第78話

 夜明け前に襲撃を受けたせいで、完全に目が覚めてしまった。

 二度寝したいところではある。だが、二度寝したら衛兵の時間に起きるのがきつそうだ。

 それに壁が壊れている部屋で寝るのもどうかと思う。


 だから、朝食を食べて、早めに村の門の横に座る。

 シギも一緒だ。りゃーりゃー鳴いている。可愛い。


 ぼーっと門の横で衛兵していると、フェムがやってきた。

 魔狼たちを連れている。


『シギショアラに魔狼たちを紹介しようと思うのだ』

「フェム。ありがとう。頼む」

「わふ」


 魔狼たちが、一頭ずつシギのところにやってきて匂いを嗅いでいく。

 シギも嬉しそうに翼をバタバタしていた。


 狼たちにとって匂いを嗅ぐというのはとても大切な行為なのだろう。

 これで仲間だと認識してくれたのならとても嬉しい。


 しばらくしたら村長がやってきた。


「アルさん。今朝はどうしたんですか?」

「村長わざわざ出向いていただいてありがとうございます」


 最近、村長に来てもらってばかりだ。

 筋としては、こっちから報告に出向くべきだ。気を付けよう。


「お気になさらず。って、可愛いですね」

「りゃー」


 村長はシギをみて目を細めた。


「今朝の騒ぎはこの子にも関係あるのですが……」


 俺はシギは親を亡くしたかわいそうな古代竜(エンシェントドラゴン)の子供なのだと説明した。


「えんしぇんと? どらごん? って何ですか?」

「えっと、ものすごく珍しいドラゴンです」

「なるほど」


 村長は納得してくれたようだ。

 古代竜はめったに見かけない。だから普通の人は知らなくても仕方ないのだ。


 俺は今朝の騒ぎは貴重な古代竜の子供を誘拐しに盗人が襲いに来たと報告した。


「そうですか。それは恐ろしいことです。かわいそうに怖かったでしょう」

「りゃー」


 村長は優しくシギを撫でていた。


「犯人はルカが連行していったので大丈夫です」

「なるほど、ルカさんが。それは安心ですね」


 村長は、冒険者ギルドに連行したなら、後は任せて大丈夫だと思っているのだろう。

 ルカが冒険者ギルドの人間だということを、村長は知っているのだ。

 お偉いさんだとは知らないが。


「壁、壊れちゃいましたね。直すのに人手は必要ですか?」

「いえ、あの程度なら大丈夫です。午後から修繕させていただきたいので、衛兵業務の方なのですが……」

「ああ、それは全く問題ありません!」


 村長の許可が出た。これで午後からは思う存分壁を直せる。



 村長が去った後、入れ替わりになるように、モーフィに乗ったヴィヴィが来た。

 牛の世話を終えたのだろう。


「アル。意見を聞きたいのじゃ」

「なんの?」

「魔法陣について」


 ヴィヴィは地面に魔法陣を描いていく。

 建物を強化する系の魔法陣だ。


「これが今まで衛兵小屋にかけていた魔法陣なのじゃ」

「うん、よくできてる」

「だが、あっさり破られてしまったのじゃ」


 魔人に壁を破壊されたことが悔しいのだろう。

 だが、魔人はとても強いのだ。


「魔人だったからな。仕方ないだろう」

「わらわは魔人ごときに負けたくないのじゃ」


 ヴィヴィは燃えていた。その熱意には、こたえたいと思う。

 俺も全力で知恵を絞る。

 ヴィヴィと二人で渾身の魔法陣を設計していった。


 設計に没頭している間に、昼前になった。

 ちなみにその間に何度かシギにご飯を食べさせた。


「完成したのじゃ」

「うむ。これはなかなか良い出来だと思う」

「自信作なのじゃ」


 完成した魔法陣はこれまでのものより、はるかに強力になった。

 昨日の魔人ごときでは、破壊できないものになったと思う。



 昼食後、壁の修復をする。


「レンガのあまりは、まだあったよね」

「確か入会地の共通資材置き場に置いておいたはずなのじゃ」


 小屋を建てるときにレンガは多めに作っておいたのだ。

 モルタルも多めに買っておいたので資材は大丈夫だ。


「一気に直すぞ!」

「おー」

「もぅ!」「わふ」「りゃー」


 魔法でてきぱきなおしていった。

 三十分後。


「あっさり終わってしまった」

「気合いれたのに、あっさりだったのじゃ」


 一度、作った後だからか効率よく直せた。

 壊れたのは壁の一部だけだったのでなおす範囲も小さかったのだ。


「さて……魔法陣を描くのじゃぞ」

「おう」


 ヴィヴィが真剣な表情で魔法陣を描いていく。俺も描く。

 今回の魔法陣は一緒に開発したので、俺も完璧に描けるのだ。


「これで完成なのじゃ!」

「結構疲れたな」


 魔法陣を描くのに3時間ほどかかった。壁を直すより大変だった。

 だが苦労の甲斐はあったと思う。相当頑丈になった。

 並みの魔人程度の攻撃ならびくともしないだろう。


 俺とヴィヴィが達成感に包まれていると、コレットが走ってきた。


「おっしゃん、おっしゃん!」

「どうした? コレット」

「いもの芽がでてた!」

「おお、芽が出たのか」


 俺はシギを抱いて、フェムに乗って畑に向かう。

 ヴィヴィとコレットも一緒だ。二人ともモーフィに乗っている。


「意外と早いんだな」

「あったかいと早いのじゃ。春はもっと遅いのじゃぞ」

「そうなのか」


 畑に到着すると、小さな芽が出ていた。


「おお……」


 感動してしまった。

 なれない開墾作業。みんなで頑張った牛耕。

 種イモ詐欺にあったクルス。


 それらの苦労が報われたような気がした。


「りゃー」

 俺の感動が伝わったのか、シギは畑を見て羽をバタバタしていた。


「なに感動しているのじゃ。収穫まで油断できないのじゃぞ!」

「そうだな」

「だが、気持ちはわかるのじゃ」

 ヴィヴィの目は優しかった。


「もうもっ」

 モーフィが畑に少し生えている雑草だけをパクパク食べてくれている。


『ネズミは任せるのだぞ』

「フェムありがとう」

『フェムぐらいになると、鳥も捕まえられるのだぞ』

「それはすごいな」


 フェムは自慢げだ。

 地面に降りてきた鳥を捕まえられるとはさすが魔狼である。


 畑の成果を見た後、俺たちは気持ちよく衛兵小屋へと戻った。


 小屋でルカが待っていた。まだ早い時間なのに珍しい。


「ルカ、どうした。今日は早いな」

「ちょっと報告しないといけないことがあるのよ」

「どうした?」

「昨日の魔人、盗人とは別かも」


 ルカはとても深刻な表情をしていた。

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