第187話

 B級冒険者パーティーであるアントンたち兄妹が去ってから、ミレットがやってくる。

 コレットも一緒だ。


「おっしゃーん。きたよー」

「アルさん。魔法教えてもらいに来ました」

「おお、熱心でよいことだ」


 俺はミレットたちに基礎的な練習法を指導する。

 魔法そのものの習得よりも、魔力を扱う練習を重視している。

 それが、結果的には上達の早道だと思っているからだ。


「いつものように、魔法体操からだぞー」

「はい!」

「コレット、上手になったよ!」


 魔法体操は俺がこの前考えた、画期的な訓練法である。

 身体を動かしつつ、意識的に魔力を循環させることで、体内魔力を活性化させるのだ。


 上手になったと自分でいうだけあって、コレットは確かにうまくなっていた。


「いつも朝と夜にやっていますからねー」

「やってるんだよー」


 俺が指導できない時も練習していたらしい。

 熱心な生徒である。


「わふぅ、わふ」


 フェムもコレットの横で何かしている。体操をしているつもりなのかもしれない。

 フェムは身体の構造が人間とは違うので体操の効果があるとは思えない。

 フェム向けにも何か練習法を考えようと思う。


 基礎練習の後、実際の魔法を少し教えた。


「念話を教えよう」

「念話って、フェムちゃんがよく使っているあれですね?」

「おっしゃん、コレット、念話使いたい!」

「うむ、念話の使い方だが……」


 俺が説明すると、ミレットたちは真面目な顔で聞いていた。

 フェムは俺の横で鼻息を荒くする。


『フェムもできるのだぞ。なんでも聞いていいのだぞ』

「ありがとう、わからなかったら聞くね」


 ミレットにそう言われて、フェムは尻尾をぶんぶん振る。

 だが、フェムの出番はなかった。

 コレットもミレットもあっさりと習得してしまったのだ。


「わふぅ……」


 フェムがものすごく残念そうに鳴いた。


「フェム、なにか使いたい魔法とかある?」

「わふぅ……?」


 フェムは首を傾げた。考えているのだろう。

 しばらくたって、フェムが言う。


『火の魔法が使いたいのだ』

「あー、肉を焼くのに便利だものな」


 魔狼たちも焼いた肉が好きなのだ。

 フェムが火炎魔法を使えると魔狼たちも喜ぶだろう。


 ちなみにミレットとコレットは簡単な火の魔法ぐらいは使えるようになっている。

 フェムに火の魔法の使い方を教えながら、ミレットたちにも復習させた。


 しばらく練習すると、

「わごおおおおおおお」

 フェムが口から炎を吐いた。

 そしてどや顔でこちらを見る。


「……さすがは魔天狼だな」

「わふぅ」

「こんなに早く習得されるとは思わなかった」

「フェムちゃんすごーい!」


 コレットに抱き着かれて、フェムは誇らしげだ。

 もともとフェムは魔力弾を撃てた。それと火炎魔法は基本が同じなのである。

 その魔力の質を変えるだけだ。


 だが、センスがないと、習得に時間がかかる。


「フェム。なかなかセンスあるぞ」

「わふふ」

「次は水魔法だぞ。水魔法を使えるようになるまでは、俺のいないところで火炎魔法使うのは禁止な」

「わふ!」


 いい返事である。

 火炎魔法で火事を起こさないためには、水魔法の習得は必須なのだ。


 フェムたちに水魔法を教えている間に夕方になる。

 ヴィヴィたちが極地から帰ってきたので、魔法の練習は終わりになった。


 転移魔法陣のある倉庫から出てくると同時にシギショアラが飛んでくる。

 羽をパタパタさせて、ふわふわとやってきて、俺の胸元にひしっと抱き着く。


「りゃっりゃ!」

「シギ、いい子にしていたか?」

「りゃあ」


 シギは頭を俺にこすりつけてくる。

 よく考えたら、一日近くシギと離れたのは、初めてだったかもしれない。

 卵から孵ったばかりのころは、俺の姿が見えないと泣いて大変だった。

 成長したものである。嬉しいが、少し寂しい。


「シギは偉いな。可愛いな」


 思う存分撫でまくってやった。


「りゃありゃ」

「どうした?」

「りゃ」


 シギは俺の懐の中に、もぞもぞと潜っていった。

 甘えたいのだろう。

 服の上からシギを優しくポンポンと叩いてやる。


 出てきたティミショアラに尋ねる。


「シギはどうだった? いい子にしてたか?」

「うむ。いい子で可愛かったぞ」

「そうか。それはよかった」


 ティミには立派な古代竜となる教育をシギに施してもらわなければならないのだ。

 これから、ティミと一緒にシギが極地に行くことも増えるのだろう。


 ティミからシギの様子を聞いていると、モーフィにのったヴィヴィが出てきた。

 ヴィヴィは疲れきっている。


「もっも!」


 モーフィが走ってきて、甘えるように鼻を押し付ける。


「モーフィ。お疲れ様」

「もぅ!」


 そして、俺はヴィヴィに尋ねる。


「特訓の調子はどうだ?」

「うむ。だいぶ耐えられるようになってきたと思うのじゃ」

「そうか」


 ヴィヴィの頭を撫でてやった。

 疲れ切っているからか、いつものように「やめるのじゃあ」とは言わなかった。


「無理はするなよ」

「余裕なのじゃ」


 ヴィヴィは強がる。

 そんなヴィヴィの頭を撫でながらティミが言う。


「本当に成長が著しいぞ。もう大概の魔獣の咆哮には耐えられるだろう」

「大概の魔獣か。グレートドラゴンとかはどうだ?」

「余裕であろうな」


 それはすごいと思う。竜種の咆哮に耐えられるなら、本当に大概大丈夫だ。


「耐えられない魔獣って言うと何があるんだ?」

「古代竜とかだな」

「それは仕方がないのでは?」


 古代竜の咆哮に耐えられる人間なんて、勇者パーティーの一員ぐらいである。


「ほんとにすごいな」


 そういって、俺はヴィヴィの頭を優しく撫でた。

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