第212話

 死神教団に戻ると、司祭とティミショアラが待機していた。


「大丈夫であったか?」

「無事解決だよー。代官代行にはものすごく謝られちゃった」


 クルスが笑顔で答えると、ティミは複雑な表情になる。


「父親の方はまともなのだな」


 そんなティミに俺は言う。


「親がまともでも子供がまともに育つとは限らないからな」

「そんなものかもしれぬな」


 クルスが司祭に尋ねる。


「臨時補佐とお付きの人はどんな感じですか?」

「真面目にやっているみたいですね。重い石を運ばせているので、二人とも泣きそうになっていますが」


 真面目にやっているとはいえ、まだ、臨時補佐たちは働き始めたばかりだ。

 油断はできないだろう。


 それから、俺たちも作業に戻る。

 俺とユリーナ、ティミは建物建設に、クルスは全体の監督作業だ。


 現場に戻ると建築現場監督の大工が笑顔になる。


「おう、やっと戻ったか。臨時補佐のせいで作業が遅れてしまったからな。少し急ぐぞ」

「了解です」

「任せるがよい」

「りゃっりゃー」


 俺は少し本気を出すことにした。

 柱をガンガン運んで打ち込んでいく。

 ミレットとコレットもゴーレムを使って建築現場で活躍していたようだ。


「アルさん、お疲れ様です」

「おっしゃん! 一緒にがんばろー」

「頑張るぞー」


 ミレットとコレットはゴーレムを操り、材木を運んだり加工したりしている。

 二人とも、なんと三体のゴーレムを同時に操っていた。


「すごいな……」


 思わずつぶやいてしまう。

 ゴーレム一体ならば魔法の素養があるものならば、操れる。

 二体同時に動かせたら、熟練のゴーレム使いと言っていい。

 それを三体である。ミレットとコレットの姉妹は魔力操作と演算能力が非常に高いのだろう。


 俺も負けていられない。どんどん作業をこなしていく。

 俺の作業を見て監督が笑顔になった。


「おお、早いな。床板はここにこうやって、取り付ける感じだぞ」

「了解です」


 床板の材料も大急ぎで組み立てていく。それを見て、ティミもてきぱき組み立てる。

 俺は魔法で、ティミは素手でやっている。

 ティミの怪力っぷりは周囲の大工たちの羨望の的だ。


「す、すげーな」

「人間業じゃねーぞ」

「なんか、俺自信なくなってきた」


 そんな大工たちに説明しておく。


「ティミショアラは竜なので」

「な、なるほど」


 竜と言われて納得したようだった。


 一時間経たずに、一軒出来上がる。

 内装や家具の取り付けはまだだが、ひとまず家としては完成だ。


 監督が嬉しそうに言う。


「アルさん、ティミさん、見事だ。助かった」

「いえいえ、次行きましょう次」

「我もまだまだいけるぞ!」

「りゃあ!」


 俺の肩にとまっているシギショアラが機嫌よく鳴いた。

 俺とティミは順調に家を建てていく。


 建てるというより組み立てるといった感じだ。

 監督を中心に大工たちが、大急ぎで材木を加工してくれている。

 だから素早く組み立てられるのだ。


「材料加工が間に合わねーぞ」

「じゃあ、俺が加工も手伝いましょう」


 材料加工も簡単なところは俺も手伝う。

 まっすぐに切断するなどは魔法で簡単にできるのだ。

 複雑な形状への加工は指示を細かくもらう必要があるため、監督たちにお任せする。


 忙しく働いていると、あっという間に空が赤くなり始めた。


「もう、こんな時間か」

「秋は昼が短くなっていくのが切ないのう」

「りゃあ」


 ティミが遠い目をして言うとシギも同意するかのように小さく鳴いた。

 監督が機嫌よくやってくる。


「おかげさまで今日だけで10軒も完成したぞ」

「それはよかった」

「内装はまだだが、こう家が建つと、一気に村っぽくなるな」

「ですね」


 監督と建築班の大工たちと談笑していると、司祭とチェルノボクがやってくる。

 チェルノボクは司祭の肩から、俺の肩へと飛び移る。

 右肩にシギ、左肩にチェルノボクという状態だ。


「ぴぎぴぎっ」

「チェルちゃん、10軒ほど家ができたぞ」


 チェルノボクは嬉しそうにフルフルしている。

 司祭が監督を含めた大工たちと俺とティミ、ミレット、コレットに丁寧に頭を下げた。


「皆様、ありがとうございます。予定より早く作業が進んでいますね」

「アルさんの魔法ってのはすさまじいな。ゴーレムもすごい。それにティミさんの怪力っぷりが半端ない」

「そうだろうそうだろう」


 ティミは自慢げだ。

 そうこうしている間に、ヴィヴィたち農業班もやってくる。

 モーフィも一緒だ。


「ふむふむ。いい家ではないかや。いつ頃入居するのじゃ?」

「内装を整えてからだからな。もうすこしかかるぞ」


 監督も上機嫌にヴィヴィに答える。


「ならば、入居の前日には言うがよい。魔法陣を描いてやろう」

「魔法陣?」


 首をかしげる大工たちに、俺が説明する。


「ヴィヴィは魔法陣の専門家なんですよ。住居の耐久性や快適度を上げることができます」

「それはすごい!」


 そんな会話をしていると、コレットがモーフィに抱き着いて撫でる。


「モーフィちゃんも偉いねー」

「もっもー」

 モーフィもコレットに撫でられて、嬉しそうだ。


 俺はヴィヴィに尋ねる。


「ヴィヴィ、畑の方は順調か?」

「うむ。モーフィが頑張ってくれているからな、後は魔法陣を描いて明日にはひとまず完了と言っていいかもしれぬ」

「それは早いな」

「うむ。モーフィが有能なのはわかっておったのじゃが、これほどとはな」


 ヴィヴィに褒められてモーフィは照れている。


「もっもーもも」

「モーフィ立派だぞ」


 そう言って俺もモーフィを撫でまくってやった。

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