第191話

 村を作るならば、道も大切だ。

 どことつなげるかを考えなくてはならない。

 クルスが、地図を広げる。


「うーん、そうですねぇ。この辺りに向かって道を作りましょうか?」

「なるほど、それがいいかもしれません」


 クルスが指さしたのは、領主の館のある場所だ。

 領主の館は、クルス領の中心にある。

 近くにはクルス領で最大の街もあるのだ。人口1万人ほどの街である。


「あとはこっちかなー?」

「なるほど。よくわからないのでお任せします」


 よその領とつなげるとなると、色々と手続きが面倒になる。

 だからまずは、クルス領内と道でつなぐ予定だ。

 俺は道予定地を見ながらクルスに尋ねる。


「この辺りって山があるよな。トンネル掘る? 迂回する? 山道でもいいぞ」

「迂回ですかね。トンネルはアルさんに任せればすぐに掘れるでしょうが、維持が大変ですし」

「やっぱりそうか」


 地図を見ていたヴィヴィが言う。


「川には橋もかけたほうがいいのじゃ」

「そうだね。でも橋建設の着手は専門の技術者が来てくれてからのほうがいいかも」


 魔法で木材を組み立てて、魔法陣で補強すれば、橋も何とかなるとは思う。

 だが、橋は落ちたら、とても困る。専門家も呼ぶべきだろう。


「もっも!」


 相談していると、モーフィがやってきて鼻で俺の横腹をつんつんした。

 おそらく、早く農具を出せと言っているに違いない。


「もう!」


 モーフィの鼻息は荒い。

 すぐに開墾作業に入りたいのだろう。


「畑をどこにするかはもう、決められましたか?」


 俺は司祭とクルスに向けて尋ねる。


「ええっと、家を建ててから畑に取り掛かろうと思っていまして」


 司祭は申し訳なさそうに言う。

 クルスも司祭に同意する。


「もう秋ですからねー。植え付けも春の予定ですし……」

「後回しになるかー」

「もー……」


 モーフィは意気消沈している。

 そんなモーフィを撫でながらヴィヴィが言う。


「いや、春からでは遅いのじゃぞ! 魔法陣で土壌改良するのは早く始めた方がいいのじゃ」

「それもそうだね。ヴィヴィちゃん、畑にするなら、どこがおすすめ?」


 クルスに聞かれて、ヴィヴィがアドバイスを始めた。


「もっ!」


 モーフィもそれを横で聞いている。

 俺はそんなモーフィに呼びかけた。


「モーフィ、モーフィ」

「も?」

「こっちおいで」

「もう」


 モーフィを撫でながら言う。


「建物の場所を決めて、それから畑の場所を決めるから、作り始めるのは早くても明日になる」

「もっ」

「だから、とりあえず道を作ろう」

「もう!」


 モーフィは納得したようだ。

 そこで俺はクルスと司祭に呼びかける。


「道を切り開くために、木の伐採とか始めちゃっていいかな?」

「お願いします」

「アルさん、この方向に、道を作るので、ずばってお願いします」


 クルスはよくわからない擬音で道を敷設する場所を指示してきた。


「了解!」

「もっも!」


 モーフィを連れて、道予定地へと向かう。フェムもついてきた。

 ふと、懐の中に目をやると、シギが眠っていた。

 シギは赤ちゃんだから昼寝をするのだ。


「モーフィ。大きくなってくれ。森を切り開いていくぞ」

「も!」


 モーフィは返事をすると、すぐに大きくなった。


「もおおおおおおおおおおおおお」


 一声鳴くだけで、空気が震える。


「ひえええ」

 向こうの方で、誰かが悲鳴を上げている。

 だが、クルスたちが対応してくれるだろう。


「モーフィ、この方向だぞー」

「も!」


 モーフィは角を木の根の下に無理やり、ずぼっと突っ込んだ。


 それから、

「もう!」

 力づくでひっこ抜く。ものすごい力だ。


 そのあと、モーフィはこっちを見て首をかしげる。

 これでいいのか聞いているのだ。


「も?」

「すごいぞ! モーフィ。だが、無理はするなよ」

「もう!」

「引っこ抜いた木はこっちに任せてくれ。横に置いておくから、後でまとめて運ぼう」

「もっ!」


 モーフィは次々と木を抜いていく。

 俺はフェムに乗って、魔法で木を並べつつ、木の抜けた穴をならしていく。

 たまにある根が特に深い木はモーフィと俺が力を合わせて抜いた。


「GArrrr……」


 途中、魔熊が出てきたが、モーフィの威容を見てすぐ逃げた。


『この辺りの熊は情けないのだ』

「いやあ、モーフィとフェムを見たら普通逃げるだろう」

「わふう」


 フェムは魔熊をビビらせたことが嬉しいのか、尻尾を振る。


「もっもー」


 モーフィはご機嫌だ。久しぶりに大きくなれて、嬉しいのかもしれない。

 運動不足だった可能性もある。


「モーフィ、大きくなりたかったら、いつでも大きくなっていいんだぞ」

「も?」

「もちろん、家の中とか、村の中ではだめだけどな」

「もう」


 木を抜きながらしばらく進むと、川につく。

 橋を架ける予定のところだ。


「もがふがふがふ」

「わふっはふっはふっ」


 モーフィとフェムは川の水をごくごく飲む。

 運動して喉が渇いたのだろう。

 俺はフェムから降りる。


「しばらく休憩するかー」

「も!」

「わふ」


 大きなまま、モーフィは横になる。

 その姿勢で、近くの木の葉をバクバク食べた。

 寝っ転がっていても、モーフィはとても大きいので口元に木の葉が来るのだ。

 食べた後にすぐ寝ると牛になるとはいうが、牛は寝たまま食べるらしい。


「休憩したら、いったん戻ろうか」

「もっも!」

「わふう」


 俺がそういうと、モーフィとフェムは機嫌よく鳴いた。

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