砕け散る。
砕け散ると同時に、周囲に激しい冷気をまき散らす。
急激に気温が下がっていく。
「上位精霊が怒ってるようだな」
「助けてあげたのにー」
「向こうからしたら、罠にはめたのも人間だ。俺たちも敵に見えるんだろ」
「でもー」
「上位精霊の気持ちはわかる」
上位精霊は、今まで首輪で行動を支配されていた。
魔法を封じられ、ジャック・フロストを強制的に召喚させられていたのだ。
首輪を取り付け、縛り付けた人に対する怒りを溜めていたのだろう。
そこにきて、首輪から解放された。
そして、目の前には同胞であるジャック・フロストを倒しまくる人間二人。
攻撃しても仕方がない。
「どのくらい持つ?」
「精一杯かわしますけど!」
いつまで持つかは保証できない。
そうクルスの言葉からは伝わってくる。
「クルス。話が聞きたい」
「了解です!」
クルスの機動の質が変わる。最小限の動きで、魔法をかわしはじめた。
戦闘中だ。長々と会話はできない。
俺は短い言葉に上位精霊から情報を得たいという意味を込めた。
それをクルスは理解してくれた。そして、今後の戦闘展開を予測し機動をかえたのだ。
強力な魔力弾の一撃で、上位精霊を吹き飛ばすのならば、これまでの機動でいい。
だが、情報を得たいのなら消し飛ばせない。必然的に長期戦になる。
俺はジャック・フロストを適度に倒しながら、上位精霊に呼びかける。
「上位精霊よ! 我はそなたを解放せしものなり、敵意はない!」
「ぴぃいいい」
強烈な精霊魔法の間に、ジャック・フロストの召喚を挟んでくる。
おかげで、倒しても倒してもジャック・フロストが減らない。
「ぴぴいいいぴいいいいいいい」
「距離を」
「了解です」
クルスはぴょんぴょんと飛んで距離をとってくれる。
距離をとったおかげで、飛んでくる精霊魔法は少し弱まった。
「話を聞いてくれそうにもないな」
「まずいですねー」
「このまま、激しく精霊魔法を使い続けたら、近いうちに消滅してしまうぞ」
「それもまずいですねー」
精霊力を使い果たせば、向こうの世界に帰ることになる。
クルス領としては早くおかえり願いたいが、その前に情報を手に入れたい。
どうしたものかと考えていると、上空から上位精霊のところにティミが降りてきた。
「ぴぃいいい……」
上位精霊が何か吠えたが、
「ぴいいいいいいいいいいいいいいいい」
ティミの頭の上に乗っていた精霊王が怒鳴りつけるように鳴いた。
「ぴぃ」
上位精霊は一声鳴いて大人しくなる。
精霊王が大人しくするよう命じてくれたのだろう。
俺たちに攻撃を加えているのはジャック・フロストだけになった。
俺は精霊王に向けて大きな声で言う。
「精霊王。ジャック・フロストも静かにさせてもらえませんか?」
『不可』
「ジャック・フロストはいうこと聞かないんですか?」
『肯定』
下位精霊は上位精霊に比べて、知能が低いと聞く。
言葉を理解できないのかもしれない。ならば、討伐するしかない。
「では、ジャック・フロストたちを討伐してもよろしいですか?」
『許可』
精霊界の仕組みはわからないが、ジャック・フロストも精霊王の臣下かも知れない。
だから、一応許可をとってみた。
無事許可を得られたので、俺は周囲のジャック・フロストをすべて討伐した。
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