第60話

 午後になった。昼食後、小屋の建築を始めることになった。

 魔法で小屋を建てると言ったせいか、村人たちまでやってきている。

 期待のこもった目でみんなが見てくる。


「魔法で、家建てるとかできるものなの?」

「普通に考えたら、難しいのではないか。だがアルさんだからな」

「そうだな、アルさんだからな」


 村人たちが小声でそんなこと言っている。

 恥ずかしい。

 それほど派手なことをするつもりがないので、がっかりさせることになりそうだ。


 ミレットとコレットの姉妹はどや顔をしていた。


「そうです! アルさんですからね」

「おっしゃん、すごいんだよ!」


 煽るのはやめていただきたい。


 これ以上、期待が膨らむ前に正直に言う。


「えっと、皆さん。ご期待のところ申し訳ないのですが、魔法でばーんと建てるわけじゃなくてですね」

「ほうほう。そうなのですか?」

「粘土を採ってきて成型して、レンガを作って積み上げるといった感じで」

「ほうほう!」

「アルさん、すごいです」

「さすがおっしゃん」


 村長をはじめとした村人たちは、ますます興味を示している。

 ミレットとコレットの姉妹も、目をキラキラさせている。


 俺はさらに念を押す。


「地味な作業ですよ?」

「またまたー、ご謙遜を。魔法でレンガを作るなんて、すげえよ。なぁ?」

「ああ、そうだな」「死んだ爺さんに見せてやりたかった」


 俺は、期待をしぼませることはあきらめた。


 フェムに粘土質の土が採れる場所を教えてもらい運搬する。

 粘土質の土を圧縮して成形し、乾かして焼く。

 そのすべて魔法でやるのだ。


 ヴィヴィの担当はレンガ焼きだ。

 俺が粘土を集めたり成型してたりしている間に、レンガ焼成魔法陣を作成してくれた。


「魔導士はレンガ焼き職人としても一流だということを見せてやるのじゃ!」


 ヴィヴィはとても張り切っていた。


 ヴィヴィが魔法陣を起動すると赤い炎の柱が立ち上がる。

 炎の柱は赤から白に近づいていく。

 見た感じ、かなり高温になっているはずだ。だが、こちらに熱が伝わってこない。


「すごい炎なのに、熱くないな?」

「ああ、たまげたもんだなぁ」「死んだばあさんに見せてやりたかった」

「してんのーすごーい」

「もぅもぅ」


 ヴィヴィの魔法陣を見て村人は大喜びだ。

 コレットとモーフィも大喜びではしゃいでいる。


 俺が粘土質の土を運んだり成型していた時より村人の反応がいい。


「やはり炎は華があるな」

「であろ?」


 ヴィヴィはどや顔だった。


 一日目はレンガを作り終えて終わった。


――――――――

 二日目は作ったレンガを積み上げる作業に入る。

 レンガはそのまま積み上げるわけにはいかない。モルタルで接着する必要がある。

 モルタルは村にある分では足りないので、ルカに頼んで手配してもらうことにした。


 昼前、満面の笑みでクルスがやってくる。

 そして、魔法のかばんからモルタルを出していく。


「モルタル買ってきましたよー」

「クルス。ありがとう」


 クルスは種イモを買いに行ったとき詐欺に引っかかった。

 だから、念のためにモルタルをチェックする。

 良質のモルタルだった。


「どうですか? アルさん」

「うん。いい品だと思う。ちゃんと買えたんだな」

「はい。ルカの紹介の店の前で、おじさんに話しかけられたのですが」

「なんだと?」

「ルカの紹介の店はぼったくりで粗悪品だって言われて」


 同じ流れだ。心配になる。

 全身からあふれ出す、クルスのちょろそうな金持ち臭が詐欺師を引き付けるのかもしれない。


「でも、今回はちゃんと断りました!」

「そうか。偉いな」


 クルスは成長していた。

 それは小さな変化だが、大きな一歩だ。

 俺はクルスをいっぱい撫でてやった。 


「えへへ」

「もぅ」「わふ」


 モーフィとフェムが自分も撫でろと要求してくる。

 俺がモーフィたちを撫でていると、ヴィヴィがやってくる。



「クルス。仕事はいいのかや?」

「このまえのお休みに地竜とか倒したから、午後は休んでいいって」

「なるほどなのじゃ」


 今回も村人たちの見守る中建築作業だ。

 昨日より村人は増えている。農閑期で基本暇なのだろう。


 モルタルを敷き、レンガを並べる。そしてまたモルタルを敷きレンガを並べる。

 その繰り返しだ。単純作業だが、精密さが求められる。

 魔法を使って素早く正確に行うのはかなり大変だ。

 重力魔法を使える俺ならではの芸当だと思う。この技術は少し自慢できるのではないだろうか。


「ほわー」

「早いものだなぁ」


 村人たちの感心する声が聞こえる。

 速さと正確さというのも、わかりやすくて華があるのだろう。


 一方、フェムとモーフィは暇そうに、周囲をうろうろしている。

 クルスも一緒にうろうろしていた。


 俺たちが住むための小屋の近くに、狼小屋も建てた。

 魔狼二十頭が余裕を持って入れる大きさだ。


 概ね建て終わると、ヴィヴィが出てくる。


「さて。建築魔法陣の出番じゃな」

「頼む」

「うむ。任せるのじゃ」


 建物に描く魔法陣は、速さを求められない。

 その分完成度が要求される。

 魔法陣が得意なヴィヴィにとっては、やりがいのある仕事なのだろう。


 ヴィヴィはとても生き生きしながら、魔法陣を描いている。

 だが、その作業自体は地味だ。


 飽きたのだろう。村人の半分ぐらいはどっかに行った。

 俺は、大工に頼んである内装用の木材の加工を手伝っていた。


「描けたのじゃ!」


 数時間後、どや顔のヴィヴィが宣言した。


「ヴィヴィ、お疲れ様。ちなみにどんな効果?」

「うむ。壁と床、天井に断熱と耐火。それに耐衝撃と耐振動じゃ」

「おお、すごい」


 それからヴィヴィはフェムを見る。


「犬ころたちが風邪をひかないように、犬小屋にも描いてやったのじゃ。感謝するといいのじゃ」

『ありがとう』

「ふん」


 フェムが素直にお礼を言った。

 ヴィヴィは顔を真っ赤にしている。


「わふわふわふぅ」


 魔狼たちがヴィヴィに感謝を示そうというのだろう。

 一斉に群がって舐めまくっている。


「やめ、やめるのじゃ! 犬臭くなるのじゃ!」


 そう言いながらも、ヴィヴィは少し嬉しそうだった。


「してんのーすごい」

「ああ、大したものじゃ」「うちにも描いてほしいのう」


 村人たちもその効果を聞いて驚いたようだ。


 そのころには、ルカたちが王都からやってきていた。

 ルカたちも完成の早さに驚いていた。


「結構立派じゃないの」

「うんうん。はやく、わたしとクルスの部屋をみせるのだわ」

「もぅもぅ」


 モーフィが袖を引っ張る。

 みんな、早速、住み始めるつもりのようだった。


「まだ内装は完成してないぞ」

「なんだ、そうなんですね」


 明日、仕上げをすることにして、俺たちはミレットの家へと帰った。

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