第66話

 俺は竜たちを魔法のかばんに放り込む。

 今回はあまり解体していない。ルカが調査しやすいようにだ。


 作業はあえてゆっくり行う。

 モーフィに抱きついているヴィヴィが落ち着くの待つためだ。


 作業が終わった後、ヴィヴィに尋ねる。


「ヴィヴィ。大丈夫か?」

「大丈夫なのじゃ」


 気丈にもヴィヴィはそういって胸を張る。

 だが下半身はびしょびしょだった。


「えっと、一旦村に戻ろうか」

「なぜじゃ! まだ解明されておらぬのじゃ!」

「ヴィヴィがそういうならいいけど……」


 ヴィヴィが漏らしていないというていを固持するなら、俺は尊重したいと思う。


「フェム。周囲に強そうな魔獣の気配はある?」

『あるのだ』

「そうか。とりあえず狩りながら行くか」

「わふ」


 俺たちは周囲を探索した。

 その過程で竜種や熊、バジリスクにヒドラなど、多様な魔獣と遭遇して撃破した。


「やはり魔獣が多すぎるな」

「そうじゃな」

「フェム。もともとこの辺りの魔獣の生息数と比べてどう?」

『とても多いのだ。3倍ぐらいいるのだ』


 3倍とはただ事ではない。

 そして、遭遇する魔獣には、このあたりを生息域としていないものも多い。


 走っていたフェムが突然止まる。

 耳をピンと立て、鼻をひくひくさせている。


「どうした?」

『腐肉……いや、血と骨の臭いなのだ』

「ふむ。ちょっと向かってみて」


 フェムが案内してくれた先には、大量の骨があった。

 竜種の骨だ。地竜や、ワイバーンの骨もある。熊やバジリスクの骨もある。

 血はついているが、肉は残っていない。


「一体これはなんじゃ?」

「調べてみよう」


 骨には歯形が残っている。肉はこそぎ取るように食べられていた。


「ふむ。飢えた魔獣の食事後だな」

「地竜が捕食されるのかや?」

『歯形と臭いから考えて、食べたのも地竜なのだ』


 臭いを嗅いでいたフェムが言う。

 となると、飢えた地竜どうしで共食いをしたのだろう。


 おそらく、ゴブリンや魔鼠などの魔獣はすでに食い尽くしたのだろう。

 その過程で、ゴブリンたちは魔狼の群れの縄張りに逃げ出したのだ。

 弱い魔獣がいなくなり、餌がなくなり徐々に強い者同士で戦ったのだろう。


「餌が足りなくて同種同士で共食いするなど、恐ろしいのじゃ」

『共食いではないかもなのだ。これは死体食いかもしれないのだ』

「ふむ?」


 竜種は普通そんなことはしない。誇り高き竜種は、そこらに落ちてる死骸を食べたりしない。


『綺麗すぎるのだ。戦って死んだのなら骨が砕けてたりするものなのだ』

「なるほど」


 フェムの指摘を受けてから改めて調べると、確かにきれいだ。

 歯形はついているが、それは肉をこそぎ取るためについたといった感じだ。

 戦闘の際についた歯形ではなさそうだ。


「ふむ。なんで死んだのじゃろうか?」

「調べてみないとわからないな。骨も持ち帰ろう」


 俺は骨を魔法のかばんに入れていく。


「それにしてもよく入るかばんじゃな」

「高いやつだからな」


 かばんには、まだかなりの余裕がある。


 骨を調べていたフェムが言う。


『飢え死にだとおもうのだ』

「なんでそう思う?」

『血に含まれる魔力がうまくなさそうなのだ』


 魔力を餌にできる魔獣ならではの感覚だ。

 魔導士は魔法の痕跡はわかるが、魔力の味はわからない。


「うまくなさそうってのは、魔力濃度が低いってこと?」

『たぶんそうなのだ』


 それを聞いていたヴィヴィがつぶやく。


「飢え死にするぐらいなら、移動すればいいのじゃ」

「仮に飢え死になら、そうできない理由があったんだろうな」

「理由ってなんじゃ?」

「ここに逃げてきたが、魔狼の縄張りがあって、それ以上進めない。そんな状況だったのかもしれない」

「地竜が逃げてきたというのかや?」


 ヴィヴィが顔をしかめる。

 地竜が逃げ出すということは、それ以上に強い何かから逃げ出したということ。

 恐ろしい話だ。


「もしそうなら、魔狼の縄張りに突っ込んだ方がいいのじゃ」


 ヴィヴィはそういうが、魔狼王に率いられた魔狼の群れは強い。

 竜種であっても、相手にしたくない相手だ。

 死肉であっても、餌があるなら戦いたくないに違いない。


「魔狼は強いからな。それでも、こっちに攻めてくるのも時間の問題だったかもしれない」

『そうなったら撃退してやったのだ』


 フェムは力強くそう言う。

 魔狼の群れなら善戦するだろう。だが犠牲者もたくさん出たに違いない。


「それにしても、地竜が逃げ出すって余程なのじゃ」

「そうだな。逃げ出した原因を見つける必要がある」

『わかったのだ。強そうな気配を探すのだ』


 フェムの案内で、夕方まで周囲を探索する。

 だが、地竜が逃げ出すほどの相手には出会えなかった。


「野宿するのじゃな?」

「いや、帰るぞ」

「なぜじゃ? 早く原因を突き止めねばならぬのであろ?」

「明るいときに見つけられなかったのに、暗くなった後に見つけられる可能性は低いからな」


 フェムやモーフィは鼻が利くが、人間はどうしても目に頼らざるをえない。

 それに、ヴィヴィの下半身は汚れたままだ。早く着替えたいだろう。

 俺たちは一度ムルグ村に戻ることにした。

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