第206話
技術者二人を向こう岸に無事運び終わる。
向こう岸に向かって大きな声で呼びかけた。
「帰りたくなったら言ってくださいねー」
「……あ、はい、ありがとうございます」
向こう岸の技術者は少しぼーっとしているように見える。
重力魔法は刺激が強すぎたかもしれない。
こちら岸に残った技術者が言う。
「もしかして……アルさんって、アルフレッド・リント子爵閣下ですか?」
「どうしてそう思われました?」
聞いてみると、技術者同士互いにうなずいてから語り始める。
「重力魔法を難なく使える魔導士で、伯爵閣下の近くにおられるとなれば……」
「それしか考えられないです」
ばれてしまった。仕方がないと思う。
だが、橋の建築では重力魔法を使う予定だ。時間の問題だった。
「実はそうなんですが、一応隠しているので……」
「そうだったのですね。了解いたしました」
「はい、口外いたしません」
そして前回流された技術者がフェムをみる。
「立派な狼どのだと思ったのですが、子爵閣下の騎獣であるならば、納得です」
「わふ」
フェムは誇らしげに胸を張って、すくっと立っている。
「子爵閣下の騎獣に助けてもらうなど、子供に自慢できます」
そういって、技術者は笑った。
その後、技術者たちは必要な測量などをこなしていく。
技術者たちはやはり腕がいいようで、動きがてきぱきしていた。
向こう岸に渡した技術者たちの仕事が終わったようなので、重力魔法でこちらに戻す。
「川の上流も見てみたいですね」
「そうだな」
そんなことを技術者が相談していると、ティミショアラが言う。
「上流に連れて行ってやろうか?」
「よろしいのですか?」
「うむ。だが、恐ろしいかもしれぬぞ?」
「恐ろしいといいますと?」
「まあ、気にするな。危害を加えるつもりはないから安心しろ」
ティミが何を言っているのか、技術者はわかっていなさそうだ。
ティミはにこりと笑うと、一気に元の姿に戻る。
「ひぁ……」
「あああ……」
技術者たちは尻餅をつく。腰が抜けたようだ。
俺は安心させるように、技術者たちに言う。
「大丈夫ですよ。姿は変わっても、古代竜のティミショアラですから」
「は、はい。閣下がそうおっしゃるなら……」
どうやら、俺は信用されているようだ。
「我が背に乗るがよいぞ」
「あ、ありがとうございます」
俺は技術者たちを重力魔法でティミの背に乗せてやる。
「りゃっりゃー」
シギはティミの頭の上に乗り、ご機嫌だ。
俺とフェムも背に乗ると、ティミは上空へと飛び上がる。
技術者たちに配慮しているのか、あまり速くない。
技術者たちの上流の調査を終えてから、村へと帰る。
ティミの姿は死神教徒たちを怯えさせるので、離れた場所に降りて徒歩で帰るのだ。
村に帰った技術者は司祭とクルスと相談を始める。
橋の素材や大きさなどを話し合って決めるらしい。
俺はよくわからないので、魔法でできることだけ教えておくことにした。
「大きな鉄とか石の部品も魔法で簡単に運べるので、言ってくださいね」
「我が運んでやっても良いぞ?」
ティミも笑顔で言う。
ティミの大きさと力強さを、技術者たちは先程思い知った。
これほど頼りになる言葉はない。
「それは助かります」
「運搬についてはあまり考えずに、耐久性と利便性重視で作れますね!」
技術者たちは嬉しそうだった。
相談していると、ユリーナがやってきた。ユリーナは建物建築班だ。
俺の後ろにぴったりついている。
「どしたんだ?」
「いや、特に……。なんでもないのだけど」
「臨時補佐とは何か話したのか?」
「まだ気づかれてないのだわ」
「そうか。手伝うことあるか?」
「材木の運搬を魔法で手伝ってくれたら助かるわね」
俺はクルスに断って、建物建築班へと向かった。
フェムとシギとティミもついてくる。ちなみにシギは今は俺の懐の中にいる。
建物建築班のリーダー的な大工さんに指示をもらって、材木を運ぶ。
「材木の切断とかもできますよ。一瞬でスパスパ切れますから言ってくださいね」
「そうかい。じゃあ、この線に沿って切ってくれないか」
「了解です。釘とかも魔法使えば素早く打ち込めるので言ってください」
「それはすごいな。魔導士は大工が天職なんじゃないか?」
「実は私もそう思うんですよ」
そんなことを言いながら、作業を進める。
ティミも人の姿のまま、手伝ってくれる。
ティミは人の姿でも怪力なので材木をガンガン運んでくれるし、切断も容易だ。
釘も素手でたやすく打ち込めるのだ。
「お嬢ちゃん、すごいな」
「ふふん。そうであろ、そうであろ」
「りゃっりゃ」
ティミは褒められて嬉しそうにしている。
シギも嬉しそうに鳴いていた。
しばらくのあいだ、作業をしているとミレットから声がかかる。
「そろそろ休憩にしませんか」
「お、いいな!」
リーダーの大工さんも同意する。
ミレットはヴィヴィたち農業班にも声をかけて連れてくる。
みんなで休憩するのだ。
ミレットと数人の信者さんが、お茶とお菓子を持ってきてくれた。
もう秋とは言え、動いていると汗をかく。お茶がとてもうまい。
「わーい」
「りゃっりゃ」
「ありがとう。うまいな!」
コレットやシギも大喜びだ。すごく働いていたティミもうまそうにお茶を飲む。
「モーフィもたくさん飲むのだぞ」
「もっも」
モーフィもお茶をがぶがぶ飲んでいる。農耕牛としてたくさん働いたのだろう。
「ヴィヴィ、畑の方はどうだ?」
「順調じゃぞ」
そしてヴィヴィは建築途中の建物を見る。
「うむ。建物も順調そうじゃな。完成したら魔法陣を描いてやるのじゃ」
「魔法陣ってなんだい?」
大工のリーダーに尋ねられ、ヴィヴィがどや顔で説明する。
「そいつは、すげえや。魔法ってのはすごいもんだなぁ」
「そうじゃろ、そうじゃろ」
みんなで楽しくお茶を飲んだり、お菓子を食べたりしていると、
「何をさぼっておるか!」
臨時補佐に怒鳴られた。
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