第190話

 次の日の朝食の後、俺たちは死神教団の本部に向かうことになった。

 同行するのは、クルス、チェルノボクの他に、ヴィヴィとモーフィ、ユリーナである。

 当然、シギショアラも一緒だ。俺の懐に入っている。


「さて行くのじゃ!」

「も!」


 ヴィヴィとモーフィが一番気合が入っていると思う。

 ヴィヴィはつなぎの作業着に麦わら帽子という、農作業モードだ。

 モーフィは背に一杯農具を乗せている。


「モーフィ。農具、魔法の鞄に入れるか?」

「もっ? も!」


 モーフィは多分「いいの?」的な感じに鳴いている。


「いいぞ。余裕はすごくあるんだ」

「もう!」


 俺はモーフィの背に山盛りになった農具を魔法の鞄に入れていった。


 転移魔法陣のある倉庫の前まで行くと、ティミショアラとフェムが待っていた。


「あれ? ティミは極地に行かなくていいの?」

「いいぞ。今日は休みだからな。な! シギショアラ」

「りゃっりゃ!」


 何が、「な!」なのかわからないが、休みらしい。

 シギも嬉しそうに鳴いている。


「フェムも一緒に来てくれるのか?」

「わふ」


 一緒に行くのは当然。フェムは、そう言っているような目をしている。


「ありがとうな。助かる」

「わふう」


 フェムはぶんぶんと尻尾を振った。



 転移魔法陣を通って、教団本部に到着すると、司祭が待っていた。


「みなさま、おはようございます」

「お待たせしました!」

「いえいえ、まったく待っておりません」


 司祭とクルスがにこやかに挨拶を交わす。

 昨日、司祭はクルスと話して、今日俺たちが来ると知っていたのだろう。

 だから待っていたのだ。とても律儀だ。


「ぴぎっ!」

「主上もありがとうございます」

「ぴっぴぎ」


 チェルノボクは司祭の肩の上に乗った。


 それから建物の外へと移動する。

 部屋から出る前に、チェルノボクはクルスの懐に入った。

 チェルノボクは移動するときは基本、クルスの胸元らしい。

 たしかに、急に司祭がスライムを連れ歩いたら教徒が不審に思うだろう。

 その点クルスなら安心だ。だれも怪しまない。



 建物の外に出た後、ヴィヴィが司祭に尋ねた。


「村はどのあたりに作るのじゃ?」

「はい建物を中心に、作って行こうと思っています」

「ほうほう」


 真剣な顔で、ヴィヴィが周囲を見回している。

 畑に適した場所などを探しているのだろう。


 俺も司祭に尋ねてみた。


「村人の人数はどのくらいになる予定なのですか?」

「300名ほどです」

「……多いですね」


 ムルグ村が建物60軒、人口200人ぐらいだ。それよりも多い。

 その分、ムルグ村より畑も広くする必要がある。

 そんなことを考えていると、さらに司祭が補足する。


「もう少し増えるかも知れません」

「なるほど」


 死神教徒を弾圧する地域もある。

 それが広がれば、逃げてくる教徒も増えるだろう。


「畑は村の中に作るのですか? それとも外に作るのですか?」

「それもまだ決めかねているのです」

「そうでしたか」

「あいにく、私も素人で……。申し訳がありません」


 司祭は謝るが、普通みんな村づくりの素人なのだ。気にすることでもない。

 クルスが真剣な顔で言う。


「ムルグ村の畑は村の外にありますよね?」

「そうだな」

「やはり、畑は村の外に作った方が便利なのですか?」

「村の外に作った方が、拡張性は高くなるよな」

「ほほう。これからも教徒がふえるかもなので、拡張性は大事かもですね」


 ヴィヴィが地面の土などを調べながら言う。


「だが、動物に荒らされやすくなるのじゃ」

「ほむ」

「それに水利の問題も大切じゃ」

「水利?」

「水は人が生活するにも、畑を作るにもとても大事じゃからな。水利の観点から設計したほうがいいと思うのじゃ」

「なるほど」


 考え込むクルスと司祭に向かって、ヴィヴィが言う。


「近くに川はあるのかや?」

「あ、それならば、あちらに……」

「井戸はどうじゃ?」

「いまある教団の建物で使っているものが一つ」

「ふむ。ならば掘れば使えるかもしれぬのじゃ」


 そんなことをいいながら、みんなで近くの川へと向かう。


「ヴィヴィ、どう思う?」

「うむ。悪くない地形じゃ」

「それはよかった」

「じゃがのう……」


 ヴィヴィは難しい顔をした。


「どうした?」

「土質がムルグ村より良くないのじゃ」

「やっぱり魔鉱石?」

「うむ……。旧魔王領も近いしのう。仕方ないのやもしれぬが……」


 それを聞いてクルスが言う。


「牧畜も考えるべきかも?」

「そうじゃなぁ」

「ヴィヴィ、魔石精製魔法陣は?」

「それももちろん使うつもりじゃ。だがここまで魔鉱石密度が高いと、効果が出るまで、年単位の時間がかかるのじゃ」


 それからは相談して、どこに何を作るか決めていった。

 教団の村では牧畜と畑を両方やることに決まった。

 相談が終わったころ、どこかに消えていたフェムが戻ってきた。


「わふぅ」


 どや顔のフェムは、口にクマを咥えていた。

 普通のクマではない。魔獣のクマである魔熊だ。


「なんと……」

 司祭は驚いていた。


「魔熊多そう?」

『多いのだぞ。普通のクマも少しいるのだ』


 フェムが言うには、魔獣も結構多いようだった。

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